「退職したいが退職代行はさすがに……」 そんなニーズを拾ったサービス、その後は?

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2024年09月29日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「退職代行」を使わずに、どうやって辞めたの?

 退職代行サービス「モームリ」で知られるアルバトロス(東京都港区)が、新たな退職支援サービスを提供している。1月から開始した「セルフ退職ムリサポ!」(以下、ムリサポ)だ。


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 特徴は、利用者自身で退職を確定させるためのサポートを行う点にある。退職代行サービスの先駆者が、なぜ「セルフ退職」を支援するのか。従来の退職代行とは何が違うのか。サービス開始から半年が経過した現在の状況を追った。


●セルフ退職の「ムリサポ」とは


 アルバトロスは、これまでに1万8000件を超える退職相談を受けてきた。退職を望みながらも踏み出せない労働者を支援するため、退職代行「モームリ」を提供し、これまで多くの退職支援を実施している。


 今回、なぜ新たな退職支援のサービスを開始したのか。代表の谷本慎二氏は「退職代行の需要は根強いが、本来はあるべき姿ではない。しかし、退職に悩む人は今後も必ず現れる。その人たちを支援する新たな形が必要だった」と語る。


 ムリサポは、顧問弁護士監修の下、法律に則った退職プロセスのコンサルティングを行っている。退職の意思表示の仕方から有休消化の交渉方法、退職に付随するさまざまな手続きについてもアドバイスしている。


 最大の特徴は、アルバトロス側が退職希望者の所属する会社と“直接やりとりしない”点だ。「退職はしたいが、退職代行は利用したくない」人をサポートしているという。価格は退職代行(2万2000円)より安価な1万5000円で提供している。


●利用者の約3割が「勤続年数3年以上」


 ムリサポは2024年1月にサービスを開始し、相談件数は累計で2113件、そのうち成約に至ったのは85件だ(2024年9月中旬時点)。成約率は当初の想定を下回っているそうだが、その要因は広告出稿を抑えたことでサービス認知度の低さにあるとアルバトロスは分析している。直近では月に10〜20件の成約が生まれるなど、着実に成果が出始めているという。


 ムリサポ利用者の傾向は、3年以上働いている人が全体の3割を占めていること。年代別に見ると、40代以上が4割ほどなので、キャリアを積んできた人からも支持されていることがうかがえる。ちなみに、退職代行の場合、勤続期間6カ月未満が半数以上を占めており、40代以上は1割にとどまっている。


 ムリサポを利用している人は長期間働いている傾向があるが、退職前に残っている有給休暇を消化したい人は4割ほど。この結果を受けて、同社は「とにかく早く退職したい人が多いのではないか」と分析する。


 また、約7割が「退職届のフォーマットがあるかどうか知らない」と答えるなど、自社を辞める際の具体的な手順が分からない人が多い。「自分で退職を伝えたいが進め方が分からない。あるいは、本当に退職できるのか不安と考える人が多い」と谷本氏は語る。


●「退職」のハードルを下げ、働きやすい社会に


 キャリアを積んできた人でも、自分からなかなか退職を言い出せないでいる。こうした傾向は、「会社を辞めること」がいかに難しいかを示唆している。


 希望者には対面でのサポートも実施しており、目の前で電話をかけてもらい、終了後にフォローアップを行う。「アルバトロス側がいる」ことは会社側には伝わらないので、本人も円満退職できるほか、会社側も本人の声を聞けることから退職代行よりもスムーズな形で退職を進められるという。


 ムリサポのようなサービスは、労働市場に何らかの影響を与えるかもしれないが、谷本氏は「退職のハードルが下がることは、長期的には企業にとってもメリットがある」と語る。それはどういうことか。


 従業員とじっくり会話をして、円滑な退職プロセスを踏めば、新たな人材の採用や育成に時間と費用をかけられるようになる。こうした循環が生まれれば、企業にとって悪い話ではないだろう。


●膨大な退職に関するデータが示す離職率低下のヒント


 一方で、従業員の法的知識向上に懸念を示す人事担当者もいるという。例えば、退職後に給与を請求すれば会社側は7日以内に支払う必要があるなど、企業側にとって知られたくない情報も含まれるためだ。


 企業と直接のやりとりが発生する退職代行では、サービスの認知度が上がった今でも、一部の企業側から「絶対に退職を認めない」といった否定的な反応が見られる。しかし同社は、退職に関する正しい知識が労働者の権利を守るセーフティネットとして機能する、と考えている


 アルバトロスは、退職相談のデータを基に、今後は企業の離職率低下に向けたコンサルティングを展開する予定だ。すでに各方面から相談を受けていて、その多くが若手従業員の離職に悩んでいることが分かってきた。


 さまざまな話を聞いていく中で、同社は「退職金制度」の有無にヒントがあると考えている。退職代行サービス利用者のうち、退職金制度がある会社で勤めていた人はわずか1割ほど。つまり、退職金制度があれば、離職率の低下につながる可能性があるということだ。


 中小企業では退職金制度がない場合も多いが、このようなデータを提示することで、制度導入のきっかけになるかもしれない。「人手不足が続く中で、もし応募者が増えるのであれば、退職金制度を導入する価値は十分にある」(谷本氏)


 アルバトロスが掲げる最終目標は、働きやすい社会の実現だ。谷本氏は「退職代行で認知度を上げ、一時的に離職者を増やすことで、企業側の働きやすい環境づくりを促す」と語る。


(カワブチカズキ)



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  • 退職願、書いたなー。理由を書くなら、知識や経験を広げたいなど前向きの理由を書くべきと思う。ま、実際に書いたのは「一身上の都合により」だったかもしれないが。
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