「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権が、外国への援助の一時停止を発表しました。ミャンマーからの避難民が暮らすキャンプでは、深刻な影響が出始めています。
■ミャンマー避難民キャンプ 米支援の病院が突然閉鎖
ミャンマーと国境を接するタイのターク県。4年前の軍事クーデター以降、内戦状態が続くミャンマーからの避難民などおよそ3万人が暮らすキャンプがあります。唯一の病院を訪ねてみると…
記者
「避難民の患者のためのベッドがたくさんあり、きのうまでは人で埋まっていたそうなんですが、もう今は誰もいないです」
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中はほとんどもぬけの殻になっていました。一体、何が起きたのでしょうか。
記者
「今週になっていきなり、(病院が)閉鎖されて活動がストップしてしまいました。理由はアメリカからの資金が止まったためです」
病院の運営資金の多くはアメリカ政府から提供されていました。しかし、トランプ大統領は就任初日に、外国への人道支援や開発援助を90日間凍結する大統領令に署名。
そして26日、アメリカ国務省は「アメリカ第一主義の外交政策に一致するかどうかを検証するためだ」として、対外援助を一時的に停止すると正式に発表したのです。
支援団体の関係者によりますと、この病院はトランプ新政権の方針発表後に閉鎖され、避難民の受け入れを停止。職員らは医療機器などを持って出て行き、ほとんどの入院患者はキャンプ内の住居に帰されました。
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残されたのは酸素の吸入が必要な幼い女の子。酸素ボンベは残りわずかです。
女の子の母親
「娘は酸素の吸入器がなければ生きていけません。呼吸が難しいのです。酸素が必要です。どうか助けてください」
病院の関係者も「突然の出来事で混乱している」と語っています。
病院関係者
「医療体制が脆弱なキャンプにとって命に関わる問題であり、見殺しにするようなものだ」
このキャンプでは、様々な支援団体がアメリカの資金援助を受けています。
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ミャンマー軍に家族や住まいを奪われた苦しみなどから、違法薬物に手を出してしまった人たちのリハビリ施設もそのひとつ。ここも運営が困難になるおそれがあります。
薬物依存症のリハビリ施設 ノウ・ポウさん
「ショックで言葉がありません。私たちはどうすればいいのでしょうか」
世界最大の対外援助国アメリカ。人道支援凍結の影響は世界各地に広がりそうです。
■就任から1週間 これまでに40近い大統領に署名
熊崎風斗キャスター:
20日にトランプ大統領が就任してから1週間以上が経ちましたが、これまで40近い大統領令に署名をしてきました。
・人道支援を目的とした対外援助を90日間停止
・人工知能(AI)に関する規制の撤廃
・中絶に関連する連邦予算を全て停止 など
そして、就任演説では「本日から性別は男と女の2つのみ。これをアメリカ政府の公式見解とする」と話しました。
これまでに、▼多様性・公平性・包摂性を尊重した社会を目指す取り組みである「DEI政策」の廃止、▼トランスジェンダーの兵士に関する入隊などの制限をするなど、さまざまな動きがありました。
■「性別は男女のみ」ジェンダー政策見直しの影響は?
アメリカ国民への影響はどうなるのでしょうか。
これまでパスポートやビザなどの公式書類には、男性、女性、それから、男女以外の性“X”がありましたが、この“X”の記載ができなくなります。さらに、連邦の刑務所や移民収容施設も男性・女性での区別になります。
これまでのトランプ派の動きとしては、▼スポーツ参加の制限、▼性自認に関連するトイレ使用の禁止などが、複数の州で可決されている状況です。
井上貴博キャスター:
トランプ大統領の政策は、理想・理念があるというよりも、支持を固めるための手段という印象です。多様性を「仮想敵」のようなものとして、多様性が逆差別になっていると不安を煽ることで、保守派に向けてメッセージを出し、支持基盤を固められます。トランプさん自身の“確固たる信念”とは違うのかなと思ってしまいます。
萩谷麻衣子弁護士:
そういう(支持を固めるため)こともあると思います。側近に強く保守的なことを進める方がいると、そっちに傾いてしまう危険性もあります。
多様性政策の廃止については、トランスジェンダーなどの保護が強いために実力主義になっておらず不公平、トランスジェンダー保護が女性の保護に繋がらない、というような発言もあるようですが、多様性を保護しないということは型にはまっていない人を差別することに繋がってしまいます。
人道支援の打ち切りもそうですが、トランプ政権の政策は一番弱い人を切り捨てていくことに繋がっていて、すごく心配です。
ホラン千秋キャスター:
男性・女性両方の特徴を持っている人もいると考えると、性自認だけでは線引きできない部分もあると思います。そういう点まで細かく考えているのか、自身のメッセージ性を重要視したいのか…アメリカではリーダーとしてどう思われているのか気になります。
萩谷麻衣子弁護士:
アメリカはこれまで自由と平等の国という建前を取ってきて、それに世界がならってきたところがあると思います。民主主義の同じ価値観を持つ国々が、アメリカに続いて多様性の価値を後退させてしまう可能性があることも非常に心配です。
■企業にも影響 多様性目標見直しの動きも
熊崎キャスター:
トランプ大統領の強烈なメッセージを受けた各企業の対応も見ていきます。
【多様性目標 見直し】
・メタ
・マクドナルド
・アマゾン
【多様性目標 維持】
・コストコ
・アップル
多様性目標の見直しに関しては、各社で対応が分かれてきています。
早稲田大学の中林美恵子教授は「リベラルな理念を掲げていた企業も、政府の方針に歩調を合わせ、多様性目標を見直し始める可能性は十分にある」としています。
井上キャスター:
こういった流れが日本に飛び火するのは嫌だなと思います。性別は「男と女の2つ」だというのは、考えることを諦めている気がします。人間はそんなに単純ではないし、さまざまな文化・考え方があるということをシャットダウンして全部シンプルにする、そして、それに熱狂する人がいるという怖さも感じます。
萩谷弁護士:
そういう考え方に迎合していく流れができることは非常に危険で怖いことだと思います。
今は企業でも多様性が求められていて、人権尊重の中で多様性がどれだけ尊重されているか、投資の判断としても非常に大きいものでした。
「多様性が尊重されていない企業には投資できない」という考え方が、アメリカを中心とした世界の流れだったが、そうした流れが止まることは企業としてのあり方にも問題が出てくるように思うので、すごく心配です。
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<プロフィール>
萩谷麻衣子 弁護士
結婚・遺産相続などの一般民事や、企業法務を数多く担当