福田正博 フットボール原論
■2024年のJ1はヴィッセル神戸の2連覇に終わった。サンフレッチェ広島、FC町田ゼルビアと3チームの争いになったが、優勝を分けたポイントを福田正博氏が解説した。
【神戸で光った選手の経験】
2024年のJ1リーグは、ヴィッセル神戸が優勝したが、振り返ると順風満帆なシーズンではなかった。今季の神戸は8敗したが、そのうちの5敗が開幕から5月までに喫したもの。5月終了時点の戦績は16試合で9勝5敗2分けと、相当厳しい状況にあった。
そこから巻き返せたのは、開幕から首位を快走したFC町田ゼルビアが夏場以降に失速して、優勝への勝ち点が伸びなかった点にある。この間に神戸は故障者が徐々に戦列に復帰し、勝ち点を積み重ねることができた。6月から8月までにあった12試合を5勝2敗5分けでしのぐと、9月からのクライマックスまでの10試合を7勝1敗2分けとし、最終コーナーでライバルを抜き去った。
サンフレッチェ広島、町田との三つ巴の優勝争いで明暗を分けたのは、選手個々の経験の違いが大きい。広島、町田の両チームには優勝経験のある選手が乏しい一方、神戸は大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳といった元日本代表の主力組をはじめ、チーム全体も昨季の優勝経験を生かせた。
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吉田孝行監督の手腕も大きい。神戸はアンドレス・イニエスタを獲得した2018年以降、バルセロナ化に臨むが苦戦した。吉田監督は2022年に3度目となる神戸指揮官に就任すると、最下位に沈んでいたチームを立て直してJ1残留。昨季はハードな守備から大迫と武藤を軸にしてゴールに迫るシンプルなサッカーを植えつけて初優勝。そのメンバーがほぼ変わらず、同じ戦い方で臨んだ今季は、序盤戦こそ故障者が出たことで苦戦したものの、メンバーが揃った秋口からの勝負強さと安定感は抜群だった。
天皇杯も優勝し二冠達成となった神戸は、来季はリーグ3連覇に挑むことになる。来年、大迫と山口は35歳、酒井が34歳になるが、彼らが急速に衰えるとは想像しにくい。今季JリーグMVPになった武藤の去就は不透明だが、仮に抜けたとしても攻撃力のある外国籍選手などを獲得できれば、ネックにはならないのではと思う。チームづくりの根幹となっているのは実績ある日本人選手なため、大崩れはないと見ている。
不安要素はやはりケガだろう。今季も離脱するとチームに大きく影響した山口と酒井のバックアップをしっかりと準備できるかが重要だ。それが実現すれば、Jリーグの歴史のなかで鹿島アントラーズしか成し遂げていない3連覇達成に近づくはずだ。
【優勝を逃した広島と町田の課題】
2位に終わった広島は、終盤の3連敗が痛かった。0−3で敗れた3連敗目の浦和レッズ戦は、象徴的なゲーム展開。立ち上がりから前掛かりにいってチャンスをつくり出して攻め込むものの、ゴールを決められずに逆襲を受けて失点。そこから反撃に出てはまた失点と、流れを引き込めずに敗れ、優勝から遠ざかってしまった。
前半戦は引き分けが多く勝ち点を伸ばせず、6月にチームの柱だったMF川村拓夢(ザルツブルク)、8月に得点源だったFW大橋祐紀(ブラックバーン)が移籍。それでも苦しい状況のなかでクラブが素早くピンポイントに補強した選手たちがしっかり機能し、町田の失速もあって一時は首位に立った。それだけに3連敗がなければと思うが、あの3連敗こそが優勝への重圧だったのだろう。
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広島は今年オープンした新スタジアムのこともあり、優勝してもらいたいと思っていたので残念でならない。広島の中心地に建てられたサッカー専用スタジアムという、最高の環境で戦えるようになっただけに、優勝してサポーターや広島の人たちとともに喜びを分かち合ってほしかった。来季はファジアーノ岡山がJ1に昇格する。中国地方のサッカー熱がさらに高まることを期待している。
開幕からJ1を牽引した町田は3位となったが、リーグをもっとも盛り上げた存在だったのは間違いない。J1昇格1年目で最後まで優勝争いをしたことは、来季への自信にしていいし、監督、選手、クラブスタッフ、サポーターたちにはこの経験を来季につなげてもらいたいと思う。
