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■Dガンダムってどんなガンダム?
先日バンダイスピリッツから発表された、Dガンダムファーストの1/144キット化。このニュースは、多くのファンから驚きをもって迎えられた。というのも、このガンダムが「『公式』に認められたアイテムか否か」は、長らく微妙なラインにあったからである。
(参考:【写真】『機動戦士ガンダムUC』人気ミリタリーブランドとのコラボは細部までこだわったガンダムファンをくすぐるかっこよさ)
Dガンダムは、コミック『ダブルフェイク アンダー・ザ・ガンダム』の主役メカである。ガンダム関連作に登場するメカだが、区分上は軍用のモビルスーツではなく「作業用ワークスーツ」だ。では、「ガンダム」の名を冠されたこの機体がなぜ微妙なラインにあるとされていたのか。それを説明するためには、『ダブルフェイク』とその掲載誌である『エムジェイ(模型情報)』について説明する必要があるだろう。
ガンダムの放送当初である1979年、当然ながらインターネットは普及しておらず、アニメやプラモデルについて最新情報を知るためには各種の専門誌や模型店などでの口コミに頼るほかなかった。その状況で重要視されていたのが、「プラモデルメーカーが発行する情報誌」である。
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プラモデルメーカー発の出版物の発行に熱心だった企業の筆頭が、株式会社タミヤだ。同社は自社製品の販促を兼ねた情景模型写真のコンテストである「パチッ」や、人形改造コンテストの出品作をまとめた作品集、各種兵器の資料集や写真集の出版・販売を行なっており、またタミヤ製品に関する総合情報誌である『タミヤニュース』を1967年から現在に至るまで刊行。模型店にこの冊子を流通させることで、全国のファンに自社製品の情報や製作テクニック、戦史の解説や著名人のインタビューといった記事を届けた。
バンダイもまた、メーカー発の情報誌刊行に乗り出したメーカーのひとつだ。同社は1979年に『模型情報』のタイトルで冊子形式の情報誌刊行を開始。ガンプラの大ブームを背景にしつつ、「どの雑誌よりも早くバンダイ製キットや関連アニメ作品の情報を知ることができる媒体」として、ファンには欠かせない情報源となっていく。
■ロボットアニメ専門のコミック雑誌「サイバーコミックス」の誕生
『模型情報』の内容はプラモデルやアニメの情報だけにとどまらず、刊行を重ねるうちにページ数や判型が変更され、小説やコミックにもページを割くことになった。またコミックの掲載は、『模型情報』から分岐した「ロボットアニメ専門のコミック雑誌」である「サイバーコミックス」を生み出すことになる。しかし、これらのコミックの内容はまさに玉石混淆。アニメ作品にするにはミリタリー要素が濃すぎたり、マニアックなこだわりが強すぎたり……という、良くも悪くも「バンダイ刊行の模型・アニメ専門誌」ならではの作品が多かった。
ストーリー原案:朝霧哲也、メカニックデザイン:福地仁、作画:うしだゆうじによる『ダブルフェイク』も、そんな『模型情報』掲載作品のひとつである。『ZZガンダム』と『逆襲のシャア』の間の時代を舞台に、コロニー建設・修繕専門の企業に所属する主人公ダリー・ニエル・ガンズが、スペースノイドによるテロ組織の攻撃に巻き込まれたことから始まるストーリーを描いた作品だ。
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本作の最大の特徴となっているのが、その読みにくさである。「これを描きたい!」というパッションが先走った作品であり、メカに関しては気合い充分。モビルスーツはディテールまでみっちり描かれていて見応えがあるのだが、いかんせんアクションシーンになると途端に途中経過が省かれてしまい、何がどうなっているのか初見で正確に読み解くのはかなり大変だ。キャラクターの人相もコマによってコロコロ変わるため、誰が誰なのか把握するのが難しく、一読してストーリーを細部まで正しく理解するのはおそらく不可能。昨今の読みやすくハイレベルな漫画に慣れている読者が読みこなすのは、相当な困難を伴うはずである。本作は現在も電子書籍で購読が可能なので、興味のある方は検索してみてほしい。
