赤穂市民病院が隠蔽、医療事故多発の医師が手術繰り返し…NHKクロ現が反響

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2024年11月21日 22:30  Business Journal

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赤穂市民病院(「Wikipedia」より/すもうち)

 赤穂市民病院(兵庫県)に勤務していた一人の脳神経外科医が執刀した手術で、8カ月で8件もの医療事故が起きていた問題。その内実に迫った今月19日放送のNHK『クローズアップ現代 “リピーター医師”の衝撃 病院で一体何が?』が反響を呼んでいる。同番組によれば、上司はこの医師の手術に問題があると認識しながら病院に報告せず、また病院内でも問題が噂されていたにもかかわらず、この医師は事故発生後も手術を繰り返していたという。また、この医師による最初の医療事故が発生してから院内に事故調査委員会が設置されるまで2年以上、病院が正式に会見を開き説明するまで約3年を要したが、なぜこのような事態が生じるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 2019年に同病院に着任したA医師が20年1月に執刀した手術で、患者の足が麻痺して歩けなくなるという事態が生じ、患者の家族が病院に問い合わせたこともあり病院が調査したところ、着任から8カ月の間に執刀した手術で計8件の医療事故を起こしていたことが発覚。A医師、そして手術に立ち会っていた上司のB医師も、6件目の医療事故が起きるまで病院に報告していなかったという。『クローズアップ現代』によれば、この患者は手術中に脊髄神経を切断され、術後に下半身が激しい痛みに襲われ、重度の後遺障害が残り今後も歩行できるようになる見込みはなく、オムツでの生活を強いられているという。番組内では術後にA医師が患者の家族に対し「傷の痛みなのか、奥のほうの痛みなのか、ちょっとはっきりしません」と語る発言や、B医師が自身が事実の隠ぺいに加担したと認める発言を収めた録音も流された。


 病院の対応は遅かった。病院がA医師に手術の禁止命令を出したのは20年3月に入ってからで、赤穂市保健所に報告したのは翌21年の12月。この時点ですでにA医師は同病院を退職していた。そして院内に調査委員会を設置したのが22年2月、公式に会見で経緯を公表したのは同年6月だった。今年7月には前述の手術について業務上過失致傷の疑いでA医師と上司のB医師が書類送検されたが、A医師は「週刊現代」(講談社)の取材に対し「赤穂市民病院は相当に汚い病院」「直属の上司には、都合の良いように事実をねじ曲げられ、信頼していたのに裏切られた」(同誌/3月9日号より)と語っている。ちなみにA医師はマンガ『脳外科医 竹田くん』の主人公のモデルといわれており、現在は別の病院に医師として勤務している。


この事件の真因は人事の失敗

 病院の報告書によれば、医療事故の結果、患者の死亡や顔面麻痺、意識障害、嚥下機能喪失といった後遺障害も生じているが、なぜ技術が未術と考えられる医師が手術を繰り返し、病院側が長期間、事態を把握せず、さらに把握後も隠したままにするという状況が生じるのか。医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。


「赤穂市民病院は京都大学の関連病院だ。京大医局の医師を採用する場合、その人物評は、医局から派遣先の院長や部長に伝えられる。医師としての能力や人格面で問題を抱える医師を派遣することもあるが、その場合は予め、入念に説明される。問題が起こりやすいのは、今回のような中途採用のケースだ。通常、採用を検討する病院の院長や部長は、医師の経歴を調べ、ツテを辿り、前の職場での評判を聞く。この医師は、難関の大学医学部を卒業し、大学脳神経外科などの勤務を経て、2019年7月に赤穂市民病院に採用された。一流の経歴だ。人物調査でも、大きな問題はなかったのだろう。


 ところが、医療事故を起こしてしまった。医師の力量を採用前に評価するのは難しいことが分かる。ただ、医療事故に限らず、新規に採用した医師が失敗することは、医療界では珍しくない。転職を契機に昇進し、重要な仕事を任されることが多いからだ。医員から医長や部長へと出世し、手術の助手だったのが、執刀医を務めるようになったりする。下級医と上級医に求められる能力は異なる。この医師が、赤穂市民病院で問題を起こしてからも、別の有名病院に採用され、医師として働いているのは、病院経営陣が、その能力を評価したからだろう。脳外科医としての執刀しなければ、勤務医として診療することに問題はなかったはずだ。


 残念ながら、医療事故はなくならない。偶然が重なり、2件続くこともあるだろう。ただ、8件も続くことはない。病院経営陣は、この医師に執刀するだけの技量がないことは分かっていただろう。なぜ、この医師による手術を禁止しなかったのか。この事件の問題点は、まさにここにある。NHKは、医療安全を担当する組織へ報告しなかったこと、医療安全部署の機能不全、地方の医師不足を問題視し、『医療事故を“見逃さない”ために』『病院内の医療安全の部署の強化』することを提唱しているが、おそらく、そんなことをしても問題は解決しないだろう。


 このケースの教訓は、誰がみても未熟な医師の手術を止めなかったことだ。それは人事権を有する院長と部長の責任である。彼らが、何を考えて、放置したのか真相を語るべきだ。その上で、改善策を議論するしかない。残念なことだが、彼らは経営陣として責任を追及されるだろう。病院長の任命には、市長も責任を負う。この事件の真因は人事の失敗だ。論点をずらすべきではない」


(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)



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