閑散としていた場所が人気観光地に! パソナ「淡路島移転」と同時に進む、重大プロジェクトの中身

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2024年09月30日 12:51  ITmedia ビジネスオンライン

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淡路島にあるパソナワーケーションハブ鵜崎

 パソナグループが進める淡路島への本社機能一部移転プロジェクトは、段階的に約1200人の社員を異動させるという当初の目標を達成した。島外に住居があり、淡路島へと通勤する人を加えると、淡路島勤務者は約2000人に達している。


【画像】淡路島ってこんなことになってるんだ! 淡路島にあるパソナのオフィス、淡路島内を走る無料バス、人気レストランで提供されている食事と驚きのサービス、学校をリニューアルした新たな拠点、新たなコンセプトの料理を学ぶ若者たち(計22枚)


 同社は2020年9月に、東京の都心部である大手町に集約されていた本社勤務の約3分の2にあたる1200人を、2024年5月までに淡路島に移転することを表明。2023年5月には約1050人にまで増えていて、目標達成まであと一歩に迫っていた。


 淡路島へのオフィス移転は、大都市に人が密集する感染リスクを避けて地方でワーケーションを行う、コロナ禍限定の施策といった見方も強かった。しかし、同社はコロナ禍が終わったとされる今日でも、淡路島での事業拡大を続けている。南部靖之代表も淡路島に移住し、本気の地方創生に取り組んでいる。


 淡路島北部を市域とする、淡路市内にパソナグループのワーケーション拠点は7カ所ある。しかも、大阪湾の眺望が抜群の「パソナワーケーションハブ鵜崎」、イオン淡路店の1フロアーを改装した買い物に便利な「パソナワーケーションハブ志筑」、インターナショナルスクールを併設し子育てに配慮した「パソナファミリーオフィス」など、社員それぞれのワークスタイルに合ったオフィスを開発している。


 また、シングルで子育てをする人を積極的に採用し、時短勤務も可能な「ひとり親 働く支援プロジェクト」を開始。コロナ禍で演奏する機会を失った音楽家が、社員として働きながら音楽活動を行う「音楽島プロジェクト」などもあり、多様な働き方改革に取り組んでいる。


●ほどほどの田舎といった空気感


 オフィスのみならず、社宅も島内に整備。職住が接近していて、東京で働いている時よりも通勤が楽になりラッシュアワーのストレスから解放されたという移住者も多いと聞く。


 いったん淡路島に来た人が、転勤や結婚で東京に戻った例もある。島内の社宅を出て、対岸となる神戸市などから通勤するようになった人もいる。このように、通勤のスタイルもフレキシブルだ。


 神戸市側の淡路島への玄関口である高速舞子停留所から、高速バスで明石海峡大橋を渡って最初の停留所(路線によって異なる)である淡路IC・岩屋中学校まではわずか7分と9分だ。神戸市の中心部、三宮までは高速バスで約40分。パソナのオフィス群も概ね、この近くにある。希望すれば神戸市内からも通勤可能で、取材した社員たちからは、決して「人里離れた孤島に来た」といった感覚はなかった。


 三宮から淡路島に行くバスは、最終で午後11時頃まであるので、休日に大阪、京都、奈良、姫路にも気軽に遊びに行ける。それだけでなく、アフターファイブに神戸に飲みに行くのも可能だ。もちろん、海に出れば釣り三昧の日々が送れる。


 パソナグループでは淡路市内の施設を周遊する無料バスを運行しているので、車を所有していなくても、日中はスムーズな移動が可能だ。


 淡路島は、シンガポールと同じくらいの面積に約12万人が暮らしており、神戸の外縁にある。都会感も垣間見られるリゾート地、ほどほどの田舎といった空気感を持っている。


 島内には、イオンなどのスーパーも所々にあり、コンビニ、100円ショップ、ユニクロ、しまむら、回転寿司、ラーメン店、居酒屋もある。スターバックス、マクドナルド、牛丼店なども営業している。東京のような徒歩で行ける範囲に何でもある便利さはないものの、日々の生活には困らないインフラは整っているといえよう。


 さらに、パソナグループでは、新しくワイナリーを開設しようとしたり、地方創生料理人を育成するプログラムをスタートしたりしている。パソナグループの淡路島での事業の現在地を、報告する。


●2008年から淡路島でプロジェクトを開始


 パソナグループが淡路島に進出したのは、2008年にスタートした農業ベンチャー支援事業がきっかけ。淡路市にて、新規の独立就農や農業分野での起業を目指す人材育成を目的とした。


