
福田正博 フットボール原論
■サッカー日本代表がブラジル戦逆転勝利で力を示した一方で、福田正博氏がワールドカップ本番で挙げるポイントは、強豪国に次ぐ南米やヨーロッパの中堅国に勝ちきれるかどうかだという。
>>前編「ワールドカップ本番に向け期待の選手たち」
【日本が苦戦している相手とは?】
日本代表は10月シリーズのテストマッチでパラグアイ代表と2−2の引き分け、ブラジル代表には3−2の勝利で終えた。14度目の挑戦でブラジル代表に初勝利したのは衝撃だったが、あくまで親善試合でのこと。真価を問われるのはW杯本番だ。
ブラジル戦や、前回W杯で対戦したドイツやスペインのような、W杯優勝経験国という"横綱"からの大金星は喜びが爆発する。ただし、日本が来年のW杯でベスト8以上という目標を達成するためにポイントとなるのは、日本と同等か実力差が少ししかない中堅国、いわば"関脇・小結"クラスの国々との対戦だ。
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FIFAランクで言えば、10位〜40位以内といったところだろうか。そうした相手に対し、日本(FIFAランク19位)は苦戦する傾向にある。9、10月の親善試合でもそれは表われていた。
メキシコ(同14位)には、日本代表が押し込みながらも0−0の引き分け。アメリカ(同16位)には0−2で敗戦。パラグアイ(同39位)には最後の最後に追いついてかろうじて2−2の引き分けだった(※FIFAランキングは10月17日発表時)。
W杯優勝経験国と対戦する時との違いとして、こうした相手に対して日本はボールを保持できる力がある。しかし、日本は"横綱"クラスが発揮するような攻めきる力をまだ持ち合わせていない。
【"関脇・小結"クラスを倒せるか】
たとえば、パラグアイはW杯予選やコパ・アメリカでブラジルやアルゼンチンと対戦している。彼らにとっては、世界屈指の攻撃力を持つ相手を防ぐために守備をし、そのスキを突いて得点を狙う戦いが日常にあると言えるだろう。そうした背景があるだけに、日本がボールを保持して押し込もうとしても、慌てずに対処してワンチャンスをモノにしてくる。
そして、これはパラグアイに限らずヨーロッパ勢などにも言えるが、彼らに共通するところはもうひとつ。W杯という舞台でも、基本的に戦い方を変えることがないという点だ。
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一方、アジアでの戦いが日常となる日本にとっては、普段"横綱・大関"クラスとの対戦はなく、さらに"関脇・小結"クラスとの対戦も少ない。アジアではボールを保持する戦いで勝利できることが多いが、それをW杯本番レベルまで磨くには現状では親善試合を通じてしかできないジレンマに陥っている。
こればかりは数多く試合を重ねて経験するしかないが、W杯本番までに残された時間は限られている。年内のテストマッチは11月のガーナ戦とボリビア戦で終わり、年が明ければ3月や直前のテストマッチなどの数試合しかない。
FIFAランキングはガーナが73位、ボリビアが76位と、日本よりも下位だが、南米予選7位のボリビアは来年3月の大陸間プレーオフを控え、ガーナは昨年のアフリカネーションズカップの予選敗退から見事に立て直してW杯出場権を手にしている。日本代表の強化に取り組む相手として不足はないだろう。しっかりと成果を出してもらいたいところだ。
【規模拡大のW杯本大会】
そのW杯の組み合わせ抽選は、12月5日にワシントンで行なわれる。史上最多の48カ国が出場する今大会は、4チームからなる12グループのグループステージを戦い、各組上位2チームと各組3位のうち成績上位8チームを合わせた32チームがノックアウトステージに進める。
グループステージの組み合わせ方式はグループ数こそ増えたが、これまでと大きく変わらない。開催国3カ国+出場国のFIFAランキング順で上位9チームまでがポット1、ポット2、3は抽選時点のFIFAランキング順で12チームずつ、そしてポット4には残りのチームと欧州や大陸間のプレーオフで勝ち上がったチームが入る。
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日本はFIFAランキング順でポット2入りがほぼ確定している。開催国3カ国のどれかと同組になるか、ポット1のスペインやフランス、アルゼンチンなどの上位9チームが待つグループに入るのか。日本は過去のW杯で開催国と同組になったことはない。仮にメキシコと同組になれば、ワールドカップ開幕戦を戦う可能性もある。これまで味わったことのないプレッシャーを受けながら、日本がどういう試合をするかも見たい気はする。
グループステージの対戦国とともに、どの地域で試合をするのかも今大会は重要な要素になるだろう。W杯の共同開催は2002年日韓大会以来だが、日韓大会ではグループステージが国ごとに行なわれたのに対し、来年のアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共同開催では、国ごとではなく「西部」「中部」「東部」の3地域内で行なう。
西部地域はアメリカのロサンゼルス、サンフランシスコ・ベイエリア、シアトルと、カナダのバンクーバー。中部地域はアメリカのダラス、ヒューストン、カンザスシティーと、メキシコのメキシコシティ、モンテレイ、グアダラハラ。東部地域はアメリカのアトランタ、ボストン、マイアミ、ニューヨーク、フィラデルフィアと、カナダのトロント。北米大陸内での縦移動となるため時差の心配はないが、振り分けられた地域によっては移動距離などが増える。
どのグループに入っても、日本にとって楽な対戦国はひとつもない。それだけに、まずは11月のテストマッチ2試合でボールを保持するところのクオリティーを高めてほしい。そして12月5日からは、グループステージで対戦する3カ国とその先の戦いを想定しながら、W杯ベスト8以上の景色が見られるように準備を進めてもらいたい。