吉野家の「ダチョウ丼」反響は? 第4の肉で探る“勝ち筋”を聞いた

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2024年10月21日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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吉野家HDがダチョウ事業に本格参入

 2024年8月、吉野家ホールディングス(以下、吉野家HD)はオーストリッチ(ダチョウ)に関する事業への本格参入を発表した。人口増などによる食糧不足問題の解決を目指す新事業で、外食事業での活用に加えて、ダチョウのオイルなどを活用した美容事業にも手を広げる。


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 同社は、2015年に茨城県にあるダチョウ牧場を買い取って飼育事業を開始。2017年にはダチョウ事業を手掛ける日本オーストリッチファーム社(茨城県石岡市、現:SPEEDIA〈スピーディア〉)を立ち上げた。2024年にダチョウの肉やオイルを活用した新事業を本格化している。


 8月28日から限定的にダチョウ肉を使った「オーストリッチ丼〜スープ添え〜」(1683円)を吉野家で発売したほか、ダチョウのオイルを使用した化粧品も販売した。


 ダチョウは健康や美容の観点で利点を持つというが、吉野家HDではどんな勝ち筋を描いているのか。同社の執行役員 兼スピーディアCTOの辻智子氏、スピーディア スキンケア商品事業部長の練木寛子氏に聞いた。


●牛豚鶏に続く「第4の肉」に


 吉野家HDのダチョウ事業への参入は、「持続可能な未来」を見据えて始まった。1899年に創業し、1968年に外食チェーンの展開を開始した同社は、50年以上にわたって事業を継続してきた。


 広報担当者いわく、「直近の50年間は牛肉の動向に左右され続けてきた」という。穀物飼育の牛にこだわり北米から牛肉を仕入れているため、輸入の解禁状況や2004年に起きた牛海綿状脳症(BSE)の問題、為替などに大きく影響された。全国1200以上の店舗で安定的に日常食を提供し、事業成長を遂げるには畜種分散が命題だったわけだ。


 これまでは、鶏の唐揚げを「第2の柱」と位置付けて、メニューの幅を広げながら畜種分散を図ってきた。現状の販売構成比は、牛丼関連商品が約50%、鶏の唐揚げが約15%(目標値は20%)を占め、さらに季節商品やその他メニューが続くという。


 こうした背景があり、同社の河村泰貴社長が目をつけたのが「ダチョウ」だった。牛豚鶏と比べて少ない飼料で育ち、ほとんどメタンガスを出さないため温室効果ガスの排出量が少ない。さらに、カロリーや脂質が少なめでタンパク質・鉄分・ビタミンB12は豊富だ。見た目が牛肉に似ていて、味が好印象だったことも決め手の一つになったようだ。


 そうした畜産としての魅力から、吉野家HDは2015年に茨城県にあるダチョウ牧場を買い取って、ダチョウの飼育事業を開始した。現在、広さ3.6ヘクタールの農場で日本最大規模となる約500羽を飼育している。飼料効率がいいダチョウだが、「育てやすいわけではない」と辻氏は言う。


 「ダチョウは背が高くて足が長く、人間の骨が折れるぐらいのキック力があります。二足歩行で世界最速なので、それなりの面積も必要です。また、雛のうちは高温や湿気などの環境変化に弱く、環境コントロールが欠かせません。そうした課題に対して試行錯誤しながら取り組んでいます」(辻氏)


●ダチョウ肉はクサみがなく栄養価が高い


 吉野家は8月28日から、スピーディアでとれたダチョウのモモ肉とヒレ肉をローストビーフ風に仕立てた丼にダチョウのガラスープを添えた「オーストリッチ丼〜スープ添え〜」(1683円)を全国の約400店舗で発売した。限定約6万食を発売したところ、1店舗1日当たり平均10〜20食が売れ、比較的早い段階で終了したそうだ。


 「メニューの開発では10種類以上を検討したのですが、ダイレクトに素材のおいしさを味わえるローストビーフ風を選択しました。ダチョウ肉を食べたことがない方が多いので、カレーなどの複雑な味わいではなくストレートに旨味を感じていただこうと考えました」(広報担当者)


 気になるダチョウ肉の味についてSNS上の反応を見ると、賛否両論あるものの高評価が目立つ。具体的には「鴨肉に近い」「クセがなくおいしい」「やわらかくてジューシーな食感」といった声が見られた。一方、「クサみが苦手」という感想もいくつかあった。