その来季に向けて言えば、フィジカル面やコンディショニングに課題があるように思う。特に夏場からはチーム全体の強度が落ちたように感じた。故障者が多く出たり、J1という1段上のステージでの戦いという影響もあっただろう。ただ、J2だった昨シーズンも夏場に調子を崩していたのは気になるところだし、改善の余地があると思う。
黒田剛監督のサッカーは、J1最少失点が物語るように守備の強度が生命線になっている。ただ、夏場以降はパッと見ただけでは選手たちがすべきことをしているように映っても、各選手の強度がほんの少し緩み、それがチーム全体で大きな綻びになって失点につながっていた。得点力が決して高いとは言えないチームだけに、来季は勝負どころでも緩むことのない守備を構築し、最後まで優勝争いの主役を張ってもらいたい。
【昇降格チームに見るJ1残留で大切なこと】
来季J2に降格となったのは、18位ジュビロ磐田、19位北海道コンサドーレ札幌、20位サガン鳥栖。まず鳥栖については、「ここまでよく頑張った」というのが率直な思いだ。2012年からJ1を戦ってきたが、ここ数シーズンは開幕前と夏場に主力選手を次々と引き抜かれ、いつ降格してもおかしくない状況にあった。
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それでも若い選手を起用しながら前半戦で勝ち点を積み重ね、後半戦はその貯金を使いながら降格を逃れてきたが、さすがに人材流出が響き、今季は前半戦で勝ち点を奪えずに残留に持ち込めなかった。現有戦力がどれくらいチームに残るか不透明だが、自前で育てた選手たちとともに再びJ1の舞台に戻ってきてもらいたい。
札幌は、開幕前に主力選手をごっそり引き抜かれ、シーズン序盤から故障者も続出し、前半戦で勝ち点を落としすぎたのが最後まで響いた。後半戦はケガ人の復帰や戦力補強で勝ち点を取り戻していただけに、シーズン序盤からもう少しメンバーが揃っていれば違った結果もあっただろう。
2018年から7シーズン、チームを率いたミハイロ・ペトロヴィッチ監督の退任も決まった。会見で「95%、監督のキャリアを終えるかもしれない」と、指導者引退を示唆していたが、2006年途中から監督就任した広島を皮切りに、浦和、札幌で見せた指導力を欲するクラブはあるはずだ。まだ67歳、本人をその気にさせることができるかどうか。もうしばらく"ミシャ"のサッカーをJリーグで見たいと思う。
磐田は昨季のJ2を2位で勝ち上がったが、今季は開幕前に移籍したMFドゥドゥ(ジェフユナイテッド千葉/現登録名エドゥアルド)の抜けた穴が痛かった。昨季、FWジャーメイン良、MF松本昌也と並んで9ゴールを挙げたチーム得点王が不在となり、代わりに獲得した外国籍選手が思ったような活躍ができなかったことで、昨季J2で3位のチーム総得点を稼いだ攻撃陣はJ1では最後まで鳴りを潜めたままだった。ジャーメインがJ1でも通用するところを見せただけに、「ドゥドゥがいたら......」となおさら思う。
J2からJ1に昇格するには、得点力の高いチームをつくることが最短距離だが、J1でその得点力が通じない時にチームが機能不全に陥る脆さがある。逆のパターンが東京Vだ。昨季J2での総得点はリーグ9番目だったが、総失点数はリーグ最少。堅守を武器にJ2で3位になって昇格プレーオフを勝ち上がると、今季のJ1ではその守備力をベースにして6位となった。
町田のように得点力・守備力ともに他を圧倒するチームをつくってJ1昇格ができればいいが、予算などの兼ね合いで全クラブがそれをできるわけではない。限られた予算のなかでJ2を勝ち抜くための得点力と、J1昇格後に残留するための守備力のバランスを取りながらチームづくりをし、長いリーグ戦を勝ち抜く。そうした難しさのあるJ2を、磐田、札幌、鳥栖は来季から戦うことになる。
そして、この3チームと入れ替わりで来季は、J2で1位となった清水エスパルス、2位の横浜FCと、5位から昇格プレーオフを勝ち上がったファジアーノ岡山がJ1に昇格する。このオフの戦力補強次第のところもあるが、この3チームが来季のJ1をどう戦うのかは興味深い。
後編「2024Jリーグで目立った選手」>>