■80年代末期のオタクカルチャーの熱さ
しかし、バブルの絶頂期に向かう1988〜1989年に掲載された本作には、あの時代のオタクコンテンツ特有の高揚感やパワフルさが漂っているのも事実だ。戦闘中にも関わらず妙に軽妙なセリフのやり取りや、時代を感じるギャグの演出、やたらと緻密に描かれたディテール、作者による欄外の書き込みなどの要素は、今見るとなかなかチャーミング。パワフルな非軍人の主人公が「戦争なんてくだらねえぜ!」と叫びながら活躍する様子は、なんとなく後年の『マクロス7』を連想させるところもあるように思う。決してただ読みづらいだけのマンガではなく、あの当時の『模型情報』と先鋭化した80年代末期のオタクカルチャーの熱さや勢いを感じさせる作品でもあるのだ。
そんな作品の主役メカであるDガンダム。その特徴は、「アニメで動かすことを全く考えていないデザイン」にあるだろう。通常、モビルスーツのデザインはアニメで絵を動かすことを前提にしているため、線の数を調整して無理なく動かせるラインに収める必要がある。
しかし『模型情報』や『サイバーコミックス』に掲載されるメカには、そんな配慮をする必要がない。漫画家の意欲と画力があれば、理論上はどんなにディテールの細かいメカでも登場させることができる。そんな前提のもとで福地仁によってデザインされたDガンダムは、脛や腕部、腰などに露出したシリンダー、全身に配置されたスラスターのノズル、ガンダムの定型から微妙に崩れた頭部デザインなど、アニメには不向きであろう部分が満載。まさに「あの時期の『模型情報』らしいデザイン」が盛り込まれまくっているのである。
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こういったディテール過多のデザインは、やはり立体になった時に威力を発揮する。35年以上昔のデザインにも関わらず、いざプラモデルになった姿を見せられるとそこまで古びて見えないのは、みっしりと詰め込まれたディテールと細身のプロポーションによるものではないだろうか。
一連の『模型情報』掲載作品に関しては、ライセンス面や設定についての扱い方が不明瞭なものも多い。『ガンダム』の舞台となった宇宙世紀の設定を引用しつつ、作家が自分のやりたいことをやりたいようにやった作品も多数掲載されていたため、どこまでがサンライズ・バンダイが認める「公式」のラインに含まれていて、どこからが『模型情報』独自の「俺ガンダム」的アレンジなのか判然としない機体や設定が多いのである。
これらの作品の多くが権利関係の管理が甘く、現在に比べるとマニアが好き勝手に活動できた80年代に作られたものであり、「俺が考えた最強の『ガンダム』」をメーカー発の情報誌に掲載しても「そういうもの」として受け取られていた時代だった。そういった作品を現代のバンダイがどう扱い、ガンダムシリーズの正史に組み込むかは微妙な問題をはらむが、Dガンダムはゲーム「SDガンダム GGENERATION-F」にも登場しており、さらに今回のキット化によって、ライセンサーによるお墨付きを得たと言えそうだ。
「Dガンダムとは何か」について書くだけでこれだけの文字数が必要なことから分かる通り、この時期に独自設定が立ち上げられた作品は総じてややこしい。だからこそ、ファンにとっては今回のキット化のニュースは衝撃的だったのである。微妙な立ち位置の作品に登場した微妙な機体がバンダイによって立体化されたわけで、その驚きは当然だろう。
しかし、このニュースは、今後のプラモデル展開が少し楽しみになる知らせでもある。なんせ、独自設定を持っているがゆえに立体化されていない「俺ガンダム」的メカは、まだまだたくさん存在しているのである。つまり、Dガンダムのキット化は「あれがOKなら、あのモビルスーツやこのメカもプラモデルになるのでは?」と、夢が膨らむニュースでもあるのだ。大友克洋がデザインした『GUNDAM Mission to the Rise』のガンダムとか、『フォー・ザ・バレル』のガンボーイ・ウィルバーとか、なんとかプラモデルにならないものだろうか。う〜ん、無理かな……。
(文=しげる)
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