アメリカ大統領選挙はトランプ氏が圧勝し、初の女性大統領を目指したハリス氏は
ガラスの天井を破ることは出来ませんでした。
【写真を見る】トランプ氏再登板で変わる世界 ロシア、ウクライナ、中東への影響は 専門家「戦争を止めた実績を作りたい」アメリカ大統領選【報道特集】
投開票の前後、明暗分かれた両陣営で何が起きていたのか、トランプ氏再登場で世界の何が変わるのかを取材しました。
圧勝のトランプ前大統領 「トランプはNO」女性たちの思い世論調査では最後まで支持率が拮抗し、歴史的な接戦とまで報じられたアメリカ大統領選。
その結果は、トランプ氏が激戦州を制し、大差での幕引きとなった。
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トランプ氏の勝利宣言
「クレイジーなことが起こった。アメリカ国民にとって大きな勝利だ。アメリカを再び偉大に!」
何が勝敗を分けたのか。
思わぬ大差で敗れたハリス副大統領。投票前の集会を取材すると、女性や若者が目立っていた。
ハリス氏支持者(17)
「投票はできなくても、支持する姿を見せることで変化を起こせます」
中には、10代前半の女性も。
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ハリス氏支持者(14)
「女性が自分の身体について決める権利、中絶の権利のために戦うハリスに大統領になってほしい」
投票を目前に控えた11月2日。全米から多くの女性たちが首都ワシントンの中心部に集まっていた。
村瀬健介キャスター
「選挙前で、事実上カマラ・ハリス支援集会のようになっています。グッズもたくさん売られていますし、ものすごい数の人が集まっています」
女性の権利向上を訴える「ウィメンズマーチ」は、トランプ氏が前回大統領に就任した翌日から行われてきた。男女平等や中絶の権利を求めるプラカードが並ぶ。
「中絶は殺人」だと主張するキリスト教・保守派と、中絶の権利を求める女性たちとの間で小競り合いも起きていた。
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友達と一緒に参加した、大学生のエリノア・クラークさん。
大学生 エリノア・クラークさん
「私は19歳。初めての大統領選挙です」
エリノアさんの記憶に刻まれているのは、12歳のとき、ガラスの天井を破ろうと大統領選に挑んでいたヒラリー・クリントン候補を応援したことだ。この時は事前の予想に反して、トランプ氏が競り勝った。
エリノアさん
「周りの女の子たちは泣いていました。本当に心を痛めました。トランプ政権で、私たちは苦悩しながら大人になりました。日々、『女性は重要な存在ではない』と言われ続けたのです」
村瀬キャスター
「トランプ氏が大統領だったから、政治に関心を持ったのですか」
エリノアさん
「そうです。自分の基本的な権利を否定されたことから行動に駆り立てられ、声を上げて社会を変えていこうと行動するようになったのです」
エリノアさんたち参加者は、ホワイトハウスの周りを行進。“投票で自分の意志を示そう”と訴えた。
投票日前夜、大統領選の現場は…投票日前夜、ハリス陣営は最後の集会を激戦州・ペンシルベニア最大の都市で行った。
村瀬キャスター
「最後の訴えをフィラデルフィアの会場で、ハリス副大統領がこれから行います。私の場所からはほとんど米粒ぐらいにしか見えないんですけれども、たくさんの人が集まっています」
レディー・ガガなど有名アーティストも多く駆けつけ、大観衆が最後の訴えに耳を傾けた。
ハリス氏
「恐怖と分断に動かされてきた10年間の政治に、ついに終止符を打つ機会が訪れました。私たちが戦えば勝てる」
一方、トランプ陣営もペンシルベニアで集会を開いていた。
村瀬キャスター
「ほとんどの人が、既に2時間近くトランプ前大統領の登場を待ち続けています。それだけ熱心な支持者たちがいることがよくわかります。ただ一方で空席もあります。最後列ですけれども、前の方を見ても結構空席が目立ちます」
会場の入りは6割程度。最終日にも関わらず空席が目立つなか、トランプ氏が最後の訴えを行った。
トランプ氏
「インフレや犯罪者の侵略を食い止めて、アメリカンドリームを取り戻す。アメリカを再び偉大に!」
そして迎えた投票日。
村瀬キャスター
「選挙当日になりました。ワシントン市内は板を打ち付けている店が目立つようになりました。選挙結果に不満を持つ人たちが抗議デモなどで暴徒化することを警戒して、防御策を施しているんですね」
前回の大統領選では、敗れたトランプ氏が選挙結果を受け入れようとせず、抗議デモを開催。暴徒化した支持者が、議会議事堂を襲撃。死者が出る事態に発展した。
トランプ氏が負ければ再び混乱が予想される中、首都ワシントンには緊張が走っていた。
村瀬キャスター
「これは選挙のために?」
作業員
「選挙のためだよ。ここ一帯で板を貼る作業をするんだ。そのために窓の寸法を測っている」
投票日、大学で授業を受けていたエリノアさんを訪ねた。
ジョージタウン大学・民主党員学生会の広報部長として選挙活動に参加してきたが、緊張と期待が入り混じる感情を抱いていた。
エリノアさん
「この日のために去年から活動してきました。多くの時間を費やし、個別訪問をし、遅くまでたくさん電話をしました。今は、何が起こるかとても楽しみです」
ーーガラスの天井が破られるのをみたいですか?
