「巨人・坂本の時代は終わったのか?」坂本勇人、プロ18年目の現在地

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2024年10月28日 17:44  ベースボールキング

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巨人・坂本勇人 (C)Kyodo News
◆ 今年のドラフトで高校No.1遊撃手を1位指名

 巨人がドラフト1位指名したのは、“ポスト坂本勇人”だった。

 花咲徳栄高の石塚裕惺内野手は、U-18アジア選手権で全日本の四番を張った強肩強打の高校No.1遊撃手だ。奇しくも坂本と同じく外れ1位となった石塚は、坂本が巨人から1位指名された2006年生まれの18歳。気がつけば、“ジャイアンツの末っ子”のような立ち位置から十代で颯爽とデビューした坂本も、いまや新人選手と大きく年の離れた、もうすぐ36歳のベテラン選手である。

 今季の巨人は4年ぶりのリーグ優勝を飾るも、クライマックスシリーズ最終ステージでDeNAに3勝4敗(アドバンテージの1勝を含む)で競り負けた。このCSを通して坂本の起用法は日替りだった。

 第1戦「6番三塁」、2戦「5番三塁」、3戦「代打」、4戦から6戦は「6番三塁」。前半は不振で3戦目にスタメン落ちするも、徐々に復調。6試合で17打数6安打、打率.353。長打は二塁打1本のみで打点はなかったが、ヘッドスライディングで貪欲かつ愚直に次の塁を狙う鬼気迫るプレーはナインを鼓舞し、球場全体の雰囲気を変えた。若い頃は「もっと感情を表に出してチームを引っ張れ」と度々指摘され、誰よりもクールにヒットを積み重ねてきた男が、30代中盤のベテランとなり誰よりも泥にまみれて1点をもぎ取りに行く姿にファンは熱狂した。

 思えば、現役時代の阿部慎之助監督も、2015年のCSで徹底的に安打狙いの短期決戦モードで臨み、16打数11安打の打率.688という凄まじい数字を残したことがあった。あの時の阿部も捕手から一塁に転向した36歳のベテランだった。


◆ 「ショート坂本」時代の終焉

 今季の背番号6は109試合で打率.238、7本塁打、34打点、OPS.613とレギュラー定着後自己ワーストの打率に終わり、「岡本和真・吉川尚輝のチーム」へと世代交代を強く印象付けるペナントレースとなった。昨年9月に三塁転向した坂本は遊撃での出場はなく、守備機会はすべて三塁手。これは、阿部監督が現役時代に捕手から一塁転向した際、現場は毎年のように捕手復帰を目論んだが、満身創痍の身体が悲鳴を上げ断念した監督自身の経験も影響しているのではないだろうか。中途半端に遊撃に戻すと、坂本の選手寿命に影響する。さらにその間、チーム編成も定まらず補強も後手に回ってしまう。

 今季、巨人のショート出場数は2年目の門脇誠が107試合、ルーキーの泉口友汰が48試合、新外国人のモンテス(実戦で遊撃起用するには厳しいレベルだったが)5試合、高卒4年目の中山礼都が3試合。ドラフトでは1位で石塚、2位でも浦田俊輔(九産大)と高校生と大学生の遊撃手を指名している。2024年、ついにチームは15年以上続いたショート坂本の時代に完全に区切りをつけ、次のフェーズに進んでいるのは明らかだ。象徴的なのが21世紀の巨人は10度のリーグVを飾っているが、今季は「キャッチャー阿部」もしくは「ショート坂本」に頼らない初めての優勝でもあった。




◆ 来季の坂本はどう起用されていくのか?

 いつの時代も、ファンを「圧倒」してきたスーパースターが、歳を重ねると再び這い上がろうとあがく生き様で観客の「共感」を得るようになる。数字や指標の向こう側の「感情」を我々は共有する。それがプロスポーツの真理だ。CSの泥まみれの背番号6にも、過去最大級の声援が送られていた。

 さて、それでは来季2025年シーズンの坂本は、どう起用されていくのだろうか? 今の巨人内野陣は今季一塁130試合、三塁29試合に出場した不動の4番・岡本和真の近未来のメジャー移籍の可能性があり、さらには一塁起用が39試合と増えた23年ベストナイン捕手の大城卓三もFA権を取得しており去就が注目されている。

 一方で、阪神の大山悠輔のFA獲得調査も一部で報道された。若手内野手では、実質的な“一軍2年目のジンクス”に陥った秋広優人が11月から豪州ウインターリーグに派遣され逆襲を誓い、イースタンでチーム最多の15本塁打を放った20歳の育成選手ティマも来季の注目株のひとりだ。ドラフト3位の大型三塁手・荒巻悠(上武大)も来季の強化指定選手として起用されるだろう。


 少なくとも、今季開幕時のように「三塁坂本」の先発起用を前提にした編成ではなくなった。これまで多くのプロ野球選手が“35歳の壁”に悩まされ、絶対的レギュラーからチーム内での立ち位置も変わっていった。王貞治は36歳シーズンで49本塁打、37歳で50本塁打という凄まじい成績を残したけど……という規格外の世界のホームラン王伝説は置いといて、例えば選手・阿部は35歳の14年シーズン、前年の「打率.296・32本塁打・OPS.991」から、「打率.248・19本塁打・OPS.765」へ大きく成績を落とした。高橋由伸は34歳の09年に腰痛でわずか1打席の出場に終わり、35歳の10年シーズンは前年秋に受けた腰の手術から復帰。116試合で「打率.268・13本塁打・OPS.804」という成績を残すも、攻守に躍動していた全盛期の姿には程遠かった。それぞれ数年後、30代後半の彼らはその存在感と勝負強さで、「代打の切り札」という新たな役割を担うことになる。

 通算2415安打の坂本もそういう時期に差し掛かっているのは間違いない。ただ、阿部も由伸も大卒ドラ1組で、現在チーム最年長の長野久義は社会人経由の1位入団。長嶋さんが引き当てた甲子園のスター松井秀喜はキャリアの絶頂でヤンキースへ移籍後、アメリカで現役引退。平成以降の巨人では高卒ドラ1野手が、10代からずっとレギュラーで活躍して、30代後半を迎えるというケースはほぼ皆無である。我々は球団創立90周年を迎えた巨人の長い歴史でも、非常に特殊な選手のキャリアの分岐点に立ち会っているわけだ。

 振り返れば2019年8月7日、6連敗中だった巨人の原辰徳前監督は、「5番一塁」でベテラン阿部を23試合ぶりにスタメン起用したことがあった。頼れる背番号10は4号2ランを放ち、ここからスランプに苦しんでいた四番岡本が復調。チームも連敗を脱出する。当時の阿部は代打の切り札でスタンバイ、ここぞのポイントでスタメン起用され岡本の負担をワリカンした。まさに現実的に来季の背番号6に求められる役割もそれではないだろうか。

 あの時、2019年の阿部慎之助はプロ19年目だった。そして、2025年の坂本勇人も、プロ19年目のシーズンを迎えようとしている――。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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