芝浦の再開発、目指すは「サウナと水風呂」? 人間が「疎外」されない街づくりとは

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2025年01月16日 09:10  ORICON NEWS

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大規模複合開発が行われる芝浦
 今、東京では多くの再開発が進行中だ。様々な場所で工事が進んでいるが、懐疑的に見ている人も少なくない。長年開発が行われ、新規施設が続々オープンしている渋谷ですら、「休む場所がない」と言われてしまっている。そんな中、また一つ芝浦で大規模な開発が進んでいる。「BLUE FRONT SHIBAURA」という通り、海辺を活用したプロジェクトだが、従来の再開発やウォーターフロント事業と何が違うのか? われわれ庶民の居場所はあるのか? 野村不動産の担当者に話を聞いた。

【写真】再開発で芝浦が変わる!?「BLUE FRONT SHIBAURA」完成予想図

■どうせインバウンドや富裕層向けでしょ? 陸と海の大規模開発が進む芝浦

 今、「100年に1度」と言われる規模の再開発が進んでいる東京。最近では2023年に開業した麻布台ヒルズをはじめ、渋谷、八重洲、日本橋、虎ノ門、品川、羽田、中野サンプラザ跡地など枚挙にいとまがない。ここまで再開発が増えている理由として、単純に古いビルの建て替えが必要なことに加え、東京の国際的競争力を高めようという考えもあるようだ。

 これまでの再開発と言えば「インパクト重視で、上物だけを変えて利用者に提供する」というイメージが強かった。また場所によっては、インバウンドの増加もあり「居場所がない」「休むところがない」「富裕層向けばかり」といった声も聞かれる。“最新、おしゃれ”と言われる再開発後の街やビルに、果たしてわれわれ庶民の居場所はあるのだろうか?

 そんな大規模開発が続く東京で、また一つ、新プロジェクトが進行している。浜松町駅周辺を開発する「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」だ。同プロジェクトは、浜松町ビルディングの建替事業として、オフィスや商業施設、ホテル、住宅が入るツインタワーを建設するというもの (ツインタワーS棟は2025年2月、N棟は2030年度に竣工予定)。

 開発はこの建替に留まらない。ツインタワー近くの日の出ふ頭には、船客待合所にカフェ・レストランを併設した「Hi-NODE」(ハイノード)が2019年にオープン。この日の出と晴海を約5分でつなぐ舟運サービス「BLUE FERRY」の運航は、2024年5月から始まっている。陸だけでなく、海も含めての大規模開発が、この「BLUE FRONT SHIBAURA」なのだ。

 これまで様々な大規模開発を見てきた庶民からすると、「また同じようなものか」という、うがった気持ちも芽生えてくる。そんな懸念を、本プロジェクトを手掛ける野村不動産株式会社の芝浦プロジェクト企画部長・四居淳さんにぶつけてみた。四居さんは、同プロジェクトの都市計画手続きが開始された2015年から約10年、企画やコンセプトメイクなどプロジェクトの軸を作ってきた責任者である。

 「確かに様々な再開発によって東京の都市機能はアップグレードされて、都市力が向上していますので、良いことだと認識しています。しかし、人間が人工的にいろいろなものをいじった結果、“人間自体が疎外されている”状況が今、あるのかな、とも思います」と、四居さんは率直に述べる。それでは「BLUE FRONT SHIBAURA」は、“人間が疎外されない”ものになるのだろうか?

 「船に乗っていると自然と笑顔になりますし、子どもさんが手を振ってくると、つい手を振り返したくなります。あの感じって、都市生活にはなかなかないんですよね。そこには“原初の笑顔”があって、世代や性別、所得の差などは関係なく一致すると思うんです。我々は“一人の笑顔を社会の笑顔に変える街”を作りたいし、そのための装置をどう作るのか? というのが根っこの考え方です」(四居さん/以下同)

■渋谷で宮下パークの芝生に集まる若者たち、芝浦の自然も“サウナ後の水風呂”のような存在へ

 “笑顔を作るための装置”をいかにして作るのか? そこで四居さんが考えたのが「Tokyo×Nature」、つまり東京という都市と自然との掛け合わせである。

 「プロジェクトの当初、浜松町駅から徒歩5分の土地に建物を建てるという時、その存在意義は何だろうと考えました。浜松町駅の東側って、海があるんですよね。それまでのウォーターフロントは、水を眺められるけど、水と接するところではありませんでした。でもこの芝浦は、もっと水の気配を感じ、水に近づく要素があってもいいのかなと。しかも、広さを感じることもできます。“360度パノラマ”という言い方をしていますが、水平方向の180度と縦方向の180度を感じられるんですね。都市生活者はコンクリートジャングルの中でストレスフルになっていますが、それを海、空という自然の持つ効果によってチューニングできることを目指しました」

 この感覚は、都内で続々と行われる大規模開発にはなかった側面だろう。多少の“森”感は演出できても、“生の海”は作ることができない。その点、空と海がある芝浦は、都会の中で一歩足を止めることができる特別な場所だ。昨今、再開発が盛んな渋谷では休む場所がなく、若者たちが空と芝生のある宮下パークに集まっている…という話にも通じるものがあるのかもしれない。そんな芝浦で四居さんは、「“何もしないをする”をしてほしい」と語る。