 2012年には、一般消費者を対象とした商業施設「のじまスコーラ」を初めてつくった。廃校になった旧野島小学校をリノベーション。山形県鶴岡市の人気イタリアン「アル・ケッチァーノ」オーナー・シェフ、奥田政行氏のプロデュースにて、淡路島の食材を使ったレストランとカフェをオープン。農業の6次産業化を目指した。他にも、保存料や着色料を使わないベーカリー、地元野菜や土産品を販売するマルシェ、BBQテラス、ミニ動物園を併設している。


 これが評判となり、「日本の夕陽百選」に選ばれる景観を生かした飲食店を、淡路島西海岸に次々とオープンしていった。他にも、ファミリー向けに「ハローキティ」をテーマにしたショーを楽しめるレストランや、日本が誇るアニメ・マンガと雄大な自然を融合させたアトラクションが売りのテーマパーク「ニジゲンノモリ」、インバウンドの観光客に人気が高い「禅」が体験可能な「禅坊靖寧(ぜんぼう せいねい)」といった多彩な施設をオープン。


 こうした施策により、淡路島西海岸は、休日に明石海峡大橋がしばしば大渋滞になるほどの人気観光地となった。


 注目すべき新しい施設としては、2023年4月にオープンした「淡路シェフガーデン by PASONA」が挙げられる。全国から集結した約30店の料理が、カラフルなコンテナの店舗や、海に向いたテラスで堪能できる屋外型のリゾートレストランだ。各店舗は、淡路島の新鮮な食材を使った料理を提供する。席数は約600席。


 淡路シェフガーデンは、2021年4月にコロナ禍の影響を受けて営業を縮小せざるを得なかった、全国の名店のシェフを招き、淡路島東海岸にて期間限定で営業していた。2022年11月に営業を終了したが、お店を継続したいと希望する声が多く、新たに西海岸に移転して再オープンした。一部、パソナグループがプロデュースする店、ヴィーガンチョコレート専門店「VIE CHOCOLAT」、農産物販売「農援隊マルシェ」も含む。


 名古屋の人気きしめん店が手掛ける「星が丘製麺所」、発酵・醸造料理として有名な伏木暢顕シェフがプロデュースするフライドチキン「10W(ジュワット)」、淡路島の鮮魚卸3代目が出店した「海鮮丼HINOMARU」、姫路駅名物「まねきのえきそば」が進出した「まねきのしまそば」など、B級グルメを中心とした魅力あるラインアップとなっている。


 このように、パソナグループの淡路島事業は、東京でなくてもリモートで遂行できる管理部門などの仕事を移しているだけではない。地元産品を使った飲食店などを経営・プロデュースして観光需要を喚起する、地方創生で成果を上げていることが注目される。


●広大な土地に会員制農園や人気レストラン


 パソナグループが淡路島に進出して、最初に農業ベンチャー支援事業に取り組んだ地区では、「Awaji Nature Lab & Resort」プロジェクトが進行中だ。「農・食・住」をテーマに、環境や健康に配慮した価値観の醸成を目指した、約3万8000平米のサスティナブルガーデンとして整備している。


 地産地消の農家レストラン・マルシェ「陽・燦燦(はるさんさん)」は茅葺屋根の日本家屋風の建物で、2021年10月にオープン。紙管を駆使して建てる、リサイクルを考慮した新しい工法にチャレンジしている。設計は、建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を2014年に受賞した、建築家・坂茂(ばん しげる)氏。


 陽・燦燦は淡路島でパソナグループが展開するレストラン群でも、最も人気が高い店の一つだ。淡路牛や自社栽培の野菜の料理などが手頃な値段で食べられるとあって、女性客、インバウンドなど幅広い客層を持つ。


 筆者がランチタイムに同店を訪れた時には、店内で15分ほどのトランペット演奏がサービスとして行われた。演奏はホールスタッフが、給仕をする服装のままで披露。パソナグループでは、コロナ禍で演奏の機会を無くした音楽家たちを、社員として雇用して活動が続けられるように支援している。この店に限らずさまざまな楽器の演奏や歌が音楽家の社員によって、日々披露されている。


 Awaji Nature Lab & Resortでは、2022年10月に会員制農園「ウェルネスファーム」をオープン。同年11月には、「自然と暮らし研究所」を開設し、自然循環型のモノづくりを行う企業・大学・研究機関から研究所会員を募集して、セミナーや展示による情報発信に取り組んでいる。野菜の収穫体験、堆肥づくりといった農業体験を行うなど、日々の暮らしの中で実現するSDGsを目指している。


 2025年には、農業体験をしながら滞在可能な宿泊施設をオープンする予定だ。


●リノベした小学校で盛りだくさんのプロジェクト


 パソナグループは、2025年春をめどに、有機栽培による自然派ワインの生産を目指す「自然循環型ワイナリー」を開設。観光農園としても運営する計画だ。


 淡路島で運営する自社飲食施設や連携する水産加工業者からの食品残さを堆肥化して、ブドウを栽培する。ヤマブドウを改良した「りざん」「龍王」といった瀬戸内海沿岸に向いた特別な品種を採用した。


