ニコニコ障害で「仮」サイト好評 往年ネット民が“失って気付く”価値

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2024年06月21日 08:51  ITmedia ビジネスオンライン

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ニコニコ動画がサイバー攻撃によりダウン

 6月8日、ニコニコ動画は大規模なサイバー攻撃によりサービスが停止した。この攻撃は、ランサムウェア、DoS/DDoS、フィッシングなど多様な手法を用いたもので、KADOKAWAグループ全体のITシステムに影響をもたらした。これにより、ニコニコ動画やニコニコ生放送などのサービスが利用不可能となり、直近の同社の発表によると復旧には最低1カ月以上かかる見込みとしている。


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 同社が発表した動画によると、サーバの中身を1つずつ確認し、無事なデータを救出し、安全な環境でシステムを再構築する必要があり、これには多大な時間とリソースが必要だという。また、現時点でクレカ情報などの情報漏洩(ろうえい)は確認されていないが、オンプレミス環境にあるデータの大半が攻撃の影響で利用できなくなり、復旧には一からサービスの再構築が必要だと説明している。


●株価の下落と業績への影響


 サイバー攻撃の発生から、KADOKAWAの株価は3365円から一時15%以上値を下げて2852円まで売り込まれた。現在も攻撃発生前の10%以上マイナスで推移している。ここ最近のKADOKAWAの株価は上昇トレンドにあり、時価総額は5000億円に迫る勢いであった。しかし、本件によって500億円以上の時価総額が吹き飛んでしまった形だ。


 時価総額と単純比較こそできないが、本件を金額規模だけで比較すれば、DMMビットコインにおける約480億円相当のビットコイン流出騒動に引けを取らない。近年ではサイバーセキュリティに関する事案で数十億円から数百億円の損失が発生する事例も珍しくない。これらは、日本におけるサイバーセキュリティの重要性を認識すべき二大事案と捉えてよいだろう。


 今回のサイバー攻撃による業績への影響は、ニコニコ動画やニコニコ生放送の停止、ひいては広告収入やプレミアム会員の収益に直接的な影響を及ぼした。復旧までの期間が長引けば、サーバの再構築に伴う人件費負担の増加や、ユーザーの離脱に伴う中長期的な業績不調につながりかねない。


●新サービス「ニコニコ動画(Re:仮)」が好評


 ただしサービス停止中、ニコニコ動画の有志開発チームが提供した新バージョン「ニコニコ動画(Re:仮)」はユーザーの離脱どころかユーザーの呼び戻しをもたらした点で評価できる。


 新バージョンは、2006年のサービス開始当初のシンプルな機能を再現しているようだ。歴代の著名な動画に限って公開し、視聴やコメント投稿といった最低限の機能を備えた。アクセス集中を避ける措置として、提供範囲は国内に限定している。同サイトは懐かしのフォーマットで思い出の動画を視聴できるとして、ニコニコ動画を見なくなった人たちもアクセスする現象が起きている。


 短期的に見れば、広告機能などはないためアクセス数が伸びたとしてもプラスの効果はない。しかしユーザーの離脱を食い止めるという意味では、長期的な業績に寄与するのではないだろうか。


●「衰退サービス」へのテコ入れ、本当に合理的か


 今回のサイバー攻撃ではニコニコ動画のオンプレミス環境が狙われたわけだが、動画のデータはAWS(Amazon Web Services)のクラウドストレージであるS3というサービスに保管していたことで、ニコニコ動画(Re:仮)の早期リリースにこぎつけられたようだ。


 一方でKADOKAWAグループは運用コスト削減のために、ITシステムを1つのデータセンターに集約していた。これが被害を拡大させたという見方もある。


 確かにオンプレミス環境の構築は、自社のニーズに合わせたハードウェアやネットワークの最適化が可能であり、一貫したパフォーマンスを確保できる。大量のデータ処理やストレージに関するコストを自社で直接管理できるため、長期的にはコスト効率が良い場合もある。


 しかし、オンプレミスには大きな初期投資と継続的な運用コストが伴う。冗長性を確保するためには、地理分散を含めた複数のデータセンターを設置する必要がある――というのが教科書的な説明だ。実態としてはそういった措置を取らず、リスクのあるオンプレミス集中運用をとる企業も少なくない。


 対してクラウド化は動的なリソース調整が可能で、急激なトラフィック増加に柔軟に対応できるため、スケーラビリティとコスト効率がよい。データセンターは世界規模で分散されていることからサービスの継続性も高い。ニコニコ動画や生放送などのコンテンツもクラウド化の利点を享受できる立場にあり、実際にそれらのサービスはクラウドへの移行途中であったという。従って、ニコニコ動画が旧来のオンプレ環境に依存していたことが復旧長期化の原因であると断じるのは早計だ。


 いずれにしても、ニコニコ動画のような大規模データストリーミングサービスを一から再構築するというのは本当に合理的なのか、冷静に判断すべきではないか。ニコニコ動画の有料会員数はここ数年下落傾向にあり、ピーク時の半分まで減少している。広告収入も右肩下がりであり「衰退期」とみる声も少なくない。そんなサービスを再構築するとして、どの程度まで行うかという経営判断にも注目したい。


●けがの功名か? 再興の可能性は


 突如として起きたニコニコ動画のサービス停止によって、普段当たり前のように利用していたユーザーはその価値を再認識しているのも事実だ。YouTubeにはないオタク向けのコンテンツや動画、特有のアングラ的な雰囲気を持った生配信などの存在が、唯一無二の価値を持つと再認識されたのではないだろうか。


 この現象は心理学的にも根拠を求めることができる。「希少性の原理」と呼ばれる、人々は手に入りにくくなったものをより高く評価する傾向があるというものだ。心理学者ロバート・チャルディーニが提唱したもので、例えば販売終了となったお菓子が突然人気を集めるといったケースでもみられる。


 サービス停止が不便さをもたらした一方で、ニコニコ動画を利用できない期間や、ニコニコ動画(Re:仮)リリースがむしろユーザーの価値認識を高め、復活後の利用意欲を喚起するというプラスの側面も見逃せない。サービス復旧後には再び多くのユーザーが戻ってくる可能性もありそうだ。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら


このニュースに関するつぶやき

  • インターネット老人会ではしゃいでたら年がばれるぞ。まあmixiに居る時点で既にばれてるも同然だがね。
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