教育業界で異例の“従量課金”ビジネス 子どもを「子ども扱いしない」UIの真意は?

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2024年09月29日 14:51  ITmedia ビジネスオンライン

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RISU Japanは、タブレットを利用した算数の学習教材を手掛ける

 1学年の世代人口が100万人を切るまでに進んだ少子化。少なくなったパイを奪い合うように塾業界は、子どもの囲い込みに励む。塾のビジネスモデルは、中学や高校、大学受験を念頭にして、先取り学習を積極的に進める進学塾と、学校教育のサポートをする学習指導タイプの大きく2つに分かれている。


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 前者の進学塾は、いわゆる日能研やサピックスのように、どちらかというと少数精鋭で、対面授業を重視しているのが特徴だ。一方、後者の学習指導タイプは、学研や進研ゼミなどのように多数に向けた通信教育を主体としている。通信教育を主体としているために、FAXやPCなど、その時代の先端技術を積極的に取り入れ、今ではタブレットを取り入れている事業者も珍しくない。


 塾業界では、後者の通信講座の業態でよりDXが進む。一方、成績上位層が通う進学塾では旧態依然とした対面型教育を重視しているため、地方では質の高い授業を受けられない生徒も出てくる。これが地域間の「教育レベルの格差」という課題を生み出している状況だ。


 この課題を初等教育段階から打破しようとしているのがRISU Japan(東京都文京区)で、主に小学生を対象としたタブレット教材「RISU算数」を2015年から提供している。RISU算数は、文字通り算数に特化したタブレット教材だ。今木智隆社長は算数に特化した狙いを話す。


 「これからの時代を生きる子どもたちの未来を考えた時に、どの科目が必要になってくるかを考えたら『算数』だという考えに行きついたのが理由の一つです。例えば英語は翻訳技術の進歩によって、できなくても何とかなりつつあります。社会と理科は、インターネットで検索すれば答えが出てきますよね。国語で学べる読解力は大事な一方で、指導方法や答えをメソッド化しづらい。その点、算数は他科目の基礎にもなり、ゲーム性も高いので、まずは算数に特化しようと考えました」


●開成中、麻布中の合格者 算数オリンピック金メダリストも輩出


 算数や数学の性質として、好きな子どもにとってはゲーム感覚で学習進度が進んでいく特徴がある。将来の大学受験を見据えても、最も学習進度に差が出る科目が数学だ。苦手とする子どもも少なくなく、学習サポートのしがいのある科目ともいえる。


 RISU算数は、算数ができる子と、できない子の両方をターゲットにしているのが特徴だ。タブレットを通じ、算数の面白さをゲーム感覚で子どもに教えている。苦手な子どもは算数への苦手意識をなくすことから始め、得意な子どもは自在に先取り学習ができる設計にした。先取り学習できる範囲としては、難関中学受験で扱う発展問題に加え、中学数学の内容も提供。利用者の30%以上が、算数に苦手意識があるところから始めているという。


 個々の子どもに合った算数の学習を念頭に置いているため、RISU算数では、学年制を設けていない。進度は全部で94ステージに分けていて、1ステージにつき75〜100問の問題を提供している。


 受講者の中からは開成や麻布といった難関中学の合格者が出た。算数オリンピックの金メダリストも輩出している。通常、この手のタブレット通信教材は、学力でいう「中間層以下」を主なターゲットにしているため、最上位層から下位層まで幅広く対応できているのは画期的だ。


 タブレット教材だけでなく、東京大学や早稲田大学などの学生アルバイトによる個別学習フォローも提供している。各人の学習データはAmazon Web Services(AWS)のサーバに集約。その子どもがどのような間違いをする傾向があるのかが分かるという。全体としてどんな学習傾向にあるのかも把握できるようにした。


 料金体系もユニークだ。月当たり基本料は2948円で、学習の進度によって利用料が変わる“従量課金制”にしている。月間で1ステージ以上の進度になると利用料を発生させ、3ステージ以上になると上限金額の8778円に達する仕組みとした。一度クリアしたステージを復習する分には、利用料を取らない。


