「今年の初めに170回、180回投げたいと話していた中で、そこが悔しいところですね。もちろん規定投球回にいけたことは嬉しいですけど、一プロ野球選手としてもっと上にいきたかったという思いが強いです」。
昨季自身初の二桁勝利を挙げ、今季は自身初の規定投球回に到達したロッテ・種市篤暉だが、全く満足することはなかった。
◆ 練習試合からすごい投球
昨季シーズン自己最多の10勝を挙げ、奪三振はリーグ2位の157を記録したが、136回2/3で規定投球回にわずかに届かず。昨年シーズン終了後にZOZOマリンスタジアムで行われた秋季練習中の取材で「1年間通して思ったのが、シーズン中盤、終盤くらいにかけて試合の方がメインになってくる。体力回復、コンディショニングの部分が多くなってくるので、ウエイトの量も絶対落ちてきますし、その中でやっぱり筋量をキープするのがきつかったなと個人的に思いました。なので、オフシーズンに貯金を作ってシーズン前半キープしながら、後半ちょっと落としていければ良いかなと個人的に思っています」と、23年シーズンを踏まえてフィジカルメインに自主トレに励む考えを示した。
12、1月の自主トレでは「ウエイト的にも重量をだいぶ上げられてきていますし、体の数値も良くなっているので、そこは続けていきたい」と順調そのもの。「何が上がったと言われたら、技術面は投げないとつかないと思っているので、キャンプ、今の時期にもうちょっと色々突き詰めていければなと思います」と、石垣島春季キャンプ、その先のシーズンに向けて着々と準備を進めた。
2月の石垣島春季キャンプでも「オフシーズンと変わらず、普通にトレーニングしています」と、体力、技術向上に励み、「2月、3月はやっぱり実戦に向けて技術を上げる期間だと思っているので、今の時期に色々変えられるところは変えていきたいなと思いながらやっています」と話した。具体的に変えているところについては「フォームもそうですし、トレーニングの仕方でもそうですけど、変化できる一番の期間だと思っています」と教えてくれた。
練習試合、オープン戦に向けて「もちろんトータルで勝負できるように真っ直ぐだったり、変化球だったりという感じです」と話した中で、2月23日の楽天との練習試合で今季初実戦は2回・33球を投げ、1安打、1奪三振、2与四球、無失点に抑え、3月2日の西武とのプレシーズンマッチでは「足の上げ方をちょっとだけ。意識的では無いんですけど、そっちの方が自分は合っているのかなと思います」とフォームを微修正し、2回・36球、0被安打、2奪三振、1与四球、無失点。
3月6、7日に京セラドーム大阪で行われた「カーネクスト 侍ジャパンシリーズ2024日本vs欧州代表」の日本代表に選出。種市は若手時代に世代別の代表、昨年のWBCのサポートメンバーに選出されたことはあったが、初の代表入り。
7日の欧州代表戦では、7回終了時点で侍ジャパン投手陣が欧州代表打線をパーフェクトに抑え、2−0の8回からマウンドへ。先頭のチェルベンカを144キロのフォークで三ゴロに打ちとると、続くベルトレを143キロのフォークで一ゴロ、代打・パオリーニの打球を種市がグラブを弾くもショート・源田壮亮(西武)が難なく処理し、遊ゴロで完全試合を継続。
イニング間に「初回の感じが良くなかったので、もうちょっと人差し指を使っているイメージだったのを変えたら、だいぶ落ち幅が良くなったのでイニング間に修正できたのは良かったかなと思います」とフォークの握りを修正。先頭のエンカルナシオンを142キロのフォークで空振り三振に仕留めると、続くムジクを143キロのフォークで空振り三振、最後は代打・プロファーを147キロのフォークで試合を締めた。9回に入りフォークのスピードが145キロ以上計測したのも、イニング間の修正が活きたとのこと。
代表期間について種市は「楽しかったですし、一流の選手の話をたくさん聞くことができたので、チームに戻っても還元したいと思いますし、シーズンに繋げていきたいと思います」と貴重な経験、財産を手にし、マリーンズへと戻った。
欧州代表戦以来のマウンドとなった3月16日のオリックス戦では4回・45球、2被安打、3奪三振、0与四球、無失点。1−0の3回一死二塁で杉本裕太郎に対し、「インコース、3球連続で続けたので、ちょっとインコースを意識しているなと思ったので、外の曲がり球を使いました」と、インコースのストレートで追い込み、4球目の134キロスライダーでタイミングを外して遊ゴロに打ち取ったのは、今までにない新しい種市篤暉を見たような気がした。
