「斎藤知事が定例会見を行っている会見室には、広報や秘書課のほか発表項目の担当職員が15名ほど同席しています。会見室のうしろにイスを並べてずらっと座っているのですが、みなさん粛々と業務を遂行しているものの、どこかあきらめたような表情をしておられますね」
そう語るのは元・神戸新聞記者で、ノンフィクションライターの松本創さんだ。これまで、斎藤元彦兵庫県知事(47)の定例記者会見に毎週のように出席してきた。
これまで“公益通報者潰し問題”、告発者である元県民局長の情報漏えいに関わった疑惑、自身の選挙違反疑惑など、数々の問題を抱えている斎藤知事。毎週行われる知事の定例会見では「真摯に受け止める」「適切だった」と繰り返すのみで、記者からの質問にまともに答えないのが恒例となっている。
すっかり職員からの信頼も失っているように見える斎藤知事だが、「知事になる前の斎藤さんは、むしろコミュニケーション能力が高く、好青年に見えた」と松本さんは振りかえる。
「私は、彼が大阪府の財務部財政課長を務めていたころに面識を得ましたが、当時の彼は、こちらの質問に的確に答え、バランス感覚もある有能な若手官僚という印象でした。何度か食事を共にしたこともありますが、気さくだし、気配りもできる。これは私だけでなく、当時の彼を知る人たちの多くが同じような印象を抱いています」
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“好青年”だったはずの斎藤氏だが、知事に就任して間もなく、「すぐにキレる」などの悪評を耳にするようになったという。それほど反感を買ってでも、「前に進めたい」施策があるのだろうか。
「本人も言っているように、若者・Z世代の支援や、万博のような地域振興など、ピンポイントで力を入れたい政策はあるのでしょう。それも大事なことだと思いますが、本来、知事という立場は、さまざまな人の意見を聞き、できるだけ多くの県民のためになる施策を幅広く進める必要があるんです。ところが斎藤知事は、自分の興味があることにしか目を向けない。それ以外は眼中にないようにすら見えます」
その象徴的な出来事が、阪神・淡路大震災の犠牲者数を間違えたことだという。斎藤知事は、阪神淡路大震災から30年を迎える今年1月の定例会見で、「6,400人を超える方々」と言うべき犠牲者数を、「4,600人を超える方々」と誤って発言。「読みまちがい、言いまちがい」だったとして、後日謝罪する場面があった。
「兵庫県知事という立場、震災30年というタイミングで、決してあってはならないまちがいです。震災に関心をよせ、心から犠牲者を悼んでいれば、間違えるはずがありません」
こうした数々の失態が響いたのか、4月に神戸新聞とJX通信が兵庫県内の有権者に実施した調査では、斎藤知事を「支持しない(55.9%)」が「支持する(34.5%)」を上回った。
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しかし松本さんは、自らもいち兵庫県民として、それでも「斎藤知事の人気は根強い」と感じている。その一因として、斎藤氏を再選に導いた“反マスコミ感情”の高まりがあると考えている。
「たしかに昨年は、知事のパワハラやおねだりなど、キャッチーな部分ばかりが取り上げられ、報道が過熱しました。それが世論の『斎藤さんはいじめられてかわいそう』という反マスコミ感情をかき立てることにつながった。しかし、前述したように、斎藤知事が何を聞かれてもまともに答えないから、記者が何度も同じ質問を繰り返さざるをえないという側面もあるのです」
そもそも、質問にまともに答えない斎藤知事に、知事の資質はあるのか――。
「行政の長が法律を守れない時点で、資質はないと言わざるを得ません。自分と意見が異なっても、対話をして合意形成をしていくのが政治家、とりわけ首長の役割です。にもかかわらず、何を聞かれても同じ言葉の繰り返しで説明しない。職員とも、議会とも、信頼関係を築けない。そんな人が、知事にふさわしいとは思えません。
ただ、すべての人が記者会見を毎週見るわけではありませんから、知事がていねいにおじぎをしている場面だけ目にしている方にとっては、“いい人”に見えてしまうのでしょう」
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昨年の兵庫県知事選以降、SNSやYouTubeなどで、真偽不明の情報が流され、ひとりの兵庫県議が自死するという痛ましい出来事もあった。いまもなお、収集の目処はついていない。松本さんは、こうした状況にも危機感を持っている。
「少なくとも“オールドメディア”と呼ばれる媒体は、記者をはじめデスクや校閲など、何人ものチェックが入っています。それでも間違うことはありますが、少なくとも取材をせずに自説や持論を発信しているユーチューバーとはちがいます。どちらの情報の信頼性が高いのか、考えるまでもないと私は思うのですが……」
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