人材不足の状況下で、多くの企業が採用に力を入れるのと並行して、リテンション(人材流出防止)にも注力するようになってきました。
【画像】「これまで、会社を辞めたいと思ったことがあるか」 アンケート回答結果
新人・若手社員のリテンションは、以前から大きな人事課題の1つです。ただ、現在の新人・若手、つまり1990年代後半以降に生まれたZ世代に関しては「どうやって早期離職を防げばよいか分からない」「気持ちや考えをよく理解できない」といった人事・上司の皆さんの悩みの声が、これまで以上に多くなっています。
そこで本記事では、ともに働く若手社員にいきいき活躍してもらうために、人事や上司は何をどうしたらよいのかをお伝えします。
●若手を「生かす」視点を持つことが重要
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最初に結論からお伝えすると、新人・若手のリテンションには、皆さんが彼らを「生かす」視点を持つことが大切です。もちろん、若手には経験不足で未熟な面があります。行動や言動にフラストレーションを感じることもあるでしょう。
しかし、これから詳しく説明しますが、実は人事や上司の皆さんが若手から学べることも多くあるのです。「教える」だけではなく若手の特徴を引き出し生かす姿勢も持つことで、組織や人事制度などをアップデートするきっかけとなるケースもあります。つまり、若手のリテンションに向き合うことは、人事・上司の皆さんにとっても、ある意味でチャンスといえると考えています。
例えば「もっと仕事にやりがい・意義を感じたい」とで悩んでいる若手がいるとします。それに対し「若手のうちからそんなことを考えるのはわがままだ」と注意するのは簡単です。
しかし、頭ごなしに否定してしまうと、若手は本音を出しにくくなり、コミュニケーションがうまくいきません。モチベーションを引き出し、エンゲージメントを高めるためには、まず発言の真意を確認することが大切です。
真意が分からないときは「どうしてそう思ったの?」と聞いてみてください。問いをきっかけに対話を続け、考えや思いを深掘りしていくのです。若手から、皆さんが想像もしなかったような答えが返ってくることもあります。
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●若手の特徴や強みを「知る」ことから始めよう
若手を「生かす」ためには、まず本人の特徴や強みを「知る」ことが大切です。そこで、私たちリクルートマネジメントソリューションズが行った「新人・若手の早期離職に関する実態調査(2023年)」の結果をいくつか紹介します。なお、回答者は社会人1〜3年目(大学・大学院卒のみ)の435人です。
(1)半数以上が「会社を辞めたい」と思ったことがある
これまでに会社を辞めたいと思ったことが「ある」(58.8%)が、思ったことが「ない」(41.2%)を上回りました(図表1)。新人・若手に対して、何らかのリテンション施策が必要であることを示唆する結果です。
(2)辞めたい理由は「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)が最多
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会社を辞めたいと思った理由のうち、影響の大きかったものを最大2つまで選んでもらいました(図表2)。「仕事にやりがい・意義を感じない」(27.0%)が突出して多く、その次に「給与水準が満足できない」(19.0%)という結果になりました。新人・若手は、仕事にやりがいや意義を求める傾向があると言えそうです。
その背景には、新人・若手が個性ややりがいを重視する教育を受けてきたこと、社会貢献意識が高まっていること、SNSを通じて多様な価値観や成功事例に簡単に触れられるようになったことなどがあると考えられます。若手に仕事のやりがい・意義を感じてもらうことが、リテンションのポイントの1つです。
(3)「プライベートの時間が確保できる、さらに充実させる」(24.4%)ことを望む者が多い
「仕事で、このためなら労力をかけてもよいと思うもの」については、「プライベートの時間が確保できる、さらに充実させる」(24.4%)と「高い収入を得る」(23.0%)という回答が特に多く、少し離れて「自分のやりたいことができる」(16.8%)が続きました(図表3)。
若手は、プライベートの時間を重視したい傾向の人も多いことが分かります。図表4は、理想的なワーク・ライフバランスについて、新人・若手と上司・育成担当者に分けて分析した結果ですが、新人・若手の方が、プライベート重視派が多いことが見て取れます。