 しかし、デベロッパーの立場としては、当然“何かする”ことも求められるだろう。そう水を向けると、四居さんは「サウナと水風呂」にたとえて説明してくれた。

 「自分は水風呂に入るためにサウナに入っていますが…(笑)。言ってみれば、多くの人々が楽しむ商業施設が高温サウナで、何もせずに自然を感じるTokyo×Nature側の場所が水風呂のようなものだと捉えています。たとえば、ある人が年間5回ほど再開発された施設に行くとして、『5回のうち1回は“水風呂”のような芝浦に行こうかな』と思ったり。そういう新たな選択肢を東京に与えられるとしたら、それは『BLUE FRONT SHIBAURA』の価値かなと思っています」

 サウナと水風呂とは言い得て妙だが、サウナで一汗かいたら水風呂でクールダウンして一息つく…この一息があることで、ストレスフルな現代人は救われるかもしれない。もちろん“何もしない”をする水風呂的な空間も、ただの自然ではない。そこは同社がこれまでのマンション作りなどで培った「押しつけがましくない配慮」が生かされるそうだ。

 水辺と緑と新たな施設を融合させて“何もしない空間”を提供する「BLUE FRONT SHIBAURA」。とかく再開発は、ノスタルジックな原風景を破壊する行為のような捉え方をする人も多いが、同プロジェクトは人々を“原初の笑顔”に戻すという、これまでのイメージとは真逆の取り組みだと言えるだろう。そんな「BLUE FRONT SHIBAURA」には、街づくりとしての考えも背景にあるという。

 「通常、プライベートの対義語はパブリックですが、今後はコモンズ、つまりみんなが使っていい“共有地”と捉えるような認識の仕方もあり得ると思います。デベロッパーが作ったものを『はい、どうぞ』と渡されて、ある意味、受動的に体験するのでなく、コモンズとして自分たちが主体的に関わっていく。これは広島県庁の方から聞いた話ですが、広島市は川辺の活用がとても上手。市民は川を自分たちの庭としてルールメイクをし、きちんと使っている。これは街づくりの有り様としてはとても重要だと考えます」

 そんなふうに地元と連携していく際には、密なコミュニケーションも不可欠となる。そこで本プロジェクトの企画課長・内田賢吾さんは、プロジェクトに参加してからの苦労とやりがいを明かしてくれた。

 「漁業組合、行政、コンサルティング、アート、デジタル、エネルギーなど、さまざまな分野の皆さまとコミュニケーションを取りました。同じ日本語であっても専門性や価値観が異なればコミュニケーションの取り方が違いますが、それらを全部理解した上で開発を進めないといけません。とはいえ、『今こうなっている』ということに縛られすぎても新しいことができなくなる。『自分たちはこういう街を目指したい』という考えを述べ、それを共有して一緒に作ることが大切だと心がけています」(内田さん)

■過密化する東京に水上交通が与える影響は? 提供するのは施設ではなく“選択肢”

 この「BLUE FRONT SHIBAURA」は建物と周辺だけでなく、水上交通にも積極的に取り組んでいくという。東京は電車やバスの交通網が発達しているものの、水上交通に関しては、前述の広島ほど活発とは言えない。人口増加によるタワーマンション建設で駅が過密化し、車の渋滞も含めて地上は限界に達しようとしている現在、水上交通は東京にどんな効果をもたらすのだろうか?

 「現在、日の出―晴海をつなぐ水上ルートも通じていますが、定量の観点だけで見ると、満員電車はそれほど緩和できないと思います。ですが、乗った人のストレスは大きく変わります。電車の代わりに船を選択したり、ダブルデッカーの上が空いたバスに乗ったり、あるいは自転車に乗ったり…そうやって通勤手段を選択するきっかけになる効果はあるのかなと。あえて一駅前で降りて『歩いて会社に行くと気持ちいいよね』とか、多くの人々がいろいろな想像力を健全に持つことができればより良いのかなと思います」(四居さん/以下同)

 こうした“選択”もまた本プロジェクトにとっては大きな意味を持つ。以前、プロジェクトに対するメディアセミナーが行われた際、ある記者から「芝浦地区に来ると何が楽しいと思えるのか? 表参道ヒルズ、六本木ヒルズなどは目的がわかりやすいが、この芝浦地区の魅力が曖昧に感じる」「テーマはなにか?」というストレートな意見も飛んだ。それに対し、四居さんは、サウナ後の水風呂のようにクールダウンできる場所こそが一番の価値であり、昨今「チルアウト」を重視する若者世代にも合致するという。

 「コロナ禍の時、外出するのが怖くても、多くの人々が日の出桟橋の『Hi-NODE』の芝生の広場にいたのを見ました。そんな感覚で、普段丸の内に勤めている人が在宅勤務の際に『BLUE FRONT SHIBAURA』の緑道で過ごしてもいいし、運河沿いをそぞろ歩きしてもいい。そういう選択肢を東京の人々に与えたいんです。結局、再開発で人々に提供できるものって、新しい建物や施設ではなく“選択肢”だと思います」

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  • まず至るところにある見苦しい排除アートの排除と、座れないベンチをちゃんと使えるようにしてほしい。
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