「ルンバ」を生み出した米iRobotが中国企業に押され、飲み込まれるまで

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2025年12月16日 17:31  ITmedia NEWS

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初代ルンバ

 ロボット掃除機「Roomba(ルンバ)」でしられる米iRobotは12月14日(現地時間)、米国連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請し、製造パートナーである中国Shenzhen PICEA Roboticsの支援で事業を継続すると明らかにした。ロボット掃除機の先駆けであり、その代名詞にもなっているルンバに一体何があったのか。iRobotの歴史と共に振り返る。


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 iRobotの設立は1990年。マサチューセッツ工科大学(MIT)の「AIラボ」で所長を務めていたロドニー・ブルックス氏と、彼の教え子だったコリン・アングル氏、ヘレン・グレイナー氏の3人で創業した。iRobotという社名は、アイザック・アシモフのSF小説「われはロボット(原題:I, Robot)」にインスパイアされたものだ。


 もっとも、最初から民生機市場を目指していたわけではなかった。ブルックス氏は、1986年にロボットの人工知能に生物学的なアプローチを持ち込んだ「Subsumption Architecture(サブサンプション・アーキテクチャー)」を提唱し、ロボット開発に多大な影響を与えた重鎮。そしてSA理論を実践・具現化するために設立されたのがiRobotだった。このため当初のiRobotは、企業や公的機関からの委託研究を中心に様々なロボットを開発していた。


 例えば1991年の「Genghis(ジンギス)」は火星探査機、96年の「Ariel」は地雷除去ロボットだった。ちなみに初期のルンバが同じ場所を何度も行き来して床面を掃除する機能は、見逃しが許されない地雷探査のノウハウを生かしたというエピソードもある。


 そんなiRobotの転機は、洗剤メーカーのSC Johnson Waxと業務用の清掃ロボットを共同開発したこと。当時のエンジニアたちが家庭用のロボット開発を思いつき、その後のルンバ開発につながる。2000年に玩具メーカー大手の米Hasbroと共同開発した赤ちゃんロボット「My Real Baby」などを通じて民生機のノウハウを培っていたことも幸いした。


●ロボット専業メーカーとして初のIPO


 初代ルンバを米国で発売したのは2002年。当初はシンプルに床をバキューム掃除するだけだったが、一部を重点的に掃除するスポットモードやスケジュール機能を追加した後継機を投入し、次第にヒット商品となる。


 iRobotは2005年に米NASDAQへ上場。ロボット専業メーカーとして初のIPO(株式公開)を果たした。そしてIPOで調達した資金でiRobotは世界へ事業を拡大する。


 日本でも04年に販売代理店のセールス・オンデマンドがルンバを発売して人気商品となり、13年までに日本での累計出荷台数は100万台を超えた。ルンバは“お掃除ロボット”の代名詞となり、「ルンバ猫」などのネットミームを生み出す。ルンバが障害物などに引っかかった際に「助けを求めています」という通知がくることも話題になった。


 そんなiRobotの事業が最も好調だったのは19年から21年にかけて。同社の株価は一時124ドル前後まで上昇し、22年にはルンバの世界累計販売台数が4000万台を超えた。


 しかし、その頃には中国メーカーの成長も著しく、競争は激化。メーカーシェアこそiRobotがナンバーワンを堅持していたものの、iRobotは次第に負債を抱えていた。


 22年8月、iRobotは米Amazonからの買収提案に合意する。この時の条件は、iRobot株1株あたり61ドルで、買収総額は負債を含め約17億ドル。当時の為替レートで約2200億円という規模だった。


 Amazonに買収されていれば、その後の展開は大きく変わっていたかもしれない。しかし実際は欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会がこの合意に懸念を示し、Amazonは24年1月に「承認を得る道がない」として買収を断念した。


 この時、三人の共同創業者のうち最後まで残っていたコリン・アングル会長兼CEOが辞任。従業員も約31%に当たる約350人が解雇された。


 24年にはもう一つ、大きなできごとがあった。iRobotは四半期ごとのメーカーシェアナンバーワンの座を中国Roborock(ロボロック)に奪われたこと。さらにECOVACS(エコバックス)、Dreame(ドリーミー)、Xaomi(シャオミ)といった中国勢が続く。市場調査会社のIDCが6月に発表した25年第1四半期のロボット掃除機の世界メーカーシェアは上位4位までを中国勢が占め、iRobotは5位だった。


 今年3月、iRobotは年次報告書(Form 10-K)に「新製品ラインが成功する可能性は十分にあるが、それでも負債を返済する他の手段が見つからないと、12カ月以上事業を継続できない可能性がある」というGC注記(going concern:企業の継続性についての注意書き)を入れたことで注目を集めた。4月に来日したゲイリー・コーエンCEOは「財務基盤の強化策を進めている」と説明していたが、今回のチャプター11申請と買収に至った。


 ただし、これで終わりではない。アイロボットジャパンの声明にあるように、米国のチャプター11申請は「企業が事業を継続しながら再建計画を策定できる独自の制度」。iRobotが製造パートナーだった中国PICEAの傘下に入り、財務基盤を固めて事業を再建するのに必要な“手続き”でもあるからだ。



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