新生児取り違え訴訟の判決を受け、記者会見する原告の江蔵智さん=21日午後、東京・霞が関 東京都立墨田産院(閉院)で1958年に出生後、新生児の時に取り違えられた江蔵智さん(67)が、生みの親を特定する調査などを都に求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。平井直也裁判長は「生物学上の親を調査すべき義務がある」として都に調査を命じた。
平井裁判長は、自己の出自を知る権利は日本では法制化されていないが、憲法13条が保障する法的利益に当たると判断。さらに、政府が批准した自由権規約と子どもの権利条約でも直接保障されているとした。原告側代理人によると、こうした判断は初という。
子が生みの親に引き渡されることは「親子の関係性の根幹に関わる問題であり、取り違えは決してあってはならない」と指摘。万一起きた場合は「医療機関ができる限りの対応を取る義務がある」と述べ、都の責任を認めた。
その上で、当時産院があった墨田区の戸籍から、取り違えられた男性やその両親の可能性がある人を捜し、DNA型鑑定への協力を依頼することなどを命じた。
都は、調査することによって取り違えられた相手の権利を侵害する恐れがあると主張していたが、「対象者は事実を知りたくなければ調査に協力しない選択もできる」として退けた。
判決によると、江蔵さんの育ての母(92)は58年4月10日、墨田産院で男児を出産したが、新生児室に移された後で江蔵さんと取り違えられた。2004年に実施したDNA型鑑定で、育ての両親と江蔵さんに親子関係がないことが判明した。

新生児取り違え訴訟の判決を受け、記者会見に臨む原告の江蔵智さん(奥)=21日午後、東京・霞が関