20年、いい不倫関係だった10歳上の彼
24歳の時に知り合った10歳年上の彼と、20年という長い歳月、付き合ってきたノブコさん(44歳)。「出会ったとき、彼はすでに結婚していました。当時の私は独身。不倫なんて絶対にしない、私はそんな人間にはならないと思っていたのに、気付いたら彼に惹かれていた」
それでも関係を持ってはいけないと自分を抑えていた。彼がそのことに気付き、「ごめん。もう誘わない」と言ったとき、彼女の中で何かが決壊した。
「この人を逃したくないと思った。もちろん結婚は望まない。いろいろ我慢させてしまうかもしれない、心苦しい。でもオレはきみが好きだという彼の言葉を信じました」
それから20年。いろいろなことがあった。不倫ではあったが、彼は案外、堂々と行動した。外食はもちろん、ふたりで映画を観に行ったり美術館に行ったり。付き合って3年たったころ、彼が「一緒に旅行しようと言ったら迷惑かな」とつぶやいた。どんどん深みにはまっていき、別れられなくなるのが怖いと彼女が言うと、「別れる気、ないから」と彼は言った。
「ただ、結婚したい相手が出てきたら必ず言ってほしい。黙って消えるからとも言っていました。奥さんが聞いたら不快だと思うけど、家庭の事情も彼はよく話してくれた。
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妻子がある彼、週末は会えない関係だった
週末はほとんど会えなくて、子どもがいるから当然だと私は思っていたんですが、彼は週末、親の介護に明け暮れているとも言っていました。同居しているお母さんに介護が必要となって、平日夜と週末は自分が面倒を見ているって」不倫10年目に彼のお母さんが亡くなったとき、葬儀の翌日、彼はノブコさんのところにやってきて、5時間ほど熟睡した。
「起きると彼が、ありがとう、何も考えずにオレがゆっくりできるのはここだけだよって。その日はのんびりしていきましたね。一緒に料理を作って食べて」
その後、彼女の父親が倒れたと連絡があった時、彼に知らせると翌日早朝、空港まで車を出して送ってくれた。そんなことしなくていいと言ったのだが、彼は「送らせてほしい」と懇願した。
さまざまなことがあり、不倫ではあったけれども、二人で一緒に生きてきた実感があった。
それでもあえて今、別れを選んだ
彼のことは20年間、ずっと好きだった。それなのについ先日、彼女は彼と別れた。「彼の誕生日があったので、ごちそうするよって招待しました。しかもとてもいいレストランを予約して。彼は『どうしたの、怖いな』なんて言っていましたが、話も弾んで楽しかった。彼がお手洗いに行っている間にカードで支払いをさっと済ませ、一緒に店を出ました。
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その日を別れの日にするかどうか、彼女はずっと迷っていた。少し前から、「彼との関係はもうこれ以上にはならない。現状維持するか、新たな世界を求めるか」と考えていたのだ。新たな世界が見えているわけではなかったが、今の環境を変えなければ新しい場所には行けないと思っていた。
「具体的に好きな人ができたわけでもないし、彼に飽きたわけでもない。それでも、そろそろひとりになりたい、ひとりで歩いてみたいと思う気持ちが強くなってきて……。ただ、本当に別れるかどうかは、その日の食事が終わってから決めようと思っていました。
でも帰り道に手が勝手に携帯を握っていた。私が着信拒否したり連絡手段を消したりしたら、彼が絶対に追ってこない。それはわかっていました」
彼でなく、私自身のために決めたこと
だから関係はそれきりになった。彼とはもう何の接点もない。20年にわたる付き合いを経て、今は「心の中が空っぽになった感じ」と彼女は言う。「誰にも洩らさず、誰にも気づかれなかったのは彼も私も秘密を守り抜いたから。彼の子どもは2人いるんですが、26歳と24歳になっています。子どもたちがすっかり大人になった今、別れなくてもいいんじゃないかという気持ちもありました。
でも今回、思い切って別れたのは彼のためというよりは、私自身のこれからの人生を考えたかったからかもしれません。このまま彼と付き合っていくより、もう一度、人生をやり直したくなってしまった」
彼が傷ついているか、むしろホッとしているかはノブコさんにはわからない。それさえ考える必要はないと彼女は言う。
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しばらくひとりの時間を楽しんでみると、ノブコさんは落ち着いた口調で言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))