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2011年の東京電力福島第1原発事故の後、福島県内の除染で出た膨大な量の土は、原発を取り囲むようにして造られた「中間貯蔵施設」(福島県大熊、双葉両町)で保管されている。搬入開始から今月で10年。施設はいまどうなっているのか。現地を訪れた。
サッカーコート10面分の「広場」
「今、高さ15メートル分積んだ除去土壌(除染土)の上に立っています」
環境省が2月中旬、報道機関向けに開いた中間貯蔵施設の見学会。敷地内をバスで移動し、「土壌貯蔵施設」と呼ばれる高台に到着すると、担当者がそう説明した。
この高台は、水田だった土地を造成して遮水シートを敷き、その上に除染土を積み上げて造られた。今は芝生が植えられ、まるで広大な「広場」だ。その広さは約7万1200平方メートル。サッカーコート約10面分に相当する。
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「広場」の端に行くと地面に続く斜面が見え、15メートルの高さにいることを実感できた。敷地内にはこうした高台が8カ所ある。
厚さ60センチの覆土で放射線を遮蔽
高台の表面は汚染されていない土で覆われている。「60センチ覆土することで、放射線は99%遮蔽(しゃへい)できます」。環境省の職員はその場で、参加者に空間放射線量を計測するサーベイメーターを1台ずつ配布した。
渡されたサーベイメーターに表示された空間放射線量は、毎時0・22〜0・25マイクロシーベルト。記者が持参した簡易測定器でも同様だった。これは平常時、一般人に許容される追加被ばく線量と同程度の値だ。
環境省の担当者は「除染していない山林など(敷地内の)他の場所と比べ、土壌貯蔵施設の方が線量は低い」と強調した。
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事故前は2700人が暮らした大地
中間貯蔵施設の用地面積は約1600ヘクタール。東京都渋谷区の面積に匹敵する。原発事故前はここで約2700人が暮らしていた。
一帯は帰還困難区域に指定され、地権者も立ち入りには自治体の許可が必要だ。敷地内をバスで移動すると、車窓から人けのない家屋が点在しているのが見えた。事故前は約330人の児童が通っていた大熊町立熊町小学校の校舎も、時が止まったかのように残っていた。
環境省は、用地内の土地を買い取ったり借り上げたりして施設を整備。15年3月に中間貯蔵施設への除染土の搬入を開始した。
土・廃棄物はトラック207万台分
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除染土などの仮置き場は県内に1372カ所あったが、1363カ所(99%)で中間貯蔵施設への搬入が完了。今年1月末までに運び込まれた除染土や、除染の際に伐採された草木などの廃棄物は計約1400万立方メートルで、このうち約1200万立方メートルが「土壌貯蔵施設」にある。運んだトラックの台数は延べ207万台に上る。
県内7市町村に残る帰還困難区域以外の除染はほぼ終わり、現在は帰還困難区域のうち、帰還の意向を示した住民の自宅周辺に定める「特定帰還居住区域」など一部で除染が進む。
処理した可燃物は鋼製容器で保管
一方、搬入された廃棄物のうち草木などの可燃物は、焼却してその灰を溶融処理し、鋼製の容器(1個あたりの容量は1立方メートル)に入れたうえで鉄筋コンクリート造の施設で保管している。施設は4棟あり、既に約3万個の鋼製容器が収められているという。
今回の見学会ではこの施設の1棟が初めて報道陣に公開された。
処理後の灰の放射性セシウム濃度は、ばらつきがあるものの1キロ当たり数十万ベクレルと高いものもある。黄色い鋼製容器に近づくと、空間放射線量は毎時20マイクロシーベルト近くあり比較的高かった。
最終処分の具体的な工程示されず
こうした除染土や廃棄物は45年3月までに県外に搬出し、最終処分することが法律で定められている。
環境省は県外に運び出して最終処分する量を減らすため、セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下の除染土を全国の公共工事などで再利用する計画だ。
しかし、除染土を巡る問題の認知度は低く、再利用先のめども立っていない。環境省は2月、最終処分に向けた工程表案を公表したが、再利用の具体的なスケジュールや処分場候補地の選定・決定を目指す時期は示さなかった。
福島県外最終処分、認知度は横ばい
環境省が24年11月にインターネット上で実施したアンケートでは、45年までに県外で最終処分することについて「聞いたことがない」「聞いたことはあるが内容は知らない」と答えた人は県外で約75%、県内でも約45%に上った。
自分が住む地域で再利用することに肯定的だったのは、県外では約21%、県内でも約32%だった。アンケートは18年から毎年実施しているが、認知度はいずれもほぼ横ばいで推移しているという。
県外での再利用実証事業計画は頓挫
環境省は東京都新宿区や埼玉県所沢市などで再利用の実証事業を計画したが頓挫している。双葉町の伊沢史朗町長は2月、毎日新聞の取材に、県内外での機運醸成などを目指し、町内での再利用を検討していることを明らかにした。
環境省の長田啓参事官は見学会後の記者会見で「(認知度の)改善を進めていかなければならない」としたが、理解醸成の具体策については「専門家によるワーキンググループなどでの議論も踏まえて今後検討したい」と述べるにとどまった。県外最終処分の期限まであと20年。国はまだ、その道のりを明確に示せていない。【岡田英】
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