【対談連載】京都情報大学院大学・京都コンピュータ学院・京都自動車専門学校 総長・理事長・教授/全国地域情報産業団体連合会 会長/京都府情報産業協会 会長/日本IT団体連盟 代表理事 筆頭副会長 長谷川 亘(下)

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2025年01月31日 08:01  BCN+R

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2024.11.20/京都・京都情報大学院大学 京都本校百万遍キャンパスにて
【京都・左京区発】長谷川さんは話題が豊富で話の展開が速い。小学生の頃に目の当たりにしたという過激派学生と警官隊との応酬のくだりに目を丸くしていたら、話はコロンビア大学教育大学院で学んだという社会調査法に関する手法とルールになっていた。かと思うと、最近の選挙とSNSについて熱く語っておられるという具合。“当たり前”と考えがちなことに鋭く切り込んでいくその思考法は、理路整然として豪快かつ繊細。改めて「自分の軸を持って考える」ことの重要性に気づかされた。
(本紙主幹・奥田芳恵)

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2024.11.20/京都・京都情報大学院大学

京都本校百万遍キャンパスにて

●AIを禁止するのではなくAIの回答を判断する能力を養う

奥田 長谷川さんは教授として、自校で教鞭も執っておられます。今の学生に伝えたいことは何でしょうか。

長谷川 現代は、たくさんある情報の中で、何が正しくて何がそうでないかを分別する能力が大事で、それをどうやって鍛えていくかが課題です。例えば選挙におけるYouTubeの分析の仕方とかね。2000年になった頃からでしょうか。学生たちがあるできごとに対して「裏はどうなんですか」と聞いてくるようになったんです。

奥田 その理由は?

長谷川 インターネットの発展に伴って、自由に発言ができ、かつ発言したことが守られるようになった。そして読み手は、それが本当なのかどうかジャッジする必要性が出てきた。メディアと情報は自分が選ぶものだというマインドになってきたということでしょうね。まさに革命的です。

奥田 なるほど。ではAIについてはどうお考えですか。今後学生たちの学びの中にどのように組み込まれていくのでしょうか。

長谷川 そういう意味では、本学の学生たちはすでに使いこなしていると思います。レポートにも使っていますしね。

奥田 かつてインターネットが台頭した頃、レポートの作成時にネット検索を禁止したということもありました。

長谷川 いわゆる「お受験」で育ってくると、答えがわかっているものを覚えて、その通り回答するのが勉強だと思い込んでいる節があります。でもそれは教科書の通り覚えさせるための上からの目論見。だから自由に検索をしてはいけないという変な思考回路になるのでしょう。

奥田 AIの使用に関しても禁止する向きがあるようですが…。

長谷川 勉強で「AIを使ってはいけない」というのも同じことです。「自分で考えなさい」と言うんだけど、あれは「学校ですり込まれた言葉を使って回答しなさい」という意味ですから。

奥田 教科書通りに覚えて回答する必要はないということですね。

長谷川 覚える、覚えないではなく、AIが出してきた答えがいいか悪いかを判断する力を鍛えないといけない。となると、よほどの文章を読みこなさないといけません。よほどの頭が必要になり、賢くもなりますよね。

奥田 AIが出した答えを判断する頭が必要だと。

長谷川 もう一つ重要なポイントは、生成学的なAIは統計学的な回答に過ぎないということです。インターネット上に表出しているさまざまな言説をまとめて、最も多い主流を押さえているだけ。例えば、ネット上で使われている言葉が多ければ大きく、少なければ小さく表示する表現がありますでしょ?あれは単にネット上に氾濫している言葉をカウントしているだけで、その言葉が意味するところの品質のことは何も考慮、検討されていない。

 米国で発展した社会科学には、社会調査法というのがあって量的(統計学的)な調査と質的な調査の両方で実施することが必要なんです。

奥田 量だけでなく、質的に捉えることが必要ということですね。

長谷川 そうです。質的な調査には、エスノグラフィー、ケーススタディ、インタビューなどいくつか手法がありますから、調べる対象に合わせて手法を選択することが必要になります。

奥田 そういう知識はどこで身につけられたのですか。

長谷川 1996年に入学したコロンビア大学教育大学院です。実に多くのことを学ぶことができました。人生で初めて勉強というものを真面目にしました(笑)。

●習得したITスキルをやりたい“何か”に使えばいい

奥田 今日おうかがいしている京都情報大学院大学は、日本最初のIT専門職の大学院なのですね。

長谷川 はい。両親が築いた京都コンピュータ学院(KCG)を母体として、04年4月に開学しました。03年に創設された専門職大学院の新制度に合わせて設立したものです。

奥田 校舎が新しくて気持ちがいいです。

長谷川 ここは22年に新設されたばかりですからね。

奥田 1階の受付にうかがった際、いろいろな国の学生が行き来されていましたが、今何カ国くらいからいらしているんですか。

長谷川 現在はアジア、欧米、アフリカ、中南米など20数カ国から来た学生が学んでいます。

奥田 グローバルな構成ですね。

長谷川 10年ほど前、シエラレオネ共和国という西アフリカの国から来た学生がいましてね。インターネットで本学を見つけて、日本の文部科学省関係の奨学金を自分独りで取得して入学した。それを皮切りに、同じような経緯でここに来る学生が毎年増えていますね。

奥田 入学のきっかけは何なんでしょう?