 「お客さまからの反響では、『鶏肉なのに見た目が赤いことに驚いた』という外観に関する声と『味にクセがない』という感想を多くいただきました」(広報担当者)


 「ダチョウの肉は処理後、すぐに冷凍しています。店舗の担当者も肉の状態を慎重に管理するなどして高い品質を保っています」(辻氏)


 1683円という価格は「かなり努力して設定した」というが、消費者から「高い」という声が多かった。これは吉野家HDでも把握しており、「今後の関連商品の価格は検討したい」との回答だった。


●ダチョウのオイルを使った化粧品も発売


 ダチョウは「第4の肉」として期待されているが、副産物としてとれる「オイル」も売り上げ拡大に貢献するという。ダチョウの油は牛のように霜降り状に入るのではなく、分離した脂肪組織として存在しており、その組織から純粋なオイルを精製できるという。


 スピーディアが実施したダチョウのオイルに関する研究では、肌水分量を増加させ、美容成分を肌に浸透させ続ける能力が高いことが証明されている。特に、近年人気の成分であるナイアシンアミドに関しては、オイルの塗布により浸透効果が23倍になることが分かった。


 こうしたオイルの利点を生かし、「グラマラスブースターオイル」(5720〜1万5400円)、「グラマラスエイジングクリーム」(1万6500円)、「モイスチャーマスク」(550〜5500円)などの商品を販売している。「ブースター」とは、化粧水や美容液を塗る前に塗布し、化粧水や美容液の浸透を高める化粧品だ。


 「化粧水や美容液はお好みの製品がある方が多いと思います。それらを生かす製品をラインアップしていて、今お使いの製品に追加していただくイメージです。明確なターゲット層は定めず、健やかなお肌を求める全ての方に向けて販売しています」(練木氏)


 自社及び、日本調剤とヨドバシカメラの通販サイトで販売するほか、都内を中心にポップアップショップも展開。販売開始から1カ月強の現時点での反響を尋ねると、「想定以上に男性や外国人からの関心がある」という。


 「意外な反響については、吉野家HDが開発した化粧品だから、というのもあるかもしれません。特に、顔に貼って使用するモイスチャーマスクが男性に好評です。『日焼けなどで顔が火照った際に使うと鎮静作用で赤みが抑えられる』といった口コミが寄せられ、リピート購入が増えています」(練木氏)


●まずは1000万円の利益を目指す


 8月下旬の発表会で、河村社長は「ダチョウ事業で、まず1000万円の利益を目指す」と語っている。


 今後のダチョウ事業の展開として、2024年末にコンシューマパック(少人数世帯の消費者向けに包装した食品)としてダチョウ肉を通信販売で扱う予定とのこと。現在の供給体制では提供できる店舗数が限られてしまうため、店舗での販売時期は未定だという。


 自社での活用以外にB2Bでの販路も拡大しており、外食事業者などへのダチョウ肉の販売に加え、ダチョウからとれるオイルやケラチンなどを化粧品メーカーにも販売予定だ。


 「コンシューマパックは、オーストリッチ丼と比較して手に取りやすい価格帯での販売を検討中です。B2Bについては、外食事業者や化粧品のOEMメーカーなどから多数の問い合わせをいただいています。ただ、肉に関しては自社での販売分とすでに契約している企業分の確保が先決のため、新規開拓はまだ難しい状態です」(辻氏)


 販路の開拓にあたり、辻氏はダチョウの飼育技術を確立させ、効率的に飼育していく必要性にも触れた。


 「ダチョウの飼育技術はまだ発展途上で、優れた技術を確立している牧場はありません。当社が業界のリーダーとなり技術を発展させていくことが最も重要なチャレンジだと思っています。


 ダチョウは食糧問題の解決に寄与するという観点で、世界的に期待が高まっています。一方、欧米ではダチョウのような赤身肉の味わいはあまり好まれず、流行が行ったり来たりしている。今こそ私たちがブームを作っていきたいなあと。ダチョウ関連の研究者の方々など、業界のみなさんと一丸となって広めていきたいですね」(辻氏)


 近い将来、ダチョウブームはやってくるのか。次なるダチョウ肉の販売戦略に注目が集まりそうだ。


(小林香織)



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