限定公開( 30 )
しまむらがPB商品として2017年から発売している「FIBER DRY(ファイバードライ)さらっとドライスリッパ」が、2023年に100万足の販売を達成した。6月時点で100万足が売れていて、今年の販売数は167万足を見込んでいるという。
発売当初の販売数は年間20万足ほどだったが、2020年から毎年20万足ずつ販売数が増加し、人気商品の仲間入り。市場調査やモニタリングを通じてスリッパに求められる課題やニーズを洗い出し、毎年改善を繰り返した結果、右肩上がりで売り上げが伸びていったという。
競合の多いスリッパ市場でどのように差別化を図り、消費者の支持を得ていったのか。しまむら商品7部 部長の柳澤一秀氏、チーフバイヤーの東恭平氏、市場調査部 部長の坂本祐希氏に聞いた。
●販売数が伸びず、2020年にリモデルに着手
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FIBER DRYさらっとドライスリッパの発売は、2017年にさかのぼる。FIBER DRYとは吸湿速乾性を備えたしまむら独自の高機能素材商品の総称であり、肌着やジャケット、帽子、スリッパなどに幅広く展開している。
スリッパにおいては、PBの「CLOSSHI(クロッシー)」「CLOSSHI PREMIUM(クロッシープレミアム)」内で「FIBER DRYシリーズ」として販売。しまむらの客層である20〜60代の男女を幅広くターゲットとし、シンプルからキャラクターものまで豊富なデザインをそろえる。
現在のラインアップは、高通気のスタンダード製品「クロッシー」(539円)、高通気に低反発のクッション性と接触冷感機能を付加した厚底製品「クロッシープレミアム」(759円)、キャラクターデザインが施された製品(979円)の3タイプとなる。
今でこそさまざまな工夫が見られるが、発売当時は「ありふれたスリッパだった」と柳澤氏は振り返る。
「インソールにメッシュ素材を使っただけの市場でよく見るスリッパで、他社との差別化が弱い製品でした。それゆえリピーター獲得にはつながりませんでした」(柳澤氏)
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2017年の発売当時、しまむらでは年間500万足ほどスリッパを販売していたが、FIBER DRYシリーズは約20万足の販売にとどまっていた。
「かれこれ20年ほど前ですが、しまむらはスリッパを日本一売っていたんです。しかし、その後は競合他社が販売する100〜300円の低価格商品に市場を奪われています。シェアを取り戻すために旗艦商品を作らなければいけないと考え、2020年からリモデルに取り組みました」(柳澤氏)
●市場調査で「顕在ニーズ」を洗い出し
リモデルの実行にあたり、顧客に支持されるスリッパの市場調査を実施した。しまむらでは5年前に「市場調査部」を発足させ、自社で展開する商品の課題やニーズの発見に注力しているという。
スリッパのリモデルでは、2つの分析手法を採用。1つは社内での「モニタリング」で、30人ほどの社員に改善前のスリッパを履いてもらい、独自に設けた10〜15の項目に対して1〜10点で評価してもらった。
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もう1つは、LINEヤフーが提供するビッグデータ分析ツールのDS.INSIGHT(ディーエスインサイト)を活用した「市場調査」だ。同ツールを使って、消費者がスリッパにどんな不満や悩みを持っているのかを調べた。
「世間の人々が『スリッパ』と一緒に検索しているキーワードに着目し、幅広く調べてみたところ、『脱げやすい』『ムレる』『底が薄い』などの顕在ニーズが浮上しました。それらを商品部に伝え、商品開発に生かしています」(坂本氏)
坂本氏によれば、スリッパにおける市場調査は年1回の頻度で実施しており、その時のトレンドも加味しながら、課題やニーズの洗い出しを行っているそうだ。
●毎年の改善で、どんどん売り上げアップ
こうした顕在ニーズを参考に、しまむらでは毎年製品をアップデートしている。2021年には、甲の裏部分に吸水速乾性を持つメッシュ素材を採用して、よりムレにくい仕様に。2022年には足を入れやすくして、脱げやすさを改善した。
2023年には、メッシュ素材を変えてインソールのざらつき感を軽減。そして、2024年には厚底タイプのアウトソール(靴の裏側のパーツ)にも通気口を設けて、通気性を向上させている。
こうした地道な履き心地の改善に加え、豊富なデザイン展開も売り上げ向上につながっているとバイヤーの東氏は言う。
「キャラクターを使ったデザインは2022年ごろから展開しており、シリーズの中でも非常に人気があります。近年は『昭和レトロ』や『平成レトロ』といったブームの広がりにより、幅広い年齢層の方がキャラクター製品を選ぶようになっています」(東氏)
FIBER DRYシリーズのスリッパは、年間100種類以上のデザインを扱っており、70%強は毎年デザインが変わっているそうだ。
「動物やフルーツのモチーフは女性の支持が高く、側面やインソールのデザインプリントといったしまむらならではの工夫も人気の要因かもしれません。他社はシンプルなデザインが多く、このようなデザインはあまり見かけませんので」(柳澤氏)
機能性の改善や豊富なバリエーションに注力した結果、2020年から毎年20万足ずつ売り上げを伸ばし、2023年に100万足を達成。2024年は当初110万足を目標にしていたが、現状は167万足を売る見込みだという。
「大々的な宣伝活動はしていないのですが、使用感が良くなっていたり、頻繁に新しいデザインを発売したりすることで、リピーターのお客さまを獲得できているのだろうと考えています」(柳澤氏)
●再びの「日本一」を目指す
スリッパの売れ行きに手応えを感じているしまむらでは、今後も市場調査やモニタリングを通じてニーズを拾い上げ、改善を重ねていく方針だ。
「どんどん満足度を高めていき、スリッパ市場のシェア1位を取り戻したいですね。『スリッパといえば、しまむら』と言っていただけるような商品に育てていきたいです」(柳澤氏)
日本一のスリッパを目指すにあたり、悩んでいるのは「価格」だという。
「円安が進み、物価の上昇が止まらない現状を踏まえると、来期の販売価格は非常に悩みます。せっかくリピーターが獲得できているなかで価値が下がってしまうと、今後の売り上げ増につながりません。改善を重ねつつもスタンダードタイプの価格は据え置きとしてきましたが、今後どうしていくか慎重に検討しています」(柳澤氏)
しまむらでは、春夏向けのスリッパとして「FIBER DRYさらっとドライスリッパ」、秋冬向けとして「FIBER HEAT(ファイバーヒート)あったかスリッパ」を季節で切り替えて展開している。秋冬向けのスリッパも毎年およそ10万足ずつ販売数が伸びていて、2024年は90万〜100万足の販売見込みだという。
しまむらのスリッパは、どうなるのか。さらなる進化に要注目だ。
(小林香織)
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