 なぜ、教育業界では異例ともいえる従量課金制を採用したのか。今木社長が狙いを話す。


 「教育業界では、基本的に科目を増やしてお金を取るという発想が一般的でした。僕はそれがあまりいいとは思っていなかったんです。だから、きちんと問題が解けないと先のステージには進めないようにはなっていますが、お子さんが優秀で先取り学習した分、費用がかかる仕組みにしました」


 先取り学習をした分、高いコストが発生する形ではあるものの、実際にRISU全体の利用者のうち、75%の子どもが学年より上の問題に取り組んでいるという。その学習平均スピードは、学校の1.7倍にもなる。


 タブレット費用を無料としているのも特徴だ。貸与式ではなく譲渡式にすることによって、解約してもタブレットをそのまま使用できるようにした。解約した場合、新たな問題のダウンロードはできなくなるものの、復習には活用できるという。


 タブレットはRISU算数のために、中国の深センにある企業と開発した専用端末を使用。Androidのような既製のOSではなく、カスタムしたものを使用しているという。RISU算数の事業によって今後、何を実現していくのか。今木社長が明かす。


 「将来的に、数学で突き抜けた人間がここから生まれると面白いと思います。それこそ未来でAIを開発する側の人間に回るためには、やはりどこかで突き抜けなければなりません。全科目等しく学力を伸ばしていく考え方もあるとは思います。でも、僕はその人の得意分野を伸ばしていくべきだと考えます」


 今木社長自身、理数系が得意で、幼稚園の時から天体観測が好きだった。惑星の軌道計算がしたくて数学を学んでいたという。一方で地理などは赤点を取っていたといい、こうした「得意分野を伸ばす」という考え方がRISU算数に反映されている。


●スマート姿勢改善ペンがヒット 消費者の欲求を先取り


 「自分の考え方は偏っていて教育者的ではない」と語る今木社長。教育事業を展開する上で大切にしていることが一つあるという。


 「それは、子どもを大人扱いすることです。例えば、タブレットはブルーライトを抑制したディスプレイを搭載し、長時間の凝視を想定したものを採用しています。RISU算数の画面でも、子どもじみたキャラクターなどは登場しません。他社製品だと、勉強のご褒美にゲームを遊べる機構を採用している商品もありますが、当社はそういう仕組みは取り入れていません」


 RISU算数でも、確かにご褒美的な要素はあるものの、それは解読するための暗号問題や、中学受験に出るような応用問題を出題する形だ。とことん算数への知的欲求を刺激する構成にした。問題を解くと「がんばりポイント」というポイントが貯まることによって、子どもがプレゼントと交換できる制度も設けている。その景品もiPhoneや双眼鏡といった実用的なものばかりだ 。


 この「子どもを子ども扱いしない」UIは、RISU Japanの他製品にも表れている。同社では「RISU AIペン」と称し、子どもの姿勢改善シャープペンシルを販売。これまで同種の製品では「姿勢矯正ベルト」といった商品が存在するものの、これはあくまで子どもに強制させるアプローチだと言える。


 その点RISU AIペンでは、360度近接センサーをペンの末端に内蔵することによって対処した。このセンサーによって、子どもの目と、ペンの距離とを測定。姿勢が悪化するとペンの先端部が物理的に引っ込んでしまう仕組みだ。この機構が目を引き、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」内のコーナー「トレンドたまご」で「2023トレたま年間大賞」を受賞した。他のメディアでも取り上げられ、ヒット商品になっている。


 多様性が叫ばれ、顔が見えない者同士のコミュニケーションが当たり前なインターネット主体の時代では、相手の属性や年齢を分析するだけは効果的なマーケティングができなくなってきた。同社の「子どもを子ども扱いしない」UI設計は、消費者のインセンティブをよく理解していて合理的だ。商品開発のヒントにすべき事例といえる。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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  • 使った分支払うはわかりやすいけどずっと足踏みの子供を認められない親からしたら地獄やな、習熟度クラス学習が公立校で受け入れられない理由でもあるな
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