長谷川 マンガやアニメが多いのですが、それ以外にも日本の文化や自然を美しいと捉えていたり、日本の技術を尊敬していたり、さまざまです。いずれにしても、自国にこだわらず世界を股にかけて活躍したいと思う若者たちが集ってきています。

奥田 すごい行動力ですね。

長谷川 はい。根性があって視野が広くて実に良いです。

奥田 皆さん卒業されるとやはりITの業界に?

長谷川 いろいろです。実はすぐそこにうちの卒業生がやっている中華料理店があるんですが、彼は在学中に結婚して卒業と同時に中華の店をはじめ、今は3軒経営していますよ。

奥田 IT業界とはつながらないような(笑)。

長谷川 いやいや。SNSを駆使して店のPRとかしています(笑)。しょせんITはツールですから、それを使って“何か”をすることが重要で、“何か”は何でもいいんです。本学で習得したITスキルを、自分のやりたいことと結びつけて使いこなしていけばいいと思います。

奥田 確かにそうですね。

長谷川 一方、経済的に恵まれた状況にあって留学してきた学生は、本学で学んだこと自体が箔付けになる。日本に留学してITの修士号を取得したことを武器にして、世界各国で良いかたちで就職していく。そういう事例がすごく多いですね。

奥田 自分で切り開いた道を最大限活用するということですね。これから先、学校をどうしていきたいとお考えでしょうか。

長谷川 世界中のすべての国から学生が来るような教育機関にしたいですね。インターネットはある意味、ボーダーを越えると言われていましたが、教育も同じだと考えています。そもそもユニバーシティの“ユニ”は、ユニオンのユニ。先生と学生のユニオン、つまり組合なんです。先生と学生が組合をつくって、それまで支配していた王様や教会の権力に対抗しようとする第三の勢力、それがユニバーシティです。ですからいろいろなボーダーを越えてここに来て学んでもらえればと思います。

奥田 長谷川さん個人としてのこれからの目標を教えていただけますでしょうか。

長谷川 (少し考えて)長生きすることかな(笑)。

奥田 卒業生の方々が、世界各国でITを武器にますます活躍されることを期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

●こぼれ話

 クリっとした目がかわいい3歳の頃の長谷川亘さん。幼少期の写真が「聞き語りシリーズ リーダーが紡ぐ私立大学史(5)」に収録されている。人形やおもちゃを横に、難しそうな本を開いて読んでいる様子が写っている。本を好んで読む子どもだったそうで、文字も早くに読めるようになったとのこと。小学校入学時には、なぜ今さら平仮名を勉強するのか不思議に思ったのだそう。ご両親ともに勉学に励み、また学びの場を提供してきたことからも、勉強には恵まれた環境であったことがよくわかる。ただ、納得しないと行動しないのが長谷川さん。「勉強しなさい」と言われるとイヤだけれど、興味関心を持ったことには自然とのめり込んで、本からその世界を広げていったのだろう。好奇心旺盛でよく考え、学ぶ、その片鱗がすでに3歳の写真に収められているように見える。

 長谷川さんと話していて驚いたのは、学生たちとの距離が近いことである。今の学生の興味関心事についても理解しているし、卒業生のことまで把握している。学生とよくお酒を飲むこともあるそうだ。学生たちにとって、理事長である長谷川さんは遠い存在ではなく、仲間であったり強い味方であったりするのだなと、さまざまなエピソードから感じることができた。「教えてあげる」という押しつけがましさがなく、長谷川さん自身も今の学生の思考や成長に興味があり、学生とともに楽しんでいる感じがした。

 どんな企業に勤めようがどんな仕事に就こうが、今は誰もがITスキルを必要とされている。ITスキルは一部の興味がある人だけが習得すればいいというものではなく、広く学ばれ、使われるものへと変化した。学問の世界で国境を越えたいと語った長谷川さん。これからもきっと、ITを武器に自分の人生を豊かに、そして彩る学生たちが増えていくことだろう。世界中のすべての国から学生が集うのも、決して夢物語ではない。

(奥田芳恵)

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

<1000分の第364回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

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