「ハリスが勝利することで、大統領のガラスの天井を破ると信じています」
エリノアさんは前のトランプ政権時代、女性蔑視の風潮が広がり、とても怖かったという。
エリノアさん
「トランプは女性を軽視していました。LGBTQの権利を尊重せず、人種的憎悪をうちに秘め、考えが表面化したのを何度も目撃しました。リーダーがこのような憎悪に満ちた考えを持つことが、どれほど深刻なことかわかりました」
夜になり開票が進むと、激戦州でトランプ氏がリードしていることが明らかになっていった。
固唾をのんで見守るハリス氏の支持者たちは…
ーージョージア州でトランプ氏に当確が出ました
ハリス支持者
「正直に言えば、いい気はしません。ハリスが圧勝することを願っていましたから」
ハリス支持者
「とても失望してます。まだ結果はわからないから、今も少しは希望を持っていますが、ここまで見て、悲しい気持ちになっています」
ハリス陣営のパーティ会場でも落胆が広がった。
村瀬キャスター
「ハリス陣営のパーティ会場では、大画面で選挙特番が流されていますけれども、とても厳しい情勢が流されています。激戦州のペンシルベニア州を含めてトランプ候補にリードを許しているという報道が流れて、会場も沈んできているような感じです。会場から立ち去る人の姿も見えています」
結果はトランプ氏が激戦州を制し、大差で勝利。さらに共和党は、上院で過半数を奪い返し、下院でも多数派を維持する勢いだ。
エリノアさんは、共に戦ってきた大学の仲間たちと開票を見守ったが、願いはかなわなかった。
エリノアさん
「選挙結果には失望しています。でも、性や生殖をめぐる権利、マイノリティの権利や、トランスジェンダーを含むすべての人が適切な医療を受ける権利を守るために、私たちは戦い続けます」
CBS出口調査によると、ハリス氏は4年前のバイデン氏の得票に比べて、ヒスパニック、若者、さらに女性からも支持を減らす惨敗。
ハリス支持を表明していたニューヨーク・タイムズは、民主党の戦略ミスを指摘した。
ニューヨーク・タイムズ紙より
「民主党は、一連の進歩的な問題提起が有権者を遠ざけていることに気付くのが遅すぎた」
トランプ氏の再登板はアメリカ外交の方向性を変え、世界情勢を一変させる可能性がある。
注目されるのは、ロシアによるウクライナ侵攻への対応だ。
トランプ氏
「皆、私が戦争を始めると言うが、私は戦争をやめさせる」
大統領選の勝利演説でこう述べたトランプ氏。
今年9月にゼレンスキー大統領と会談した際にも、プーチン大統領との関係性を強調し、停戦を主導する構えを見せていた。
トランプ氏(9月)
「私はプーチン大統領と非常に良好な関係を築いている。もし私が大統領選で勝てば、すぐに問題を解決できる」
プーチン大統領はトランプ氏の当選を歓迎する。
プーチン大統領(7日)
「この場を借りて、彼がアメリカ大統領に選出されたことを祝福したい」
プーチン大統領は、トランプ氏がウクライナ危機の終結を目指すと発言したことは「注目に値する」として、対話に「応じる用意がある」といいきった。
これに対して、警戒感をあらわにしたのがゼレンスキー大統領だ。
ゼレンスキー大統領(7日)
「私はトランプ大統領が迅速な解決を望んでいると信じている。しかし、私は早期終結には損失が伴うと確信している」
ゼレンスキー大統領のこの発言には理由がある。今年4月にアメリカメディアが報じた、トランプ氏が示したとされる戦争の終わらせ方だ。
ワシントンポスト(4月7日より)
「トランプ氏はウクライナに圧力をかけ、領土の一部を放棄させることで戦争を終わらせることができると語っている」
停戦について、アメリカの外交に詳しい明海大学の小谷哲男教授は…
明海大学 小谷哲男教授
「基本的にはウクライナにより多くの譲歩を求めることになると思います。今もう既に占領されている領土に関しては軍事力ではなくて、その後の和平交渉後の外交交渉で取り返すべきだと言っている(共和党側の外交アドバイザー)グループがいます」
日下部正樹キャスター
「非常に悪い前例になってしまう気もしますけど」
小谷教授
「まさに自分がピースメーカー(仲裁人)として、この戦争を止めたというその実績を作りたいということだと思いますし、やはり今の国際法の基本は、力による現状変更を認めないということですけれども、おそらくそれはトランプ氏にとっての優先課題ではないのだと思います」
そして、選挙戦でトランプ氏を全面支援し、勝利宣言でも持ち上げられた実業家のイーロン・マスク氏にも注目が集まっている。
マスク氏率いる衛星通信サービス「スターリンク」が、ウクライナの戦場で使われているためだ。
小谷教授
「彼(マスク氏)もプーチン氏との個人的な関係があると言われていて、しかも彼は米軍にもスターリンクを供給していますから、米軍の通信の大きなインフラを提供している。米軍の秘密をもしかすると、マスク氏がプーチン氏に流しているのではないかという懸念もあります」
群を抜くテクノロジーを有するマスク氏は、外交でも無視できない存在となっている。
中東パレスチナ自治区ガザでの紛争にも、トランプ氏の再登場は変化を与えるとみられる。
日下部キャスター
「トランプ氏の立場は、圧倒的にパレスチナよりイスラエル支持ですよね」
小谷教授
「従来、ムスリム票はほとんど民主党の候補に流れていたのですが、今回トランプ氏に流れたということで、パレスチナ側の人道支援、あるいは民間人の保護というものも無視できなくなる可能性は否定できないと思います。完全にイスラエル一辺倒ということではなくなるかもしれません。イスラエルに譲歩を求めるということがありうると思います」
来年1月の就任を前に、早くもトランプ氏の思惑を世界が緊張して見守っている。