3回までほとんど投げていなかったカーブも、1−0の4回一死走者なしで紅林弘太郎に2ストライクから意表を突いた128キロのカーブで見逃し三振に仕留めた。4年前に苦手と話していたカーブを「球種が少ないからです」という理由で、今季から投げ始めているが、カウント球だけでなく、追い込んでからも使うことが多い。現状ではカーブはどういう位置付けなのだろうかーー。「シーズン中に成長させていければいいかなと思います」。種市らしく、現状に満足することなく、さらに良いものを探していくつもり。
オープン戦最後の登板となった3月23日の中日戦も5回・70球、0被安打、4奪三振、2与四球、無失点と完璧に抑え込んだ。結局、種市は2月の練習試合、3月の代表戦、オープン戦、15イニング無失点でシーズンを迎えることになった。
「とにかくシーズンを完走したいです」。種市篤暉の2024年シーズンが開幕した。
◆ 圧巻の今季初登板も
今季初登板となった3月30日の日本ハム戦、見るものを引き込ませ、圧倒的な投球を披露した。最速154キロを計測し、150キロ超えを38球マークするなど、6回・102球を投げ、2安打、8奪三振、無失点で今季初勝利を手にした。
この試合はストレート、フォーク、スライダー、投げている球種が全て素晴らしかった。本人も「どの球種も扱えていたので、ピンチになってもそんなに慌てることがなかったですし、強いボールを投げたら打ち取れる感覚があった。そこに関しては良かったと思います」と振り返った。
4月6日のオリックス戦は5回5失点も、4月13日の楽天戦は7回・115球を投げ、6被安打、6奪三振1失点とゲームメイク。初回、先頭の小郷裕哉に2ボール2ストライクから投じたフォークは、ストライクゾーンからボールゾーンにものすごい落差で空振り三振を奪った。「いい力感で投げられたので、すごい落差が出たと思います」と自己評価しつつも、「その後のフォークは落とそう落とそうとなって、すごい力んでいたので、そこは三振がとったボールは良かったと思います」と反省。
ただ、楽天戦はスライダーが良かった。その日によって使える球種を選択できているのだろうかーー。
「そうですし、ベルーナ(ドーム)で今井(達也)にスライダーを教えてもらって、スライダーを試した感じでだいぶ良かった」と、西武・今井達也から教わったスライダーが冴え渡った。
1−1の5回二死一、二塁から浅村に1ボール1ストライクから3球目に空振りを奪った137キロ縦スライダー、タイミングを外して見逃し三振を奪った4球目の138キロスライダーは素晴らしかった。本人も「良かったです。(浅村三振前の)あの前の球も良かったです。見逃し三振とれた球は真っ直ぐの軌道で投げられたので、そこは良かったと思います」と手応え。
投球フォームも楽天戦は3回から少し変わったように見えた。そこについても「ちょっとなんか若干力んで突っ込んでいる感じがあったので、ちょっとゆっくり意識した感じがあります」と明かし、ゆっくり意識して投げた理由について「単純に投げ急いでいたなと、2回の時に(小野)晋吾さんにも言われたので、そこをちょっと意識した感じです」と説明した。
中7日で先発した4月21日の日本ハム戦は4回5失点、4月29日の楽天戦も5回1/3を投げ5失点と、吉井理人監督は試合後、「ダメな種市でしたね」とバッサリ。4−2の6回に3点を失いイニング途中で種市をマウンドから下ろした理由について吉井監督は「苦しいところだったんですけど、彼はこれからマリーンズの中心選手になっていかないといけない。5回であんな感じで変わってちゃダメなんですよね。期待を込めて送ったんですけど、より悪い投球になっちゃったので」と喝を入れた。
種市は2月の練習試合から開幕直後まで物凄い投球を見せていたが、4月後半は思うような投球を見せることができなかった。
◆ 無双モード
5月に入り無双モードの種市に戻る。5月6日の西武戦、登場曲を昨年まで使用していた「High Hopes」に戻し、グローブも「単純に流れを変えたかったというのが僕の中で一番かなと思います」と自主トレを一緒に行ったことのあるメッツ・千賀滉大のものに変更してマウンドへ。
初回先頭の金子侑司に二塁打を浴びたが、後続を打ち取り無失点で切り抜けると、その裏、ソトの第3号2ランで先制。2回は二死走者なしから中村奨吾の失策で出塁を許したが、柘植世那を146キロの中飛で無失点。
2回にも岡大海の適時二塁打などでさらに2点の援護をもらった種市は3回以降もストレート、落差の大きいフォークで西武打線をねじ伏せる。4−0の4回に先頭の若林楽人をストライクゾーンからボールゾーンに落ちる142キロのフォークで空振り三振は素晴らしかった。