上司や育成担当者がプライベートは仕事で一人前になってから充実させるものと考えるタイプの場合、プライベートを大切にする新人・若手にギャップを感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、新人・若手も決してやる気がないわけではありません。プライベートを大切にしつつ、仕事にも前向きに取り組みたいという場合が多いのです。
(4)若手の半数近くは、転職のハードルが低い
「今の会社を辞めた場合、次の選択肢(転職・起業など)が見つかる」と考える新人・若手は60.0%に上りました(図表5)。
また、そう思う理由として当てはまるもの2つを選んでもらったところ、「条件に高望みはしておらず、どこかは見つかると思う」という回答は44.1%ありました(図表6)。もちろん、「転職市場が活況である」(29.9%)ことも大きな理由ではありますが、実に半数近くが高望みをしていないことが分かります。
つまり、若手は転職のハードルが低く、転職を人生の一大イベントとは捉えていない人が多いようなのです。この背景には、転職が当たり前となったこと、オンライン面談などが可能になりかつてよりも活動しやすくなったことなどがあると考えられます。
(5)自分の人間性や価値観を認め、気持ちを受け止めてくれる上司・先輩を求めている
「自分のダメなところや悩みなど何でも話しやすい上司・先輩」については、「仕事ができて的確なアドバイスがもらえそうな人」(30.3%)、「普段から自分の人間性や価値観を認めてくれていると感じる人」(25.5%)、「押し付けがましくなく、自分の話や気持ちを受け止めてくれると感じる人」(24.8%)が上位となりました(図表8)。
相談先として、仕事ができる人が挙がるのは順当でしょう。興味深いのは「人間性や価値観を認めてくれていると感じる人」「自分の話や気持ちを受け止めてくれると感じる人」が上位に来ていることです。若手は、人事や上司・先輩に、まず自分の価値観を認めてほしい、自分の気持ちを受け止めてほしいと思っているのです。彼らの真意を聞き、一旦受け止めることから始めてみてはどうでしょうか。
●新人・若手は「時代の鏡」とも言える
人事や上司といった立場の皆さんに、こうして新人・若手への理解を深めることをおすすめするのは、新人・若手が「時代の鏡」だとも言えるからです。
例えば、図表8はリクルートマネジメントソリューションズが毎年実施している「新入社員意識調査」の理想の職場・上司像の結果を、2013年と2023年で比較したものです。オレンジ部分は著しく減っている項目で、いずれも10年前には理想と考えられていた要素です。上の世代の皆さんは、これらの項目(鍛えあう・活気がある・情熱・厳しい指導)になじみがあるはずです。反対に、現在はグリーン部分の「個性の尊重・助けあい・一人ひとりへの丁寧な指導・ほめる」が増えています。
この10年間の変化は、キャリア自律、共創型リーダーシップなど、現代の企業組織が向かっている方向と合致しています。また、新たな価値の創造においては、立場や経験に関係なく誰もが意見を言い、一人ひとりの強みや個性を発揮していくことが有効です。
お互いに力を合わせ、本人が持つ特徴に目を向けてメンタルやモチベーションを高める方が、エンゲージメントやパフォーマンスにつながることも確かです。つまり、新人・若手はある意味で、時代の変化を先取りしている存在でもあるのです。
●若手からも学び、組織を「アップデート」していこう
今、新人・若手の特徴をふまえた効果的な育成スタイルが新たに模索され、成果をあげ始めています(図表9)。例えば、相手を否定せずに安心と信頼で自律を引き出す「心理的安全性」が有名です。一人ひとりの個性や多様性を尊重し、自己決定を支援していく方法も進化しています。
それらは新人・若手に限らず、全世代のエンゲージメントやパフォーマンスに対しても重要な要素です。新人・若手の育成から学んだやり方を育成にとどまらず、全社に広めていくことで組織の活性化に寄与することも可能です。ぜひ試行錯誤してみてください。
●著者情報:武石 美有紀
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス推進部 トレーニングプログラム開発グループ 研究員
2014年大学在学中に個人事業開始。 2016年リクルートキャリア(現リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は、リクルートマネジメントソリューションズ にて、主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。
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