桑野信義、トミーズ雅、「ガキ使」出演芸人も…「大腸がん」なぜ増加? 予防法と発症後の最新事情【専門医解説】

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2024年12月27日 08:00  ORICON NEWS

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国内の大腸がん患者は14万7
 いま日本のがん患者で最も多い「大腸がん」。ここ最近の芸能界でも桑野信義、トミーズ雅、ヲタルらが罹患・闘病を公表している。厚生労働省の公開したデータによると国内の罹患者数は14万7,725人(※)。今後も増加が予想されているが、なぜ大腸がん患者は増えたのだろうか。最新の治療法とリスクを下げる生活、もし診断された時の心構えとはどのようなものか。大腸がん治療のエキスパートとして知られる高橋慶一医師に、その最前線を聞いた。

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■芸能界でも続出の大腸がん、その闘病・復帰の例

 タレントでミュージシャンの桑野信義は、2021年3月28日に自身のブログで大腸がんの手術をしていたことを公表した。ステージ3〜4の大腸がんで周りのリンパにまで転移している状態だったとし、「『死んでしまうのでは…』という最悪な事が真っ先に頭を過ぎました。ただただショックで目の前が真っ暗になりました」と心境を明かしている。

 手術は半年間の抗がん剤治療でがんの進行と転移を抑えてから行ったという。14時間に及ぶ手術によってがんと転移したリンパ節の切除に成功。その後、同年5月17日に抗がん剤の副作用に耐えられず、抗がん剤治療の中止を決めたことを明かしている。一方で、たばこと酒を止め、食生活の見直しや適度な運動、睡眠など「一番大切なのはストレスを感じないこと。自分の好きなことを楽しむこと&笑うこと」と自身を戒め、同年7月7日、鈴木雅之のアーティストデビュー40周年記念のコンサートツアーでステージ復帰を果たした。

 トミーズ雅も2020年、早期の大腸がんを患い手術を受けている。同年3月21日のMBS『せやねん!』でのこと。病院からの電話で生出演し、転移がなかったことなどを報告している。所属事務所によると、がんが見つかったのは毎年恒例で取材しているプロ野球の沖縄キャンプ中。2月10日に血便が出て、同行した妻が便器の血痕を発見し病院に行くよう説得。同月の25日に検査を受けたところがんが見つかったという。

 『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』出演芸人のヲタルも今年10月、自身のXで大腸がんのため手術したことを公表。ヲタルは最初に糖尿病が見つかり、食事療法をしていたというが「検便に血が混じってると言われ内視鏡検査をしたら大腸がんでした」とその経緯を報告。「早期発見なら僕みたいに大事に至らなくて済みますから、人間ドックや健康診断は必ず行って欲しいです。なんか変だなという異変を感じたら すぐ病院に行ってほしいという気持ちが一番です」と呼びかけている。

 ほか今年4月には大河ドラマ『光る君へ』に出演した俳優・橋爪淳、9月には8人組ロックバンド・和楽器バンドのドラマー山葵(わさび)が、それぞれ自身のXで大腸がんによる手術を告白している。

■ますます進む大腸がん治療技術、結果として人工肛門(=ストーマ)の造設は1割程度まで減少

 有名人にも広がる大腸がん。厚生労働省が公開した「全国がん登録 罹患数・率 報告 2020」によると、国内の大腸がん患者は14万7,725人(男性8万2809人、女性6万4915人/総数は男女および性別不詳の合計)。日本で一番罹患率の高いがんになっている。

 大腸がん治療のエキスパートとして知られる高橋慶一医師(グレースホームケアクリニック伊東 院長)は、「1960年代の罹患者数は4、5000人ほどでしたが、2019年頃には7万人を超え、右肩上がりに増えています」と詳述する。

 大腸がんが増えている背景には何があるのだろうか。

「一番は高齢者の増加です。大腸がんは男女ともに40歳代から増え始め、年齢を追うごとに罹患率が高まります。つまり、かかりやすい高齢者層自体が増えたことによって全体の数が多くなっている。そして、これは以前から指摘されていますが、牛肉や豚肉などの赤身肉や、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉の摂取量の増加も関連しています。ただし、注意してほしいのは、肉をたくさん食べたから大腸がんになる、とイコールで考えないこと。あくまでも統計からそういった傾向がある、関連があるということです」

 超高齢化社会の到来や現代人の生活スタイルからみても、今後、さらなる増加が予想される大腸がんだが、「日本の大腸がん手術は技術が高く、そこはひとつ安心してほしい」と高橋医師。

「現在の大腸がん手術による切除率はどのステージにおいても高く、平均97%です。内視鏡治療の進歩により一部の早期大腸がんに対して、内視鏡的に治療が可能になっています。また、腹腔鏡下手術およびロボット支援手術が一般に普及。お腹を大きく切らなくても5つほどの小さな穴を空けるだけで手術ができるようになりました。かつては直腸がん手術の30%程度が人工肛門=ストーマになっていましたが、手術技術の進歩により、ストーマを造設する頻度は10%程度になっています」

