海上自衛隊の潜水艦修理を巡り、川崎重工業が架空取引で捻出した裏金を海自隊員への物品供与の資金にしていたことが、防衛省の特別防衛監察の中間報告で明らかになった。癒着は、自衛隊と防衛費増額の特需に沸く防衛産業大手の間でコンプライアンス(法令順守)が欠如している実態をうかがわせた。国民の負担で成り立っている防衛力整備への信頼を揺るがす事態とも言える。
社会保障費が抑制される中でも防衛費は12年連続で増額され、現行の防衛力整備計画には過去最大の総額43兆円が投じられる。岸田前政権が防衛力抜本的強化「元年」と位置付けた2023年度も、架空取引により数千万円単位の裏金が捻出されたとみられる。
防衛省が戦闘機や潜水艦、ミサイルなどの主要な装備品を一元的に取得する「中央調達」の23年度実績は前年度比約3倍の約5兆5700億円。中央調達の契約実績はトップが三菱重工業で同約4.6倍の1兆6803億円、2位の川重が同約2.3倍の3886億円と続く。
潜水艦を建造できる企業は川重と三菱重工に限られる。反撃能力(敵基地攻撃能力)に使用できる垂直発射装置の潜水艦搭載に向けた調査研究にも両社が参画する。自衛隊幹部は「装備品の特殊性から開発や整備ができる企業が限られ、現場で濃密な関係にもなりやすい」と話す。
そもそも大阪国税局の調査が入らなければ、潜水艦修理に絡む計約17億円の架空取引と、娯楽用品も含めた物品供与は発覚しなかった可能性が高い。
中間報告書は、架空取引の背景に、適正と認められる水準を超えた利益を上げ続ければ将来、契約金額を引き下げられるとの懸念があり、原材料費を積み増す目的があったと指摘。物品供与については、修理工事には潜水艦乗組員の立ち会いが必要で、良好な関係を維持したい川重側の意識を挙げており、現場での力関係もうかがえる。
川重が提供した物品は正式な備品ではないため、官品を示す表示はなく、中間報告書は「調達の不自然さが容易に判明する状況にありながら、長年にわたり潜水艦側から報告はなかった」と指摘。「潜水艦における物品管理はずさん極まるもので、架空取引を助長した側面があることは否定できない」と断じた。
防衛省は契約相手企業の原価計算システムの適正性やコンプライアンスの体制などを確認する「制度調査」を行っているが、潜水艦修理契約は人手不足もあり、調査対象として優先度は低かったという。防衛費が増額されても、契約のチェック体制強化は置き去りにされている実情も浮かぶ。
川崎重工業が防衛省向けに建造中の潜水艦の進水式。「らいげい」と命名された=2023年10月17日(海自ホームページより)