日本から「BTS」は生み出せるか? 世界で戦えるエンタメビジネスの育て方

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2024年09月24日 07:10  ITmedia ビジネスオンライン

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対談するNTTドコモ・ベンチャーズの安元淳・代表取締役社長(左)とMintoの水野和寛・代表取締役

 SNSコンテンツやIPプロデュース事業などのエンタメビジネスを手掛けるMinto(東京都港区)代表取締役の水野和寛です。


【画像】AI modelが伊藤園のリニューアル商品販売のテレビCM向けに生成したAIタレント。日本初の試みとして話題になった


 2018年、メルカリが東証マザーズに時価総額7000億円を超えて上場しました。日本政府も2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、日本国内におけるスタートアップ市場は注目を集めています。


 しかし、日本では長らく「ユニコーン企業が少ない」「グローバル展開で成功できない」と言われてきました。果たして、日本のベンチャー企業は、世界に打って出ることができるのか。生成AIが台頭するなか、テクノロジーとエンタメの関係は、今後どんな変化を遂げていくのか――。


 今回は、当社Mintoが2024年2月に出資を受けた、スタートアップ支援を手掛けるNTTドコモ・ベンチャーズ(東京都港区)代表取締役社長、安元淳さんをゲストに、国内外のベンチャー企業のトレンドや、エンタメビジネスの展望をうかがいます。


●水野 和寛(みずのかづひろ)/ Kazuhiro Mizuno


株式会社Minto代表取締役。


一般社団法人ライセンシングインターナショナルジャパン理事。


前職で国内最大級のデコメやゲーム等の事業を牽引後、株式会社クオン設立。キャラクター・スタンプで世界60億超DL。2021年にSNS漫画で国内最大級のwwwaapと経営統合し、株式会社Mintoに。 統合後新たに立ち上げたWeb3、Webtoon、メタバース領域の事業も成長中。


●アフターコロナで高まるライブ&エンタメビジネス


水野: まずは簡単に、安元さんの経歴を紹介いただけますか?


安元: NTTに入社後、法人営業に従事し、その後はNTTグループにおけるポータル事業やインターネットサービス開発を担うNTTレゾナントに異動し、「goo」というポータルサイトの運営やWebサービス企画、開発に携わりました。


水野: インターネットサービスのディレクションを経験されていたんですね。


安元: はい。Webサービスで利益を出すことの難しさを感じる日々でした。2010年以降、「gooから面白く、新しいサービスが出てこない」という危機感を抱き、2011年頃にベンチャー企業との新サービス創造プログラム「Challengers」を主催しました。オープンイノベーションの考え方を取り入れており、幸運なことに、いろいろな経営者と話をする機会を得ることができました。


水野: その経験は、今の仕事につながっていますか?


安元: そうですね。当時、ベンチャー企業との協業を推進していたこともあり、NTTインベストメント・パートナーズにジョインし、6年ほどベンチャー出資に関わりました。その後、NTTドコモにおいてスポーツやエンタメ分野での事業開発を経て、2023年6月にNTTドコモ・ベンチャーズの代表取締役社長として再びベンチャー業界に戻ってきました。


水野: なぜベンチャー投資の世界に戻ろうと思ったのですか?


安元: 起業家と対峙する仕事は、プレッシャーがかかる反面、とてもやりがいのある仕事だと思っています。NTTグループとしても国内のベンチャーエコシステムの加速拡大に寄与したいと思っていたこともあり、再びチャレンジしたいとは思っていました。


水野: 2024年2月にMintoも出資を受けましたが、安元さんが就任後、NTTドコモ・ベンチャーズは「テック×エンタメ」領域に注力されている印象があります。


安元: NTTドコモがエンタメ領域に力を入れており、IPを軸にしたマネタイズの戦略を立てています。NTTドコモ・ベンチャーズは、直近の投資活動においてB2C事業への出資をあまりできていませんでした。私もNTTドコモ時代に「スポーツ&エンタメ」の事業開発に従事していたので、NTTドコモ・ベンチャーズでもしっかりエンタメ領域にコミットしたいと考えました。


水野: エンタメ領域で注目しているトレンドはありますか?


安元: アフターコロナで、一気にライブビジネスの熱が高まっています。2023年はひとつのチャレンジとして「JWC(明治安田Jリーグワールドチャレンジ2023 powered by docomo)」というスポーツの興行ビジネスを仕掛けました。海外サッカーチームのマンチェスターシティFCと、FCバイエルン・ミュンヘンを招致し、横浜F・マリノスも交えて国立競技場で試合を開催しました。


水野: スポンサーでなく、興行主という立場だったんですね。同業他社で、同じような取り組みをしている企業はあるのでしょうか?