 治療成績においても、ほかのがんに比べ「比較的向き合いやすく予後も悪くない」と続ける。

「大腸がんの5年生存率は約86%です。5年生存率が約90%の乳がんに比べるとやや低いですが良好な部類と言えます。患者数が多いため死亡数はどうしても多くなりますが、向き合いにくいがんではありません。治療法も豊富で、ほかのがんでは抗がん剤治療を見送るような年齢でも、大腸がんでは治療を続けることも珍しくありません。5年ほど前から、新たながん治療法として注目を集める『免疫チェックポイント阻害剤』を用いた免疫療法も使えるようになりました」

 大腸がんに限ったことではないが、粒子線がん治療施設が全国的に広がっているのも治療の面では、特筆すべきことと言う。

「重粒子線・陽子線の粒子線がん治療はがん病巣にピンポイントで放射線を照射できるため、副作用が少ない。さらに、これまでの放射線治療が効きにくかったがんへの効果も報告されています」

 大腸がんにかかる人は増えているが、医療の進歩とともに治療の選択肢もまた、広がってきている。

■早期発見が難しい大腸がん リスクを下げるためにできることとは 

 大腸がん患者に向けた新しい動きもある。今年10月、国内で初めて大腸がん術後6ヵ月から加入できる保険が登場した。MICIN(マイシン)少額短期保険が手掛ける『大腸がん経験者専用がん保険』だ。同社はこれまで、乳がん・子宮がん・卵巣がん経験者専用がん保険をリリースしているが、他のがんでも同様の保険を期待する声が寄せられていたという。発売から約2ヵ月、反響は予想以上に大きい。

「自社調べで、乳がんに次いで保険ニーズの高かったのが大腸がんでした。発売後は、男性からの問い合わせが多く、資料請求者の約6割を占めます」(MICIN少額短期保険・代表 笹本晃成さん)

 あまり知られてないが、がんだけでなく大腸ポリープの既往歴がある場合でも、保険に加入しにくい現状がある。同社には、実際に保険に加入しにくい体験をした人からの問い合わせも増えているという。契約者からも歓迎の声が届く。

「少額定期保険なので、通常の保険と異なる点もありますが、契約された方から『希望の光のように感じた』『早期発見で切って終わったが再発に怯えている。救いの手になった』などの声をいただいています」(笹本さん)

 罹患者数の増加に比例して、今後、さらに大腸がん罹患者を支援するさまざまなアプローチが登場してくるだろう。そこに期待を寄せつつも、まずは、リスクを下げる生活、早期発見につながる行動をすることが重要だ。

 多くのがんは早期発見・早期治療ができれば完治の可能性が高くなる。ところが、大腸がんは初期の段階ではほとんど症状が現れず、自覚しにくい。便秘や下痢を繰り返す、血便、便の形状変化(細い便)など気になる症状があらわれた場合は、すぐに受診すべきだが、症状がない場合はどのような検診が有効なのだろうか。

「早期発見で最も有効なのは内視鏡検査ですが、下剤で腸内をきれいにする前処置などが必要でハードルが高いと感じる方も多いと思います。まずは、健康診断の便潜血検査を定期的に受けるようにしてください」(高橋慶一医師)

 予防策としては食物繊維の多い食事、肉の過剰摂取を控える、1日1時間程度の軽い運動、禁煙、節酒(アルコール23g以下)といった基本的な健康習慣がベースという。その上で、「肥満だけでなく、極端な痩せすぎもリスク要因となるので気をつけてほしい」と高橋医師。そして、もし大腸がんと診断されたら、「病状を理解し、医師と連携して治療を進めることが重要」と積極的な治療を呼び掛ける。

「過度に恐れることなく、診断されたら適切な治療をできるだけ早く受けること。そして、治療後も最低5年間は定期的な検査を受けてください。再発出現率は5年以内が97.3%で、5年を超えて出現する割合は0.43%です。つまり、術後、5年間の緊密な経過観察が重要になります」

 罹患者は増加傾向にあるものの、治療も確立し生存率は良好な大腸がん。まずは、生活習慣を整え、早期発見のための検査など、出来ることからやっていくことが最善と言えそうだ。

※厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率 報告 2020」

(取材・文/衣輪普一)

【高橋慶一医師】
グレースホームケアクリニック伊東 院長、元がん・感染症センター都立駒込病院外科部長。2005年より大腸がん治療ガイドライン作成委員会委員を務め、2013年からは大腸がん肝転移データベース合同委員会委員長を歴任。多くの大腸がんの患者と接し、治療を行っている。

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