顧客による従業員への著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題化する中、政府は企業にカスハラ対策を義務付ける方針を決めた。従業員を守るため、企業はどのような対策を取るべきか専門家に聞いた。
◇多様なカスハラ、実例即し対策を=桐生正幸・東洋大教授
―カスハラ対応宣言する企業は増えている。
2022年に厚生労働省が対応マニュアルを公表し、ようやく企業も本気になったのではないか。ただ、宣言を出したからといってカスハラが減るわけではないし、「毅然(きぜん)とした対応」と言われても、何をどう対応したらいいか分からなければ現場にとっては意味がない。従業員がきちんと行動できる具体的なマニュアルを作ることが重要だ。
―どのようなマニュアルが望ましいか。
「30分以上説明しても駄目だったら、それ以上はカスハラ」といった基準を定め、該当すれば「個人で対応せず、上司に言う」といった組織的な対応の手順を示すことで従業員は安心して働くことができる。
―基準はどのように定めるべきか。
まずはアンケートを行い、過去にどのようなカスハラがあり、誰がどう対応し、どのような結果をもたらし、どれだけストレスを受けたか実態を調べることを勧める。過去事例を全て抽出・分析し、マニュアルに落とし込んでいく。
◇相談増加、企業はマニュアル整備を=香川希理・弁護士、香川総合法律事務所代表
―カスハラに関する相談状況は。
非常に増えている。カスハラという言葉がコロナ禍の少し前から普及してきて、ここ1、2年くらい、相談が爆発的に増えてきた。
―東京都で条例が成立し国も法整備を進める。
これまでも裁判で企業の従業員に対する安全配慮義務違反が問題になることはあったが、条例化などにより義務違反のリスクがいっそう高まる。東京都条例にはカスハラ防止の努力義務が定められており、カスハラで精神疾患を患った従業員が企業を訴える際の根拠として用いられるだろう。義務違反かどうかの判断では、企業がやるべき対策を実施していたかが基準となる。
―具体的にはどのような対策が必要か。
企業としてカスハラにどう対応していくかを考え、基本方針やマニュアルを策定すべきだ。問題が起きたときに、誰にどう相談すればいいかが分かるよう、相談窓口や手順を整備する必要がある。社内研修も実施すべきだ。マニュアルの内容については新たに発生した事例を踏まえて修正していくことも重要だ。
香川希理 香川総合法律事務所代表・弁護士(本人提供)