『岸辺露伴は動かない』の世界線はどうなっている? エピソードを分類して見えてきたこと

3

2025年05月30日 08:00  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の公開に合わせて、関連書籍が多く発売されている。


参考:『岸辺露伴は動かない 懺悔室』露伴はなぜ“動き出した”のか? ノベライズから読み解く、漫画家の“誇り”


 映画の原作エピソード「懺悔室」のほか、これまで実写ドラマ化されてきた『岸辺露伴は動かない』の全エピソードを掲載した『岸辺露伴ジャンプ』、最新エピソード3編を収めた『岸辺露伴は動かない』第3巻、『岸辺露伴は動かない』を特集した『ジョジョの奇妙な冒険』のムックシリーズ第5弾『JOJO magazine 2025 SUMMER』。これらを通して、改めて『岸辺露伴は動かない』に触れていると、あることが見えてくる。


 それは、荒木飛呂彦による当時の作風や世相が色濃く反映されているということだ。


 まず、『岸辺露伴ジャンプ』の収録エピソードを例にすると、大きく3つの岸辺露伴の物語に分けられる。


A 『岸辺露伴は動かない』シリーズの短編として描かれたエピソード(例:「懺悔室」「富豪村」など)


B 『岸辺露伴は動かない』を原作とした短編小説(例:「くしゃがら」など)


C 『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで岸辺露伴が登場するエピソード(例:「チープ・トリック」「ジャンケン小僧がやって来る!」など)


 元々、露伴が登場する『ジョジョ』第4部「ダイヤモンドは砕けない」として「C」があり、そこからいわゆる“露伴スピンオフ作品”として1997年に『週刊少年ジャンプ』に初めて掲載されたのが「懺悔室」であり、「A」に当たる。そして、2018年より刊行されている、北國ばらっどをはじめとする数々の作家が執筆しているノベライズシリーズは、原作より派生した「B」とカテゴライズしていいだろう(『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は限りなく「A」に近い特異なケースとしての「D」といっただろうか)。


 『ジョジョ』のシリーズに露伴が初登場したのは1993年。そこから3年後の1997年に『ジョジョ』を休載して、「懺悔室」が掲載された。今回の『JOJO magazine』での特集を参照すると、その当時の『ジョジョ』は第5部「黄金の風」の連載中で、ヴェネツィアを舞台にギアッチョとバトルを繰り広げている辺りだったという。「懺悔室」の舞台もヴェネツィアであり、筆者は作中で描かれるポップコーン対決で浮浪者の怨霊が発するワードの数々が、第5部に登場する“ラスボス”のディアボロ、ひいては第5部全体を彷彿とさせるセリフに思えてならない。それは「絶頂」「運命」「魂」といったキーワードで、これはあくまで筆者の推測になるが憑依する「舌」というモチーフ自体も、「ローリング・ストーンズ」(第5部ラストにスタンド名として登場)のバンドアイコンを連想させる。「懺悔室」掲載時の『ジョジョ』のストーリーがディアボロとのバトル前ということを考えると、ある種今後の展開を少なからず予期したエピソードだったとも言えるのではないだろうか。


 「懺悔室」の次に、『岸辺露伴は動かない』シリーズとして描かれたのが、2007年12月に発売された『ジャンプSQ.』掲載の「六壁坂」。当時、荒木が連載していたのが、『ジョジョ』第7部に当たる『スティール・ボール・ラン(『SBR』)』だった。これはどちらかと言えば遊び心に近いのかもしれないが、「六壁坂」ラストで登場する大郷楠宝子の子供のTシャツには「SBR」と描かれている。また、「六壁坂」は『ジャンプSQ.』掲載ということでサスペンス色の強い作風、「D・N・A」(2017年)は『別冊マーガレット』掲載ということで心温まるラストになっていることも特徴的だ。


 『岸辺露伴は動かない』第3巻に収録されているのは、「ホットサマー・マーサ」(2022年)、「ドリッピング画法」(2022年)、「ブルスケッタ」(2025年)の3つのエピソード。「ホットサマー・マーサ」で露伴の担当編集である泉京香が「六壁坂」以来に再登場し、原作においてもお馴染みのキャラクターになりつつあるのは、実写ドラマシリーズからの影響であることを荒木自身がコミックスの作者コメントで認めている。そして同時に、それぞれが当時の環境や社会性が滲み出たストーリーであり、露伴のキャラクターとしての成長が描かれていることも。その象徴と言えるのは、コロナ禍を描いた「ホットサマー・マーサ」だろう。


 漫画を描く上で、「体験は作品にリアリティを生む」という考えを大事にする露伴にとって、取材のためにその土地へ出掛けることができないコロナ禍の期間は、漫画家としてのスランプを迎えていた。その癒しのために飼いだしたのが、愛犬のバキン。偏屈な印象の強い露伴が珍しく見せた可愛らしい一面と漫画に関しては妥協を許さない漫画家としての矜持を「ホットサマー・マーサ」では写し出している。


 「ドリッピング画法」は作中で露伴が話している通りに、「絶望的に厭なエピソード」であり、「地球温暖化」をテーマの一つにしている。不条理なラストであり、そこに明確な答えを出すのは難しく、せめてもの温かな希望となっているのは京香とバキンの存在。正義感溢れる露伴の姿からは、杜王町への愛が感じられる。


 「ブルスケッタ」の舞台はハワイ島。「進化」をテーマに、冒頭で露伴と京香が話しているスポーツ選手の話題は、『ジョジョ』好きで知られる大谷翔平へのアンサーとも取れるが、本作のポイントとなっているのは先述した「A」と「C」が合わさったエピソードということだ。実は露伴は第4部以降にも度々登場している。第6部「ストーンオーシャン」にて、「時の加速」の中で原稿をあげた人物として「岸辺露伴」が名前だけだが登場。現在連載中の第9部「The JOJOLands」では、主人公のジョディオ・ジョースターに溶岩を「託す」案内役として露伴が存在している。『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』(集英社新書)の中で、荒木は「本当は第八部の舞台だった杜王町にも露伴はずっといて、そこからハワイの別荘に来ている設定です」と解説。露伴の漫画「ピンクダークの少年」の大ファンだというジョディオは、「先生の『4つの円』の短編の話なんて凄く良かったなぁ〜〜」と「ホットサマー・マーサ」を話題にあげている。


 「SBR」から『ジョジョ』の世界はパラレルワールドに突入していることを考えると、「The JOJOLands」の露伴は第4部の露伴と同一人物なのか、と一瞬分からなくなってしまうが……連載中の『ジョジョ』シリーズとストーリーラインが密接に関わり合っている「ブルスケッタ」は、『岸辺露伴は動かない』としては「懺悔室」にも近い、そういった意味では原点回帰とも言えるエピソードである。



このニュースに関するつぶやき

  • 露伴というだけで、幸田露伴を常に思い浮かべてしまう…。で、何となく幸田露伴の(写真の)顔を思い出し、高橋さんの顔と比較すると、どうも(幸田)露伴じゃない…
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(3件)

ランキングゲーム・アニメ

前日のランキングへ

ニュース設定