安元: まだ数は少ないです。放映権、チケットビジネスやグッズ販売を行えるのは、興行主という立場でないとできません。今後も続けていく予定ですが、もっと進化させていきたいですね。「d払いでお買い物をしていただくと、dポイントを還元する」など、ドコモグループの資産も活用しながら、いろいろなチャレンジをしていきます。


●エンタメ×生成AIの可能性


水野: では次に、テック関連のトレンドについておうかがいします。安元さんが注目している技術やサービスはありますか?


安元: 生成AIですね。特に北米では、業種ごとに新しい生成AIモデルが続々と生まれています。最近では生成AIを使えば、テキストを打ち込むだけで一気に3D映像を生成できる技術も出てきています。そういった技術はエンタメ領域では既にコスト削減のツールとして欠かせないものになりつつあります。アウトプットに関する指示が的確であれば、さらに効果を上げられると思います。


水野: 日本はいかがですか?


安元: 当社も出資していますが、伊藤園のテレビCMを手掛けた企業AI model(東京都港区)の取り組みは秀逸でしたね。コマース領域では、彼らが生成したAIモデルを活用したことで、商品購入のコンバージョン率の改善を達成しています。テレビCMで人間をモデルに起用すると、有名無名にかかわらず、どうしてもコストが発生するわけで、制作コストを抑えるという意味でもAI活用するケースはますます増えていくでしょう。


水野: Mintoをはじめ、エンタメ企業の多くが生成AIの活用を検討しています。とはいえ、なかなか「正解」を見出すことができていません。


安元: そうですね。ただ、今後は、間違いなくAIがエンタメにおけるコンテンツ制作の補完をしていくでしょう。エンタメ企業は、これまで以上に、人間しか生み出せない価値を、どのように生み出していくかが問われていくと思います。


水野: NTTドコモ・ベンチャーズは、海外展開も積極的に行っていますよね。


安元: 当社は現在、東京とシリコンバレーに拠点を構えており、北米エリアへの出資も盛んに行っています。また、ヨーロッパやイスラエルなども含めると、海外の出資比率は47%を占めます。


 エリアによって、生まれるテクノロジーには違いがあります。例えば環境問題に熱心なヨーロッパでは、エネルギー領域のベンチャー企業が「Climate Tech(クライメートテック)」として注目を集めています。


水野: なるほど。どんな事業を行っているのですか?


安元: CO2排出量削減や地球温暖化の影響への対策を、テクノロジーの力を借りて推進しています。やはり国が本格的に規制をかけているので、企業も個人も対応せざるを得ない。そういった背景があるので、産業も盛り上がっていきます。クライメートテック以外には、世界的な潮流として、サイバーセキュリティやヘルスケアの分野が面白いと思いますよ。


水野: 日本のベンチャー企業には、どんな特徴が見られますか?


安元: 私がNTTドコモ・ベンチャーズに戻ったときに感じたのは、ベンチャーエコシステムが成長を遂げてきているということです。特に、創業からEXITを経験した起業家が、シリアルアントレプレナー(連続起業家)として活躍しているのが目立ちます。


水野: ベンチャーエコシステムが進化したのは僕も実感があります。他に、特徴的なことがあれば教えてください。


安元: DAY1(創業日)からグローバルを見据えた事業をしていることですね。少し前のメルカリもそうでしたが、近年はグローバルを目指す野心的なベンチャー企業が増えているように感じます。われわれの戦略と合致すれば、当社からの出資も積極的に検討したいと思っています。


●「日本はいろいろなことを複雑にしがち」


水野: 「テック×エンタメ」の領域において、テクノロジーの部分は米国や中国が先行しているのかなと思います。ただ個人的には、エンタメを突破口にすれば、日本から世界に出ていく可能性は大いにあると考えています。NTTドコモ・ベンチャーズの視点で、日本のエンタメが世界に広がっていく可能性はあると思いますか?


安元: 日本のIPは強いので、ポテンシャルからすれば、韓国のBTSのような事例も作っていけるはずです。ただ日本国内はそれなりにマーケットが大きいので、グローバル展開するモチベーションが上がらないのは残念ですね。ある程度はビジネスを回せてしまうため、保守的になってしまうのでしょうか。


水野: 「ある程度」というレベルでとどまってしまうのは本当にもったいないことです。


安元: 先ほども話しましたが、「DAY1からどこを目指していくのか」が重要です。海外展開はハードルも高いですが、日本のIPは海外ファンも多い。電子書籍サービスなどは海外向けプラットフォームサービスも検討すべきと考えています。国内IPのグローバル展開を後押しできる存在でありたいですね。


水野: 韓国ではタレントとキャラクターがセットになったり、ドラマやWebtoonとの連携が進んだりしています。日本はそれぞれの業界において慣習の違いや各企業の強いこだわりがあるので、連携するのがなかなか難しい。一方でIPやエンタメに対してフラットな立場のNTTドコモであれば、いろいろな企業をつなげる役割を担えると思うのですが、いかがでしょうか?


