柿の渋みの正体と、渋みをなくす方法について解説します。
渋柿とは……渋みの正体は「タンニン」(カキタンニン)
この渋みの元となる成分は「タンニン」と総称される化合物です。柿に含まれるタンニンは、特に「カキタンニン」とも呼ばれ、お茶に含まれることで知られるポリフェノールの一種であるカテキン類がいくつか結びついてできた分子です。渋柿に含まれるタンニンは、比較的水に溶けやすい性質があります。専門的には「収れん作用」と言いますが、このタンニンは口の中に入れると溶け出し、舌や口腔粘膜のタンパク質に結合して変性させ、「渋い」という感覚を生じさせます。
「渋み」は、「渋“味”」と表記されることもありますが、生理学的には味覚ではなく、どちらかというと触覚に近い感覚なので、「渋“み”」と書くのが正しいです。
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「渋抜き」をしてもタンニンは消えない? 渋柿を干すと甘くなるのはなぜか
渋柿をおいしく食べる方法として、紐でつるして屋外に二週間くらい干して「干し柿」にする方法がよく知られています。一般に「渋抜き」と呼ばれる過程です。言葉から、「干すことで、渋みの元がなくなる(抜くことができる)」と思っている方も多いかもしれませんが、実は、干し柿にしても渋みの元であるタンニンはなくなりません。
実は渋柿は、渋みが強いために甘さを感じにくいのですが、甘柿よりも、多くの糖分を含んでいます。干している間に、元々含まれていた糖分はアルコールになり、そのアルコールはアセトアルデヒドに変化していきます。
そして、アセトアルデヒドは複数のカキタンニンを結びつける「架橋」の役割を果たし、分子量が大きく水に溶けにくい形のカテキンへと変化するのです。
水に溶けにくくなったカテキンは、口の中に広がりませんので、「渋み」が生じなくなるというわけです。
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干し柿よりも簡単! なぜ焼酎につけると「渋抜き」ができるのか
「干し柿」にするよりも手軽に渋みをなくすことができる方法として、「焼酎を使う」方法もよく知られています。お皿に焼酎を入れ、渋柿を皮をむかずに、ヘタの部分だけをチョンと焼酎につけます。あとはビニール袋に入れて閉じ、日の当たらないところに何日か置いておくだけです。なぜ焼酎につけることで渋みがなくなるのか、不思議に思う方もいるでしょう。
これは焼酎に含まれるアルコールが柿の実の中に吸収されることで、「干し柿」と同じように、アルコールがアセトアルデヒドになり、水溶性カテキンを水に溶けにくい性質に変えてくれるからです。
お酒にもいろいろありますが、蒸留酒である焼酎が適しています。なぜならアルコール度数が高く、余計なものが入っていないからです。
日本酒やワインは、焼酎よりもアルコール度数が低く、失活しているとはいえ酵母なども入っていますので適しません。アルコール度数が高ければ高いほどいいのですが、ウイスキーやウォッカだと独特な風味が移りやすいので、やはり適しません。
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アルコール度数が50度近い「柿の渋抜き用」のものも売られていますので、利用してみてもいいでしょう。早ければ5日で渋抜きは完了します。
さらに簡単! レンジを使った渋抜きの方法とは
「5日も待てない!」という方には、近年、ネット上で見かける比較的新しい方法があります。アルコールからアセトアルデヒドの生成、そして難溶性タンニンの形成という一連の化学反応は、温度が高いほど早く進みます。その性質を利用し、「皮をむいた渋柿に焼酎をかけてラップでくるみ、電子レンジで30〜40秒ほど温める」という方法です。興味のある方はチャレンジしてみてもよいでしょう。
なお、筆者が試したところ、この方法ではどうしても渋みが残りました。とにかく速さを重視したい方にはよいかもしれませんが、よりしっかりと渋みをなくした柿を食べたいなら、従来の方法が無難かと思います。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))