
ついに来たか、という印象だった。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、PlayStationコンソール向けの新作ゲームのディスク生産を2028年1月に終了する。ゲームの流通手段としての光学ディスクは40年近い歴史を持つが、いよいよ終わりが見えてきたようだ。
もともと音楽用に開発されたCDは、比較的早い時期からコンピュータゲームにも活用されていた。CDは1970年代にソニーとフィリップスが共同開発し、82年に音楽CDとして市販を開始。その3年後の85年ごろにはコンピュータ向けのCD-ROMも登場した。
88年には、NECのゲーム機「PC Engine」向けに、外付けの光ディスクドライブ「PC Engine CD-ROM2(シーディーロムロム)」が登場。PC Engineは、それまでは「HuCARD(ヒューカード)」と呼ばれるカード型のROMでゲームを供給していたが、CD-ROM2の登場で200倍以上の容量を使えるようになり、ムービーパートが一気にリッチに。まるでアニメを見ているようなオープニングムービーに当時のゲームファンは歓喜した。
●次世代ゲーム機と次世代メディアの抱き合わせ商法
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ソニーがCD-ROMを採用した初代「PlayStation」を発売したのは96年。ゲームコンソールとしては後発だが、当時としては高速なポリゴン描画で3Dグラフィックスの地平を開き、大ヒット商品になった。また、音楽CDを再生できたことも支持された要因の一つだったとみられる。
何しろ音楽CDは当時、「バブル」と言われたほどのブーム。98年に出荷数はピークを迎え、1年間でアルバム・シングル合わせて約4億5700万枚が売れた(出典:日本レコード協会)。高価なオーディオ機器を買わなくても、手頃なゲーム機で音楽CDを楽しめたことでユーザーの裾野は広がった。
これが成功事例となったのか、ソニーは続く「PlayStation 2」(2000年発売)に、当時はまだマイナーだったDVD-ROMを採用し、ゲームの大容量化と共に、DVDソフトの再生という付加価値を加えた。これも成功し、世の中にDVDプレイヤーが増えたことで映画DVD販売やレンタルビデオ店のDVDへの移行が進む。国内DVD市場は2000年代後半にピークを迎える。
06年発売の「PlayStation 3」では、当時の“次世代DVD”の座を巡り、東芝などのHD DVDとフォーマット競争を繰り広げていたBlu-ray Discを採用した。HD DVDは、DVDフォーラムが策定したDVDの後継規格だったが、デファクトスタンダードとなったBlu-ray Discが追い落とした形だ。
発売の2年前、当時まだ“次世代ゲーム機”だったPlayStation 3に、Blu-ray Discを採用すると発表したソニー・コンピュータエンタテインメント(現在のSIE)の久夛良木健社長兼CEOは「メディアがCDの10倍の容量になったDVDをPS2が採用したことで素晴らしいゲームが登場し、映画のDVD化との相乗効果も大きかった。メディア戦略とプラットフォーム戦略はきっても切れない関係」と話した。
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このように、ソニーにとってゲーム機のドライブは、オーディオビジュアル事業の新たなメディア戦略を加速させたり、業界標準を作るための武器でもあった。
現行の「PlayStation 5」(20年発売)では、4K解像度のUHD-BD(4K Ultra HD Blu-ray Disc)のドライブを搭載している。ただし、発売する頃にはすでに映像コンテンツはストリーミングで視聴するのが主流になり、UHD-BDも「最後の光学メディア」などと揶揄(やゆ)されていた状況。PS5に当初から光学ドライブのない「デジタルエディション」がラインアップにあったことからみても、ソニーは世間と同様、UHD-BDの普及は限定的とみていたのだろう。そんなPS5発売前夜の微妙な空気感は、当時のコラム記事からも読み取れる。
●ディスク版の購入者はわずか15%に
近年は世界的なインフレと円安で、ソニーはPS5の値上げを余儀なくされ、現在もっとも購入しやすい「デジタルエディション(日本語専用モデル)」でも5万5000円だ。しかし、DRAMやSSDの高騰が続く現在は、ゲーミングPCと渡り合えるグラフィック性能を持つ高コスパのゲームコンソールとして再評価されている。
SIEはディスク生産の終了に当たり、「デジタルメディアへの需要が物理ディスクを大きく上回るなか、ユーザーの利用実態や市場環境の変化を踏まえて決定した」と説明した。
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実際、ゲーム流通の主軸はすでに円盤からネットワークに移っている。同社の25年度決算で公表された資料によると、ゲームのダウンロード販売比率は25年の通年で78%、直近の第4四半期(26年1〜3月)は過去最高の85%に達したという。ディスク版の購入者は15%しかいない。
映像コンテンツの視聴環境もいまやストリーミングが中心だ。JEITA(電子情報技術産業協会)によると、25年のBDレコーダー国内出荷実績は前年比約20%減の62万3000台。地上波テレビ放送のデジタル完全移行でテレビやレコーダーに特需があった11年(678万9000台)に比べると市場規模は10分の1以下となった。
こうした状況を受け、ソニーは25年2月にBlu-ray Discのメディア生産を終了。今年2月には、Blu-ray Discレコーダーの出荷終了も発表した。さらに同社は、テレビやホームシアターシステムなどの事業を中国TCLとの合弁会社に承継する準備を進めている。新会社はTCLが51%の株式を持つ予定だ。
ソニーにとって、もう普及させたいメディアや対応機器が手元にない。ユーザーも大部分がダウンロード販売を受け入れている。であれば、あえてコストの掛かる光学ドライブをゲーム機に搭載する理由はないだろう。
PlayStationだけで30年、PC Engineから数えると38年も続いた光学メディアによるゲーム流通は、とっくに曲がり角を迎えていた。だから今回の発表は「ついに来たか」なのだ。そして次世代機とされる「PlayStation 6」は、光学ドライブを持たないゲームコンソールになる可能性が一層高まったといえそうだ。
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