安元: 私たちがその役割を果たせるなら本望です。いろいろなマネタイズの手段を検討しながら、いかに顧客接点を作るのか。BTSのケースが正解かどうかは分かりませんが、実際、彼らから学ぶことは多いと思います。


 彼らは徹底してシンプルですよね。BTSのファンにとってX(旧Twitter)などのSNSは重要でなく、ファンコミュニティのプラットフォーム「Weverse」だけで完結します。正直、Weverseって、UIやUXは大したことないと思うんですよ。でも、UIやUXが優れていなくても、ファンは熱量で乗り越えてきてくれるんです。


 日本は、いろいろなことを複雑にしがちです。要は、人が集まる場所をちゃんと設計することが重要なんです。人を集めた上で、その次にキャラクターなど横展開を進めていけばいい。とにかく、初手である「人が集まる場所」の設計を疎かにしてはいけません。


水野: なるほど。そういう意味でいうと、JWCの興行は多くのサッカーファンを集めることに成功しましたね。


安元: リアルでお客さまと体験価値を作るというのがベースです。その後に、どうすればお客さまの熱量をオンライン上で維持する仕掛けを作れるかが大事になってきます。興行が終わって次の興行までの間で、体験をいかにシームレスに紡いでいけるか。その部分の仕組みをIP側と構築できればと考えています。


●起業家とCVCが歩みを共にするために


水野: 現在、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)は日本国内にどれくらいあるのでしょうか?


安元: 私がベンチャー出資に取り組んだ頃、CVCは6社程度しかありませんでした。今は120社を超えているので、10年間で20倍に増えた計算になります。


水野: CVCが求められているんですね。


安元: 自戒も含めてですが、CVCらしく事業会社とベンチャー企業との協業を通じて大きな事業リターンを獲得するのにはまだまだ課題があります。協業のしやすさのもと、新規事業や未成熟のサービスを持つ事業部とベンチャー企業を提携させて、失敗している例も枚挙にいとまがありません。事業規模の大きい事業部との協業は労力がかかりますが、彼らとベンチャー企業を掛け合わせてシナジーを生み出し、一気に上昇気流に乗せるのが私たちの役割だと考えています。


水野: 現在、NTTドコモ・ベンチャーズが目指しているのはどのようなことですか?


安元: 本当の意味で、NTTグループと一緒に事業を作り、世の中を変えていくベンチャー企業に出資することですね。出資比率についても、通常は2〜3%の出資比率ですが、チャレンジするのであれば、出資比率についてもさらにコミットし、協業による成果を互いに着実に高めながら、共に成長していけたら理想ですよね。


水野: リターンを重視しつつ、事業部とのシナジー効果を図っていくということですね。


安元: 一方で、事業部が見えていない技術に張っていくのもCVCの役割だと思います。中には、NTTグループのビジネスモデルをしのぐ技術やビジネスモデルを持ったベンチャー企業も出てくるかもしれません。そういう方々とも私たちはいろいろなアプローチで連携を図りたいと考えています。


水野: リターンの考え方が、他のCVCとはかなり違いますよね。


安元: いや、考え方自体は、おそらく他のCVCと同じだと思います。ただ戦略的リターンを言語化しようとしたときに「そもそも戦略は何か?」という点で各社違ってくるのでしょう。戦略リターンは、数値で可視化することが難しいものです。私たちも経営幹部と目線合わせをしながら、試行錯誤を重ねています。


水野: 出資比率も高めていくのでしょうか。


安元: これまでのCVCのように紋切り型のやり方で低い出資比率を維持しても、やはり株主としての影響力は限定的です。出資先との協業レベルに応じて出資比率を5〜10%まで持つこともあり得ます。CVCとしては少ないですが、リード投資家としてファイナンスを組成するような投資スタイルも、私が就任後からは取り組み始めています。


水野: そのコミットメントはすごいですね。


安元: 学生起業家も増え、プレシード/シード特化型VCも増加傾向にあります。全体的にベンチャーエコシステムは確実に進化しているので、シリアルアントレプレナーをもっと増やしていきたいですね。そのためには事業会社によるM&Aを増やしていくことが肝要で、短期スパン(3〜5年)でシリアルアントレプレナーを輩出できる仕組みづくりをNTTグループ各社と連携しながら目指していきたいです。NTTグループへのEXIT数もインジケーター(目安)にしながら、分かりやすいロールモデルをどんどん作っていきたいですね。



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  • 金をバラ撒いて架空の人気や論調を作ろうとしてもすぐに崩れるなんて、日本のKuToo運動(石川優実)含めて分かるでしょ。所詮は作られた運動。
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