2月末、セブン&アイ・ホールディングスはコンビニに生鮮などのスーパー機能を追加した「SIPストア」を千葉県松戸市でオープンした。売場面積は従来店の1.5倍以上で、精肉や野菜、冷食などを販売しており、業態としてはイオングループの「まいばすけっと」に近い。
【画像】普通のセブンとはこんなに違う! SIPストアの店内、取り扱っている商品、セブンとしては珍しい「授乳室」アピール(全6枚)
そんなSIPストア、開業から8カ月が経過したにもかかわらず、2号店の出店はまだない。セブン&アイはあくまでテスト店舗だとしているが、好調であればそろそろ新店を構えて良いころだ。SIPストアはなぜ増えないのか。実店舗を訪れ、その理由を考察していく。
●スーパーとコンビニを合体させた新業態「SIPストア」
SIPストアは、セブン‐イレブン松戸常盤平駅前店をリニューアルした、セブン&アイの新業態店だ。新京成電鉄新京成線・常盤平駅の北口から徒歩1分に位置し、周辺にはマンションや戸建て住宅が並ぶ。西隣には、スーパーの「オーケー」が5月に開店した。
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ちなみにSIPストアという名称はセブン‐イレブン・ジャパン(SEJ)とイトーヨーカ堂(IY)による「SEJ・IY・パートナーシップ」に由来する。その名の通り、店内は従来のセブンと食品スーパーを掛け合わせた構成になっている。売場面積は88坪で通常店の1.5倍以上、商品数も5300と通常店の2倍ほどである。
全体として通路が広く、2人が難なくすれ違える広さだ。大まかには、店舗の東側4割がコンビニ、西側6割の面積がスーパーという構成になっている。コンビニスペースには通常のセブン-イレブン店舗と同じく、ドリンクや弁当、おにぎり、パンやカップ麺などが並ぶ。商品自体も通常のセブンと変わらない。たばこも販売し、入口側にはATMが設置してある。
●どっちつかずの店舗で、結局コンビニ商品が売れている
西側には生鮮や加工食品、冷凍食品などが並ぶ。生鮮は精肉と青果が主で、魚は少ない。精肉は最大でも1パック200グラムほど、にんじんや玉ねぎは2個入りで提供するなど、1〜2人暮らしにちょうど良いサイズが特徴だ。筆者が訪問した際の価格帯は、国産豚挽肉が100グラムで151円、国産豚小間切が100グラムで146円。にんじん・玉ねぎは2個入りで150円で、一般的なスーパーと比較して決して安くはない。隣のオーケーと比較すれば、その差は歴然だろう。
加工食品や総菜は、パック入りの「セブンプレミアム」商品が多い。セブンプレミアムは食品を主とするPB商品で、セブン-イレブンやイトーヨーカドーで販売している。冷凍食品も他と同様、メーカー品を陳列しつつ、PB商品が多い。その他、トイレットペーパーや洗剤などの消耗品を陳列している一角もある。
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このようにスーパー的な商品も多いが、昼間の1時間ほどじっくり見たところ、通常のコンビニのようにドリンクや軽食などを買う客が多いように感じた。反対に、精肉や青果を買う客は少なかった。物珍しさでスーパーのエリアに寄ってみたものの、商品を手に取らない客も見られた。やはり品ぞろえと安さでは魅力が弱く、向かいのオーケーの方がにぎわっている。
●グループ内のチェーンとのコラボも、足かせに?
SIPストアでは試行錯誤している様子が随所にみられた。具体的には、雑貨チェーンのロフトがセレクトした商品や、「アカチャンホンポセレクション」など、グループ内チェーンとのコラボコーナーが挙げられる。
ロフトがセレクトした商品では、化粧水やアイライナーなどの化粧品を陳列。女性客を取り込む狙いがあったのだろう。常盤平駅周辺にコスメ関連の店舗が少ないことを出店のきっかけとしているものの、今後展開していく上では、特に薬局の多い地域などで効果が薄れてしまうと感じた。
離乳食などベビー用品のアカチャンホンポセレクションは、近隣の子育て世帯にとって有意義ではあるが、少子高齢化時代ではビジネスとして大きく成功する可能性は低い。化粧品と同様、薬局も競合となるため、現状のSIPストアをそのまま全国展開するのは難しいと考えられる。
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ちなみにSIPストアの2階には、22席のイートインスペースと赤ちゃん休憩室(授乳室)、子どもが遊べるキッズルームがあった。しかし日曜の昼にもかかわらず利用者は筆者のほか男性客1人だけで、利用者が少ない印象を受けた。
ファミマで無印良品の商品を取り扱った施策が失敗しているように、そもそもコンビニと他企業のコラボは効果が薄い。コンビニにおけるメインの商材は、あくまでも食品とたばこであり、売り上げの1割しかない非食品に力を入れたところで、全体への影響は小さいと考えられる(セブンは既存店でダイソーとのコラボを強化している)。
●類似コンセプト「まいばすけっと」との違い
あくまでもテスト店舗と位置付けるSIPストアが1号店から増えないのは、やはり競合が多いためだろう。日販は100万円を超え、女性客比率も既存店の4割台から65%に上昇したとしているが、他の地域に出店できるかは疑問だ。前述の通り、化粧品・ベビー用品で集客する手段は薬局が競合となり得る。向かい側のオーケーに客を取られているように、食品スーパーには品ぞろえと価格で劣る。
似たような業態に、イオングループの「まいばすけっと」がある。首都圏を中心に1000店舗以上を展開し、コンビニとスーパーを合わせた機能を持つ。一部店舗ではたばこを販売し、ATMも設置している。
まいばすけっとは何より価格が競合と遜色ない点が特徴だ。生鮮は一般的なスーパーとそう変わらないが、150円以下のペットボトル飲料を多くそろえ、600円以下で量も十分な弁当を販売している。生鮮を買う客とコンビニと同じように飲料や軽食だけを買う客の2パターンで利用されており、コンビニとスーパーの両機能をうまく合わせた店舗になっている。
まいばすけっとは住宅街の隠れた場所やオフィス街など、食品スーパーの“過疎地”に出店し、競合を避けることに成功している。SIPストアのように駅前至近の場所に出店する例は少ない。同店舗が既に都内を押さえている以上、SIPストアが都内で攻勢をかけるのは難しいだろう。
最近では“上げ底弁当”や“パッケージ詐欺”が話題になるなど、セブンに対する風当たりは強い。競合の多い他業態に進出する前に、既存店の商品を見直すべきではないだろうか。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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