応神天皇を主祭神とし、仕事の成功や商売繁盛の神様として厚い信仰を集めている福岡県八女市の「福島八幡宮」。ここで頒布されている犬猫の「切り絵御朱印」が人気を集めている。同神社では吉開雄基宮司(30)の愛犬で、スタッフの間では「公認アイドル犬」「巫女犬」と親しまれている豆柴の「シロ」(メス、6歳)が境内で参拝者らをお出迎え。そのおかげで犬猫好きの参拝者が集まり、ペット祈願やペット七五三も数多く行われている。犬猫の切り絵御朱印は、そんな愛猫家、愛犬家たちの熱いリクエストから生まれたという。
犬猫の切り絵御朱印は、まず昨年2月22日の猫の日に合わせて猫バージョン「Love&
にゃんこ」が、今年(2024年)11月1日(犬の日)に犬バージョン「柴犬」が頒布開始された。いずれも愛猫家、愛犬家の参拝者らから「作ってほしい」との要望があり、地元・八女の切り絵作家「くろくも舎」の松原真紀さんとコラボし制作した。
猫バージョンは当初頒布したものは全て売り切れ、今年8月8日の世界猫の日に新バージョンの猫と鳩のデザインにリニュアル。「白猫は純粋さや幸福を象徴し心の平穏をもたらす福猫。鳩は八幡宮の『神使』です。猫と鳩が仲良くしている間はご利益があるでしょう」と吉開宮司はほほえむ。一方、犬バージョンは、吉開宮司の愛犬シロが豆柴ということもあり、まず第一弾として日本を代表する柴犬をモデルにした。
「本来、御朱印というのはその神社にお参りした証なのですが、最近ではお守りとしての感覚を持って頒布を受けられる方も多くなってきました。家族の一員である愛猫や愛犬が健康であるようにとの健康祈願をこめる方もおられます」(吉開宮司)
もちろん、犬猫だけでなく、お正月用の干支の切り絵御朱印もあり、こちらも人気だ。2025年の干支である巳と牡丹の花をあしらった「福巳」は、豪華絢爛に新年の始まりを彩る作品となっている。同神社のウェブサイトには「オンライン授与所」があり、全国から郵送で買い求めることも可能だ。
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吉開宮司は7年前、三重県の大学で神職の資格を取得し、故郷の八女に戻ってきたが、1ヶ月後、先代の父親が亡くなり、15代目として急きょ宮司の職を引き継いだ。
「びっくりしたのは神社経営の厳しさでした。神社の収入は初穂料が主で、当時は年間300万円ほど。それだけでは施設の維持さえ難しく、とてもやっていけないじゃないかと」(吉開さん)。
シロは、吉開宮司が、父に先立たれて残された母親が寂しくないようにと、知り合いのブリーダーから譲り受け、家族に迎え入れた。「母はすごく喜んでね。父がいなくなってぽっかり空いた私たち家族の心の穴をシロが埋めてくれました。シロも母にすごくなついて、母の言うことしか聞かなかったくらい(笑)」
宮司になって3年が経ったころ、吉開宮司は神職の妻と結婚。これからまた頑張ろうというときコロナ禍に突入し、神社にはほとんど人が来なくなった。それまでは神社経営をどう立て直すか、孤軍奮闘で頑張っていたが、コロナ禍をきっかけに「自分一人の力だけではどうしようもない。やはりいろんな人たちの力を借りて、ともに頑張っていけるような体制をつくらねば」と改革に着手した。
疫病を封じるアマビエの御朱印、全国の人が誰でも求められるようオンライン授与所開設、コロナ感染リスクを避けられるヴァーチャル参拝やオンライン祈祷、若者に向けたSNSでの情報発信、クリエーターやインフルエンサーを職員や巫女に採用し、オリジナル御朱印や神社キャラクターをつくるなど様々な試みを行ってきた。その甲斐あって現在、参拝者は7年前に比べると約10倍に増え、職員数十人を雇えるまでになった。
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境内で吉開宮司の家族に大切に育てられていたシロは、参拝者やスタッフらから可愛がられ、同神社の「公認アイドル犬」に。シロは同神社にいなくてはならない存在になっていった。だが、そんなシロとともに過ごし、若い吉開宮司をそばで支えてきた母親は、2年前に他界した。
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「シロは嬉しいときも辛いときもそばで励まし、慰めてくれました。私たち家族や神社の成長を一緒に見守ってきてくれた同志というか、心の支えです。職員たちにとってもシロは大先輩。シロがいるおかげで動物好きの方々がたくさん参拝してくれるようになり、ペット祈願や切り絵御朱印の頒布も始めることができました。これからも、かけがえのない家族の一員であるワンちゃん猫ちゃんの健康や幸せを大切にする神社でありたいです」
2025年1月11日には、境内に「お供え物で作る美味しい神様のご飯」をコンセプトにした「カミカケ茶屋」がオープンする。アバターで参拝、御朱印やお守りを申し込むことができるメタバース神社も現在開発中だ。
吉開宮司の目標は、世界中から参拝者が訪れる「世界一の神社」だ。「地域には存続の危機にある小さな神社がたくさんありますが、若い神職や巫女たちがもっと活躍して輝くことができ、全国の神社再生のモデルケースになるような取り組みができれば。シロとともに今後も様々な発信をしていきたい」と意気込む。2025年もこれまでにない新たなアイデアと行動力で神社の未来を切り開いていくつもりだ。
(まいどなニュース特約・西松 宏)
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