
ヤクルトドラフト1位ルーキー・中村優斗の現在地(前編)
ヤクルト二軍の戸田球場。中村優斗のピッチングを見れば見るほど、期待は膨らんでいく。
最速160キロ右腕は、昨年のドラフトでヤクルトから1位指名され、愛知工業大から入団した。今年1月の新人合同自主トレ期間中に下半身のコンディション不良で出遅れるも、今は「どんどんイニングを増やして、一軍の舞台に早く行けるようにアピールを続けていきたい」と順調に調整を続けている。
【リハビリ中に得た収穫】
3月8日、中村はブルペンで捕手を座らせて52球。投げるボールよりも印象に残ったのは、それまで曇りがちだった表情に明るさが戻ったことだ。
「プロの生活や環境にちょっと緊張とかもあって、それに慣れてきたことで表情がほぐれたのかなと(笑)。ケガをして落ち込むこともありましたし、やっぱり投げないとほぐれないというか......」
|
|
3月28日にはライブBP(実戦的な打撃練習)に登板。初球の153キロ真っすぐに、見守っていたチーム首脳陣やスタッフから「おおっ」とどよめきが起こった。3人の打者を相手に7打席で5三振。最速154キロをマークするなど、胸の高まるピッチングだった。
「まずは、実際に打者相手に投げられたことが一番大きかったです。三振を取るのは自分の持ち味でもあるので、そこはしっかり出せたかなと。ストレートは140キロ後半くらいをイメージしていましたが、思った以上にスピードが出ていました。なにより、ケガをしている間も大学時代のフォームと出力を変えないようにやってきて、動画を見直してもそれほど変わっていなかった。いいリハビリができていたんだなという手応えがありました」
リハビリ中は、多くの収穫があった。
「体の使い方を見直したり、ランニングメニューに取り組んだりしたことで、体脂肪が減り、体のキレもよくなりました。大学時代は、長距離などはあまりやっていなかったので、1年間戦うには、こうした基礎的な体力も大事なんだと実感しました。ランメニューは得意ではありませんが、今回のケガをした原因のひとつだと思うので、しっかり反省して今後も取り組んでいきたいです」
実戦初登板は4月8日の西武戦。真っすぐとスライダーを軸に1イニングを無失点に抑えた。つづく15日のDeNA戦は2回無失点。フォークも交え、3者連続して打者のバットを折る場面もあった。
|
|
22日の日本ハム戦は、先発として4イニングを投げた。カットボールも織り交ぜ、最終イニングとなった4回には155キロをマークした。29日の西武戦では新たにチェンジアップを加えるも、渡部健人に本塁打を浴びるなど5回3失点。試合後、中村はこうコメントした。
「真っすぐの調子があまりよくなく、カットボール、スライダー、フォークといろいろ試しました。ホームランは、初球のチェンジアップの反応を鑑みても、次に半速球のカットボールを投げたのがよくなかったんじゃないかと。その反省を収穫として、そういう面でポジティブにとらえています」
5月7日の日本ハム戦では、6回82球を投げて1安打、7奪三振、無失点の好投。初回、矢澤宏太を150キロのストレートで空振り三振に仕留めると、水谷瞬には130キロのスライダーで空振り三振。その後、味方のエラーで走者を許すも、つづく有薗直樹を140キロのフォークで空振り三振。圧巻の立ち上がりを見せた。
5試合に登板した時点で、18イニングを投げて18奪三振、1四球、防御率2.00。四球の少なさと被打率(.154)の低さが、じつに魅力的である。
【気づいたことはすぐにメモ】
ここまで中村は、「試合中はベンチで気づいたことをノートにメモしています」と、課題を見つけてはクリアし投げてきた。
|
|
「大学時代は感覚だけでやっていたのですが、プロは大学生と違って特徴あるバッターが多いですし、1年間に何度も対戦することになります。ファームとはいえ、情報はたくさんあったほうがいいですし、書いて損になることはないですから」
メモの内容については、次のように話した。
「ピッチャーならわかる感情というか、たとえば渡部選手にホームランを打たれた試合では、そのあと同じような右の長距離打者と対戦した時に、悪いイメージを持って投げてしまったとか。ピッチングの部分では、ここで右打者のアウトコースをしっかり突けた、ここが甘かったからこう打たれたと自分が感じたこと、またこの打者は真っすぐが見えていないとか、打者の反応についても書いています」
驚いたのは、イニングごとにメモしているということだ。
「多くの収穫を得たいので、毎イニング書くようにしています。試合後だと忘れてしまうこともあると思うので、そこを忘れないように、今はそういう感じでやっています」
選手寮での夕食は午後6時からで、中村はチームメイトとともに「本当にすごいピッチャーが多いな」と、一軍の試合をテレビで見ながら食事しているという。
「ピッチベース(※1)を見ていても、このピッチャーは、縦変化量(※2)がこれだけあるから打たれないのだろうとか、そういうのを探りながら見ている感じですね」
※1 野球向けの映像解析アプリ
※2 ボールの上下方向の変化を数値化したもの。一般的にストレートの平均数値は40センチと言われ、数値が大きいとボールがホップしているように感じられるという
中村のなかで、少しずつ一軍のイメージが湧きつつあるのだろう。
つづく>>