限定公開( 3 )
最近、コンビニ各社が抹茶を使用したスイーツやドリンクを続々と発売しています。コンビニ各社が抹茶に注目しているのはなぜでしょうか。また、緑茶を取り巻く環境は今、どうなっているのでしょうか。消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。
【画像】セブン・ファミマ・ローソンで人気の抹茶系スイーツ、375ミリリットルで1万7280円の超高級ボトリングティーなど(全7枚)
●国内の緑茶市場は縮小中?
数年前、ある有名ファッション誌の編集長をしている友人から次のような話を聞きました。
「最近、海外ロケで撮影に来るモデルたちが飲んでいるものを知ってる? 日本のお茶、緑茶を飲んでいるんだよ。日本のお茶は健康にも美容にも良いから、ボトルにいれて持ち歩いているらしい。これからはきっとお茶がくるよ」
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筆者の実家が静岡のお茶農家だったこともあり、こんな話をしてくれたのでした。お茶がファッション誌のモデルに人気というのには驚きました。確かに静岡では「風邪を予防するのにお茶が良い」「免疫力を上げる効果があるのでお茶さえ飲んでおけば大丈夫」と昔からいわれていました。一昔前なら、お茶はお年寄りが縁側に座って飲むというイメージでしたが、最近では美と健康の側面から、世界で若者に注目されるアイテムに変化しているようです。
では日本での緑茶消費動向はどうなっているのでしょうか。2024年の新茶の産地価格は鹿児島、静岡、福岡で前年を下回っており、前年並みは京都のみです。また、全国茶生産団体連合会が発表している「茶の需給状況」を見ると、日本では人口減少とともに緑茶消費量も減少していることが分かります。
背景には、家で緑茶を入れて飲む習慣そのものが少なくなっていることもあると思われます。そもそも今、急須がない家庭が増えています。静岡県の調査によれば、首都圏のオフィスワーカーのうち、20代男性の8割以上が自宅に急須がないと回答しています。
緑茶の市場規模推移も見てみましょう。2013〜22年度にかけて、1世帯当たりの購入量、1人当たりの購入量、1人当たりの購入金額はいずれも減少が続いています。それに伴って100グラム当たりの緑茶平均単価も減少しています。緑茶は日本国内で、長期的な減少トレンドにあるのです。
●市場縮小の一方で、ペット飲料やコンビニ商品は活況
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一方、ペットボトルのお茶はよく売れています。2023年時点で国内における清涼飲料水の市場は4兆4000億円で、そのうち生産量のトップは「茶系飲料」。販売金額全体における割合でもコーヒー飲料(21.0%)に次いで2位の19.2%です。茶系飲料のうち、50%超が緑茶飲料であり、ほとんどがペットボトル入りということにも注目する必要があるでしょう。
飲み物だけでなく、スイーツでも緑茶は人気です。コンビニ各社が抹茶系スイーツを続々と発売しており、売り上げも好調です。セブン‐イレブンでは、抹茶を使った新商品4種類を5月に発売。新茶の出始める5月以降は抹茶商品がよく売れることも影響しているでしょう。
ファミリーマートでは、2021年春から毎年、宇治抹茶フェアを開催しています。過去3回実施した宇治抹茶フェア対象商品の累計販売数は1600万食を超え、2023年に発売した「謹製宇治抹茶づくし」は売り上げ金額が前年比110%と好調だったようです。
ローソンは京都・宇治の老舗ブランド「森半」が監修した宇治抹茶を使用した6アイテムを発売しています。抹茶系スイーツ・ベーカリーの人気は高く、2023年の商品数は2019年比で19アイテムから33アイテムに拡大し、売上高は約2.5倍になったそうです。中でも森半の監修商品は2022年5月の発売以来、累計1100万個以上を販売しています。
このように、コンビニ各社では新茶の時期に抹茶関連商品で大きな売り上げを作れるようになっており、今や抹茶関連アイテムは欠かせない商品になっているのです。
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●国内市場は衰退気味でも、輸出は増えている
緑茶にはさまざまな種類があります。例えば、「せん茶」「玉露」など多くの緑茶は茶葉の形がそのまま残っています。
一方でコンビニスイーツなどで使うことが多い「抹茶」は、粉末に加工した緑茶を指します。抹茶の原料は茶葉を蒸して、揉まずに乾燥させて作った「碾茶(てんちゃ)」。てん茶から葉脈や茎を取り除いて、石臼で挽いて粉末状にしたものから、抹茶が出来上がります。
せん茶などが販売を伸ばしきれない中で、抹茶はさまざまな料理やスイーツ、ドリンクなどに使用しやすいこともあり、多種多様な業界に広がっていきました。農林水産省によると、てん茶の生産量は毎年増加しており、2011年から2022年にかけて、3倍以上に成長しています。
抹茶は、京都・愛知・静岡で多く生産されています。中でも京都府宇治市と愛知県西尾市は有名な産地として知られており、宇治抹茶と西尾抹茶はブランド抹茶として有名です。
海外マーケットでの需要が高まっていることも影響し、緑茶の生産・輸入・国内消費がいずれも減少傾向で推移する一方、緑茶の輸出量は増加の一途をたどっています。2016年度に一度前年を下回った以外は、軒並み輸出量を増やしており、世界では超人気商品なのです。
●飛躍が期待できる取り組みや、世界的トレンドも
このような流れの中で、各産地の生産者は新しいお茶のスタイルを考え、新たなマーケットの開拓を進めようとしています。その一つが、清涼飲料水や食料品などを手掛けるBenefitea(ベネフィッティー、静岡市)が作るボトリングティーです。
同社はクラフトビールやワインのようにおしゃれな瓶入りのお茶を作っており、G7広島サミットでも同社の製品が提供されました。その価格は何と、375ミリリットルで1万7280円。完全受注生産の特別品ではありますが、一般的なペットボトルのお茶と比較して100倍以上も高いプレミアムなお茶です。同社ではスパークリングティーなどの新商品も開発しており、新しいマーケット開拓につながると全国の茶産地からの引き合いも年々増加しているそうです。
今、世界で加速している「ソバーキュリアス」の流れも、お茶には追い風でしょう。ソバーキュリアスとは「sober(酔っていない)」と「curious(好奇心旺盛な)」をつなげた造語です。高アルコール製品やアルコールそのものを避け「お酒が飲めるのに、あえて飲まない」というライフスタイルを指します。
米業界調査IWSRのデータによると、世界のアルコール消費は減少しており、特に米国でのスピリッツ消費はマイナス基調。代わって伸びているのがノンアル飲料やハードセルツァーです。ハードセルツァーとは、アルコール度数が5%程度あるものの、フルーツ風味などで飲みやすくした低糖質かつ低カロリーな、健康的イメージを強化した飲料です。健康志向がますます強まる中で、世界の飲料メーカーはノンアルやハードセルツァー飲料を次々と開発しています。
こうした流れから、日本の緑茶はノンアル飲料の代表的なアイテムとして、今後大きく売り上げを伸ばしていくチャンスがきていると考えられます。日本の食文化を代表する緑茶は、健康的で、もちろん味も高い評価を得ています。日本国内から見れば「古い」と思われるものでも、世界から見れば新しい商品として提案できる余地があります。ソバーキュリアスというライフスタイルに合わせて開発し、販売スタイルを確立できれば、減少を続ける市場を回復させられる可能性があるはずです。これからの緑茶市場の動向に注目したいと思います。
(岩崎 剛幸)
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