サッカー日本代表で今後に期待の選手は? 福田正博「ブラジル戦で得た経験を次につなげてほしい」

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2025年10月20日 17:50  webスポルティーバ

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福田正博 フットボール原論

■サッカー日本代表がブラジル戦初勝利。福田正博氏がパラグアイ戦も含めた10月シリーズのプレーぶりで、ワールドカップ本番に向け今後の期待が持てる選手をピックアップした。

【見事だった逆転勝利】

 日本代表にとって、これ以上ない自信を手に入れたテストマッチだった。

 10月14日に行なわれたブラジル戦の前半は0−2とリードを許す展開。これまでの日本なら後半もズルズル失点を重ねて敗戦というパターンだったろう。それが後半に南野拓実、中村敬斗、上田綺世と、3ゴールを奪っての逆転勝利。見事だったと言うしかない。

 今回のブラジルは、GKやDFラインなどに故障者がいたことでフルメンバーではなかったから日本が勝てたと見る向きもある。また、親善試合ではなくワールドカップ本番の舞台だったら、ブラジルは違う陣容で異なるメンバーを起用したはずだ。

 それでも、前半に負った2点のビハインドを取り戻して追い越すのは容易いことではない。ましてや相手はブラジルだ。そもそも過去を振り返っても、勝利はおろか、ゴールを奪ったことさえ数えるほどしかない相手なのだ。

 日本が初めてブラジルと対戦したのは1989年7月。0−1の敗戦から歴史がスタートしているが、そこから2022年の前回対戦まで13戦して0勝2分け11敗。しかも、ゴールを決めたことがあるのは、1995年8月の親善試合(1−5)、2005年6月のコンフェデレーションカップ(2−2)、2006年W杯(1−4)、2017年11月の親善試合(1−3)の4試合しかなかった。

 ちなみに、ブラジルからの得点は、私が1995年に初ゴールを決め、そこから中村俊輔と大黒将志が2005年、玉田圭司が2006年W杯、槙野智章が2017年に奪った。過去30年でわずか5人しかいなかったブラジル戦での得点者が、今回の試合で一気に3選手増えた。これほど喜ばしいことはないし、これから先さらに多くの日本代表選手に、ブラジル戦での得点者として歴史に名を刻んでもらいたい。

【新たなDFたちが経験を積む】

 いずれにしろ、3ゴールを決めた後半の戦いぶりを、前半から見せてくれたらと思うかもしれない。だが、相手はW杯5度制覇のサッカー王国ブラジルだ。しかも、ブラジルと同様に日本も主力選手を欠いていた。遠藤航、三笘薫が不在で、DFラインも経験者を欠くなかでは、アグレッシブに出ることを自重したのも仕方ない。

 3バックは、アキレス腱断裂から復活を遂げたベテランの谷口彰悟を中央に配し、パラグアイ戦で中央を務めた渡辺剛が右、左はパラグアイ戦に続き鈴木淳之介が入った。そして3バックだけではなく、ボランチの鎌田大地と佐野海舟を含めた5人のブロックが、ほぼ初めてと言える組み合わせだったことを差し引いても及第点だろう。ここから連係を高めていければという期待値が膨らむものだった。

 そのなかで鈴木が見せたブラジル戦での躍動は、今後もスタメンを張れる可能性を感じた。身長180cmと高さが際立つわけではないものの、湘南ベルマーレではボランチをやっていて足元の技術の高さには定評がある。個性の違う選手が揃うほどチーム力は高まるだけに、この夏に移籍したコペンハーゲンで海外選手への対応力をさらに高めていってもらいたい。

 渡辺は9月のメキシコ戦では右センターバック(CB)でスタメン出場し、今回も右と中央を務めた。これはDFラインに故障者が多いなかで、森保一監督のファーストチョイスになっていると見ることもできる。FC東京時代から期待が大きかった選手だが、彼の存在がCB陣に厚みをもたらしている。

 DF陣の故障が長引くケースを想定すると、経験豊富な谷口の復帰があるとはいえ、渡辺や鈴木といった新たな選手たちが経験を積める意義は大きい。ただし、まだまだ改善や成長の余地はある。

【FW陣にも成長を感じた】

 FW陣にも収穫のある10月シリーズとなった。1トップの上田綺世はブラジル戦で決勝弾を決めたが、小川航基と町野修斗も成長している姿を見せてくれた。上田が欠けても小川や町野がいる状況は心強いものだ。

 町野に関して言えば、1トップだけではなく、シャドーのポジションもできるため、W杯を見据えた時に試合展開のなかで前線のオプションになりうるだけに、さらなる成長を期待している。

 ブラジル戦で攻守に際立ったのは、堂安律だった。フランクフルトでの好調さを日本代表にもつなげ、右ウイングバック(WB)の位置で攻守に躍動した。ここ数年で守備強度が高くなってハードワークも厭わないうえに、最近は縦突破もできるようになってプレーの幅が広がっている。だからこそ、後半から伊東純也が投入されても、ポジション変更することなくWBを任されたのだろう。

 これまでWBを務めることが多かった伊東は、W杯本番ではゲームチェンジャーとして期待されているのではないかと思う。パラグアイ戦は右WBで先発出場したが、ブラジル戦は途中から右シャドーで出場して2アシスト。逆転勝利の立役者となった。相手の足が止まる後半に伊東が出てきて、持ち前のスピードを生かして相手陣を切り裂く。こうした展開はW杯本番でも期待できるシーンだ。

 左サイドは中村敬斗が三笘の不在を感じさせない活躍をした。三笘と中村、さらに前田大然というスピード特化のスペシャリストはいるものの、このポジションは故障もしやすいだけに、3選手に次ぐ存在がいるに越したことはない。そのなかで斉藤光毅がパラグアイ戦で出場機会を与えられた。

 結果は「まだまだ」というものだったが、個人的には次につながるトライをしたと好感を持った。「なんでもやろう」として空回りしていた部分もあったが、根底には自分のよさを出そうとした思いがあったはずだ。日本代表に選出されると臆して無難にプレーする選手も少なくないなか、果敢に挑んだことは評価している。ここで得た経験を次につなげられれば、いつの日か日本代表に不可欠な存在になれるはずだ。

 一方で相馬勇紀は途中出場したパラグアイ戦、ブラジル戦で持ち味をしっかり発揮した。今季はJリーグで9得点(リーグ7位)10アシスト(リーグ2位)を記録。町田でプレーするようになって意識が高まった守備の部分で、森保監督からの信頼を勝ち取りつつあるように映る。2022年カタールW杯でも予選突破後に存在感を高めてメンバー入りしている相馬が、今回も同じようなルートを辿りながら、このままW杯メンバーに入るかどうかにも注目している。

【今回の勝利に浮かれない】

 いずれにしろ、この10月シリーズではブラジル代表という世界屈指の存在に、親善試合であったとしても勝利できた意義は大きい。日本サッカーが30数年の時間をかけ、ようやく王国の背中を見ることができたからだ。

 ただし、この勝利は来年のW杯での成功を担保するものではない。サッカー王国からの初勝利に浮かれていたら、日本代表が望む最高の景色には届かない。

>>後編「ワールドカップ本番への課題」につづく

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