
7月27日、神戸。ハンジ・フリック監督が率いるバルセロナは、ヴィッセル神戸とフレンドリーマッチを戦っている。エリック・ガルシア、ルーニー・バルジ、ドロ(ペドロ・フェルナンデス)の得点により、1−3で勝利を収めた。
得点者はいわゆるスター選手ではなかったが、その顔ぶれこそ、バルサの強さを象徴していた――。
「バルサはラ・マシア(下部組織)である」
バルサの中興の祖であるヨハン・クライフの言葉だが、それはまさにフリック・バルサに受け継がれている。
バルサは、伝統的にラ・マシアで育った選手に支えられている。リオネル・メッシからラミン・ヤマルというスーパースターの系譜は最たるものだろう。このレベルのモンスターを、「ボールを持っていれば負けない」という信条の下部組織で育成できている点で特筆に値する。
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また中盤は人材の宝庫で、ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツを生み出し、現在もガビ、フェルミン・ロペス、E・ガルシア、マルク・カサドはそれぞれスペイン代表に選ばれている。サイドバックはアレハンドロ・バルデ、ジェラール・マルティン、センターバックもカルレス・プジョルの再来と言われるパウ・クバルシと、人材は豊富だ。
「昨シーズンも、プレシーズンでラ・マシア(下部組織)の選手を呼んでトライしました。ヴィッセル戦でも、3人がトップデビュー(ルーニー、ドロ、ジョフレ・トレント)しています」
フリック監督は言うが、若手の抜擢に定評がある。
神戸戦で、クウェート出身でシリア系スウェーデン人の19歳の左利きアタッカー、ルーニーは、メッシ、ヤマルという系譜(ここには久保建英も含まれる)を継ぐ選手であることを証明した。「左利きで俊敏で、コンビネーションに長け、得点力がある」という条件を満たし、左足ゴールはパンチがあった。
ドロは17歳のアタッカーだが、セカンドチームであるバルサ・アトレティックを経験していない。"飛び級"でのトップデビューだった。フリックの慧眼どおりで、わずか数十分で貴重なゴールを決めた。こぼれ球に反応し、右足ダイレクトで合わせたシュートで恐ろしいほどのセンスを感じさせている。
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【「14」はアンリがつけていた背番号】
「ルーニーは、トップチーム入りのチャンスがある。もちろん、それを望んでいます。でも、それはドロも、他の若手選手たちも一緒で、同じチャンスがありますよ」
そう語るフリックは目利きで、選手の導きもうまく、能力を引き出せる。その手腕は経済的な副産物も生み出している。たとえばパウ・ビクトルは昨シーズン、フリックに抜擢されながら定位置を奪えず、ポルトガル1部のブラガに移籍することになったが、移籍金は1200万ユーロプラス出来高で20億円以上の見込みとなっている。
そして今シーズン"最大の補強"は、左膝前十字靭帯断裂の大ケガから復帰秒読みのラ・マシア育ちの18歳プレーメイカー、マルク・ベルナルである。「左利きのブスケッツ」というべき天才性を感じさせ、ゲームメイクは美しさがある。長短のボールを蹴れるだけでなく、テンポを変え、常に裏を取れる。順調に怪我から回復していれば規格外のMFで、シーズン終了後は新スターが誕生しているはずだ。
ただ、バルサの究極形はラ・マシア組以外のパーツで完成する。
昨シーズンは、ラフィーニャ、ペドリ、ロベルト・レバンドフスキ、イニゴ・マルティネスなど名だたるキャリアの"助っ人"を融合させ、結果を叩き出した。それぞれ欧州のベストイレブンとも言える輝きだったが、ここに新たにもうひとり、スターが加わることになった。イングランド代表FWマーカス・ラッシュフォードだ。
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ラッシュフォードは、マンチェスター・ユナイテッドからのレンタル移籍だが、本人は年俸を30%も下げてまで、バルサ入団を希望した。背番号14は、かつてラッシュフォードのアイドルだったティエリ・アンリがつけていた背番号。"元天才"が新シーズンにかける意欲は強い。
フリックは神戸戦でラッシュフォードを左サイドのアタッカーとして起用していた。爆発的な走力を生かしつつ、右利きのドリブルでカットインさせ、敵陣に動揺を起こす。点取り屋よりも、崩しのポテンシャルを生かしたいところか。日本初お目見えだったが、チームに合流したばかりで、受けるパスも託すパスも、ドリブルの感覚も、ことごとくズレていたが......。
「ラッシュフォードは徐々にコンディションも上がってくるだろう。他の選手よりも合流が遅かったから。これからが楽しみだ」
フリックはそう言って、心配している様子はなかった。
問題が燻っているといえばゴールキーパーだろう。
エスパニョールから獲得したジョアン・ガルシアを、サラリーキャップの問題(年俸合計が枠を超え、選手を放出する必要)で登録できていない(神戸戦は親善試合ということで、ジョアン・ガルシアが先発した)。テア・シュテーゲンは腰の手術で3カ月の離脱だが、彼はジョアン・ガルシアを獲得したことに不信感を覚え、クラブとの関係が悪化している。「4カ月離脱」という形にしたら(病床扱いとなり)、テア・シュテーゲンの登録をジョアン・ガルシアに代えることもできたが、こじれた状況ではうまくいかなかった。
8月16日のマジョルカとの開幕戦まで、フリックはベストのチームを探し求めることになるだろう。
「今回はサマーツアーの背番号で、確定したものではありません」
フリックがそう語っていたように、バルサが完成するのはもう少し先だ。