 アドバイザーには、ボルドーBTSA(醸造栽培上級 技術者養成校)でワインを学び、フランスにおける日本人個人ワイナリーのパイオニアである、大岡弘武氏を迎えた。大岡氏は2016年に帰国し、ブドウ育種家の林慎悟氏と岡山市に一般社団法人「おかやま葡萄酒園」を設立。耕作放棄地を活用した、ブドウ栽培からワイン醸造までを推進している。


 また、7月3日には、福島県会津美里町で、無農薬・無化学肥料の米栽培に取り組む、イタリア出身のタレント・モデルのパンツェッタ・ジローラモ氏のマネージメント会社「Carry On」と連携協定を締結。健康や観光に優しい有機米栽培を淡路島で実践する、農業教育プログラムを提供する。


 Awaji Nature Lab & Resortを統括する、パソナ農援隊・田中康輔社長は、「農業をもっと暮らしに身近なものにしたい」と、施設のミッションを力説。「例えば、チョコザップ(RIZAPグループが手掛ける、低価格のセルフ型ジム)は、行きにくかったジムを気軽に行ける場所にした。農業におけるチョコザップのような存在になることを目指す」と意気込んでいる。


 パソナグループでは淡路島に勤務する約300人の社員が、業務の傍ら自社農園で野菜を育てており、“ちょこっと農業”を実践している。


 そして、パソナグループは7月11日、最新の施設として、食と健康を追求する産業(同社ではウェルビーイング産業と表現)の人材創出拠点「としまスコーラ」をオープンした。


 としまスコーラは、閉校になった旧富島小学校をリノベーション。同社の淡路島事業ではのじまスコーラに次ぐ2つめの学校を改装した施設だ。


 このとしまスコーラでは、淡路島の農産物を加工し商品開発をする、同社の島内レストランのセントラルキッチンとしての機能を担う。また、動物性の商品を一切使わない、ヴィーガンスイーツを開発・製造する「ヴィーガンスイーツ研究所」を開設した。


 パソナグループの社員として働きながら、地域の資源や食文化から新たな価値を創造し、地域の魅力を発信する「地方創生料理人」1年制の育成プログラム、「Awaji Chef's Scuola(あわじシェフズスコーラ)」も開講した。


 としまスコーラには、一般の利用ができるカフェ「Cafe としま」を併設。同カフェは、Awaji Chef's Scuola受講生が、メニュー開発、仕入れ、接客などの店舗運営を一気通貫で学ぶ場所ともなっている。


 このように、さまざまな機能を持つとしまスコーラだが、パソナグループの新たなワーケーション拠点でもある。


●目を輝かせる若者


 筆者は、Awaji Chef's Scuolaの授業が開かれていたので、様子をのぞいてみた。


 その日の講義は「発酵」をテーマにしたもので、発酵・醸造料理の第一人者である前出の伏木シェフが座学・実習を行っていた。受講生は10人ほどいた。


 講義では、微生物が食材や心身に及ぼす働きを教える。実習では、発酵調味料の伝統的製法と、大量生産の製品のうま味の差を、実際の製品を受講生たちが味見をしながら検証する、といった内容だった。


 受講生の1人に話を聞いてみた。小間陽斗氏は大阪の出身で、大阪市内の辻学園調理・製菓専門学校を卒業。リゾート関連の会社を探していたところ、パソナグループに入社した。普段は、パソナグループが淡路島で経営するフレンチの「ラ・ローズ」に勤務しつつ、Awaji Chef's Scuolaで学んでいる。


 淡路島では農業体験ができることもあり、「自分で野菜を育ててみて、食材がどこから来ているのか、料理をつくるストーリーが学べるのが楽しい」と、目を輝かせる。山海の食材の宝庫と言われる淡路島で働くことで、生産者とのつながりができることに大きな価値を見出していた。専門学校では食材の背景までは深く教わらない。顧客と生産者の双方に向き合って、料理を振る舞える環境ができていると実感している。


 日本の食産業の未来を担う一流のシェフが、淡路島から生み出される日が来る予感が漂う。


 以上、パソナグループの淡路島における事業は、ワーケーションと6次産業化を軸に、さらなる進化を遂げている。閑散としていた西海岸は、人気の観光地として蘇った。子育て支援のインターナショナルスクール誘致や、シェフを育てる学校の開校により、人が学び育っていく環境を整えつつある。今後の動向を見守っていきたい。


(長浜淳之介)



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