海外サーバーでも日本の特許保護 初判断 「ニコ動」コメント機能巡り

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2025年03月03日 19:39  毎日新聞

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毎日新聞

ドワンゴとFC2社の訴訟イメージ

 動画配信サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴ(東京)が、動画上にコメントが流れる機能の特許をFC2社(米国)に無断使用されたと訴えた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(草野耕一裁判長)は3日、ドワンゴ側勝訴とした2審判決を支持し、FC2社の上告を棄却した。裁判官4人全員一致の意見。ドワンゴの勝訴が確定した。


 特許の効力は国内に限ってしか認められない。FC2社のサーバーは米国にあり、この原則を厳格に捉えればドワンゴが日本で取得した特許が保護されない可能性もあった。小法廷はデジタル化社会の実情を踏まえ、サーバーが海外にあるようなケースでも、サービスが全体として実質的に日本で提供されたと評価できる場合、日本の特許は保護されるとの初判断を示した。


 ニコニコ動画には利用者が入力したコメントが動画上に流れる機能があり、ドワンゴは複数の特許を取得。FC2社は自社が運営する「FC2動画」で同様のコメント機能を提供しており、ドワンゴが「特許を侵害された」として2件の訴訟を起こしていた。


 小法廷は、国境を越える情報流通が極めて容易になった現代に、海外にサーバーがあるだけで特許が保護されないとすれば、発明の保護を通じて産業の発展に寄与するという特許法の目的に沿わないと指摘した。


 その上で、FC2社のコメント機能は日本の利用者向けで、日本国内の端末で活用されていると説明。FC2社のサービスがドワンゴの収益に影響を与える可能性も否定できないとして特許権侵害を認めた。


 FC2社側に機能の利用停止と、計1億円、約1100万円の賠償をそれぞれ命じた2件の知財高裁判決(2022年7月、23年5月)が確定した。【巽賢司】


「特許権侵害の抜け道はつくるべきでない」


 「特許が保護されるのは特許を取得した国の中でのみ認められる」という原則は世界共通だ。国境を越えて社会のデジタル化が進む中、特許制度はどうあるべきか。3日の最高裁判決は、時代の変化に沿って特許の原則を柔軟に判断した。


 旧来の社会で、特許の原則は各国の産業発展に役立ってきた。この原則があるため、日本で活動する企業が、海外で特許を取ったとする別企業から突然訴えられるといった事態が避けられている。


 ただ、インターネットの登場で状況は一変した。サーバーを海外に置き、海外からコンテンツを提供している形を取りつつ、日本の特許取得企業のまねをして、日本の顧客にサービスを提供する――。こうした「脱法的行為」が容易になっている。


 情報通信技術関連の2022年の国内特許出願件数は約1万3400件で、10年前の2倍以上に達しており、特許を持つIT企業の危機感は高まる。海外でも、特許の原則を柔軟に解釈して「国境を越えた特許権侵害」を認める司法判断が相次いでいる。


 日本では、特許庁が設置した有識者グループが24年6月、国境を越えた特許権侵害に当たるケースを法律上明文化する必要があると打ち出した。特許庁の別の専門家小委員会が現在、具体的な要件について議論を進めている。


 特許庁で勤務した経験を持つ松本健男弁護士は最高裁判決について「特許権侵害の抜け道はつくるべきではなく、妥当な判断だ」と評価。一方で、どういう行為が国境を越えた特許権侵害となるかの具体的な基準としては明確でない部分も残っているとし、「今回の判決を下敷きに、特許庁がさらに議論を深めていくことになるだろう」と話した。【巽賢司】



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