埼玉栄高校グラウンドで車横転事故…運転していた生徒は「無免許」といえるのか? 学校の管理責任はどうなる?

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2024年11月19日 15:30  弁護士ドットコム

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さいたま市西区にある私立埼玉栄高校のグラウンドで11月16日深夜、男子生徒(16)が運転していた軽乗用車が横転し、助手席に乗っていた男子生徒(17)が死亡する事故が起きました。


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後部座席にも別の男子生徒が乗っており、計3人がナンバープレートのない「グラウンド整備用」の車に乗っていたとされています。



報道によると、軽乗用車は時速30〜40キロ程度で走行していたとみられ、グラウンド脇ののり面に乗り上げて横転。その際に助手席の窓を開けて外に身を乗り出していた助手席の生徒が身体を挟まれたようです。亡くなった生徒以外にケガはありませんでした。



運転していた生徒らは、埼玉県警に「過去にもグラウンドで運転した」と話しているといい、学校によると、カギは軽乗用車の中に置いておく運用になっていたといいます。学校側の管理体制が不十分だった可能性も報じられています。



学校のグラウンドで、自動車の死亡事故という「異例」ともいえる状況だが、生徒らはどんな責任を問われるようなことになるでしょうか。また、学校側の責任はどうなのでしょうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)



●考えられる刑事上の責任

まず、運転していた生徒の刑事上の責任として、危険運転致死罪の「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ」た結果、人を死亡させた場合(自動車運転処罰法2条3号、1年以上(〜原則20年まで)の有期懲役)にあたるのでは?と気になる方が多いと思います。



同条の「技能を有しない」とは、ハンドル・ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能すら有しないような、運転の技量が極めて未熟なことをさします。



たとえば、運転経験がまったくなく、右左折をうまくできないとか、ブレーキがうまく操作できず、急発進・急停車したり、他の物に衝突させてしまうような技能しか有していない場合です。



なお、この判断には免許の有無は関係なく、実際に車を運転できる基本的な技能があるのかで判断されます。免許を持っていないからといって、ただちに「技能を有しない」とはなりません。



今回のケースでは、実際の運転状況や、この生徒の運転経験がどのくらいだったのかが問題となりそうです。たとえばこの生徒がこれまでも運転をしており、特に事故などを起こしていなかった事情があれば、本罪は成立しないことになりそうです。



次に、危険運転致死罪にあたらない場合も、無免許過失運転致死罪(自動車運転処罰法5条、6条4項。10年以下の懲役)等に問われる可能性があります。



これらの犯罪が成立する場合、少年事件として家庭裁判所の審判を受けることになる可能性があります。



●運転免許の必要な「道路」といえるのかどうか

報道によると、運転していた生徒は「無免許過失運転致死」の疑いで事情を聞かれているようです。



生徒らは高校のグラウンドで運転していたようですが、このグラウンドが、運転免許を必要とする「道路」といえるのか、つまり「無免許」だったのか、という点が大きな問題となります。



●運転免許が必要な「道路」とは?

グラウンドが「道路」でなければ、運転免許はいりませんから、「無免許運転」にはなりません。



そして、道路交通法上、運転免許が必要とされる「道路」には、大きく分けると以下の3つの種類があります(道路交通法2条1号参照)。



(1)道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路
(2)道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道
(3)一般交通の用に供するその他の場所



(1)(2)は高速道路や県道・市道、有料道路など、割とわかりやすく決まっているため、主に問題となるのは(3)です。今回のケースでも、この(3)にあたるのかが問題となります。



●「一般交通の用に供するその他の場所」の解釈に関する最高裁判例・高裁・地裁の判例

この定義については、判例・学説上、さまざまな議論がされてきました。



最高裁昭和44年7月11日判決は、「私有地であっても、不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は、同法(道路交通法)上の道路であると解すべき」と判示しています。



この判例は、比較的緩やかに道路にあたるという判断をしており、その後も(3)として道路といえるのかは、比較的緩やかに判断されている傾向があります。



ただ、だからといって、いつも「不特定の人が通れるから『道路』にあたる」というような単純な認定がされているというわけではないことには注意が必要です。



「不特定の」人や車が、「自由に通行できる」かどうかは、事案ごとに具体的に検討する必要があります。具体的には、その場所の道路としての形態、通行の状況、場合によっては管理者の意思や、各法律の適用の是非まで加味して検討されます。



このような具体的事情を検討した結果、「道路」にはあたらないとされているケースもあります。



たとえば、最高裁昭和46年10月27日決定は、無料駐車場内の事故で、駐車場の中央部分について、傍論部分ではありますが「道路」であることを否定しています。



また、作業員のほかは通行する人・車のない採石作業内の道は「道路」にあたらないとするもの(福岡地裁直方支部昭和41年7月22日判決)や、立ち入りに許可が必要な団体の業務所構内(仙台高裁昭和38年12月23日判決)などで、「道路」にあたらないという判断がされていることにも注意が必要です。



●グラウンドは「道路」にあたるのか

小学校の校庭で、貨物自動車を運転した行為につき無免許運転が問題となったケースで、「学童その他一般公衆の多数出入する小学校校庭の如も‥「道路」の中に包含されるものと解するを相当とする」と判示し、有罪としたものがあります(高松高裁昭和27年3月29日判決)。



そうすると、今回のケースも、小学校と高校という違いはあるものの、「高校生その他一般公衆」が多数出入りするものとして、「道路にあたる」といえそうにも思えます。



ただ、先にも書いたように、具体的な事情が異なっている可能性は十分あります。



たとえば、校門が閉鎖され、グラウンドに関係者以外は誰も入れない状況だったとか、グラウンド内で自動車を運転するためには施設管理者による特別な許可が必要だったなどの事情がある場合、「道路」と認定されない可能性も出てくるでしょう。



●学校側の民事上の責任

次に監督やコーチの監督責任も問題となります。まず、埼玉栄高校は私立高校ですので、国家賠償法は適用されません。



担任や部活の顧問などは、民法上の不法行為責任(民法709条)や、安全配慮義務違反(同法415条)による損害賠償責任を負う可能性があります。



学校は、使用者責任(同法715条)を負う可能性があります。



これらの責任を問う際には、教師や学校側に過失があったのかが問題となります。この過失は、生徒を指導・監督し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務に違反している場合に認められると考えられています(最高裁昭和58年2月28日判決)。



そして、この注意義務が存在するかどうかの判断は、生徒の年齢や発達段階、事故の起こった時間や場所、事故の原因、および、事故の原因となった活動の性質(教育活動から生じたのか、生徒同士の個人的な関わりの中で生じたのか)などの事情を総合的に考慮して判断すると考えられます。



●運転していた生徒の民事上の責任は?

今回のケースでは、運転していた生徒は高校生と考えられるため、民事上、生徒自身が不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があると考えられます(民法709条)。



反面、被害生徒にも事故発生について落ち度がある場合には、過失相殺といって、損害賠償の額が減らされる可能性があります(同法722条2項)。



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  • 脳筋な先生部活至上主義だと管理杜撰はあるある、「お前らやっとけ」「鍵戻すのコーリツわりぃし〜」
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