種市は7回・111球を投げ、3安打、6奪三振、2四死球、0失点で2勝目。降板後、球団を通じて「ここ数試合良くない投球が続いていた中で、7回まで投げて試合を作ることが出来て良かったですし、少しホッとしています」と振り返った。
5月15日のオリックス戦では8回・122球を投げ、7被安打、8奪三振、0与四球、無失点。「(ストレートに)自信があったので、首振っていけたと思います」。特に1−0の8回一死二塁で西野真弘を2ボール2ストライクから5球目の150キロストレートで二ゴロ、続く中川圭太を2ストライクから4球目の151キロストレートで二ゴロと、西野、中川に対しオールストレートでピンチを脱した場面は痺れた。
ただ春先はどのイニングも150キロを超えるストレートを投げ、今季初登板となった3月30日の日本ハム戦は150キロ超えは38球を投げていたが、5月15日のオリックス戦は8回を投げ150キロ超えは16球。この時期、140キロ台後半のストレートで打ち取るイニングが多かった。
「フォームのバランスを意識した中で、アベレージを上げたいと思いますけど、ある程度コントロールした中で強い球を放れたらいいなと思って投げています」。
それでも、球数が100球を超えても150キロを超えるケースも。オリックス戦の8回のピンチの場面などがそうだ。「いいバランスで投げられているのが一番かなと思います」と話す。
最大の武器であるフォークに関しては、「ちょっと落とそうとしすぎたかなと思います。西武戦の時のように縦にいくようになっていたら、前回の試合は空振りが増えていたのかなと思います」と自己分析した。
フォークはシンカー系のフォークを投げている時は球速が速いようにも見える。「(スピードが)出る時は出ますけど、前々回の試合もそうですが、初回フォースラしていた。フォースラしている時は悪いので、前回は進化させようと思って改善できたのは良かったと思います」。
スライダーも進化。1−0の5回二死走者なしで福田周平を2ボール2ストライクから7球目の140キロ縦に落ちる変化球で空振り三振に打ち取った。フォークがいつもと違う軌道だったので、球種を確認すると「あれはスライダーですね」と語った。このスライダーは4月16日の取材で「ベルーナで今井にスライダーを教えてもらって、試した感じでだいぶ良かった」と話していたスライダーか訊くと、種市は「そうです」と返答した。
そのスライダーに関しては、「曲がり幅が小さいのでスピードを出したいと思った中で、前回はすごい球速が出ていたので、フォークとスライダー同じ球速帯でついになればいいかなと思います」とのことだ。
ストレート、フォーク、スライダー、自信を持って投げられていたのがこの時期。続く5月22日の西武戦、「疲れていますけど、気持ちいい疲れだと思います」と9回・102球を投げ、4被安打、8奪三振、1与四球、1失点の好投で20年7月25日の西武戦以来、自身4年ぶりとなる完投勝利で今季3勝目を手にした。
立ち上がりから150キロを超えるストレートを中心に、力でねじ伏せた。最速153キロを計測し、150キロ超えは36球。2−1の6回一死満塁で中村剛也に初球151キロのインコースストレートで空振り、2球目も152キロのインコースストレートでファウルを奪い、2ボール2ストライクから5球目のインコース153キロストレートで空振り三振を奪った場面は素晴らしかった。
種市は同日のストレートに「良かったと思います。指にもかかっていましたし、はい」と振り返る。これまで種市は“左肩の開きが早くないこと”、“横の動きの時間を長くすること”、“体を振りすぎないこと”を挙げてきたが、それらがハマりストレートの状態が良かったと見て良いのだろうかーー。
「そうですね、本当にこの1ヶ月、1ヶ月半試行錯誤した結果かなと思います」。
種市はプロ初勝利を含む8勝を挙げた19年に「ガンガンストレートで押していけるピッチャーになりたい」と話していたが、西武戦では102球中59球がストレートだった。“ストレートで押せる”ピッチャーに近づいてきているという実感はあるのかーー。
「そうですね、(西武戦では)9回でもまっすぐでいこうと決めていけたので、ガンガンいけてたんじゃないかなと思います」。
頭で描いたことを体で体現できる確率が高くなったのか訊くと、「真っ直ぐに関しては19年、20年、もちろん去年よりも、自分史上一番指にかかっていたので、前回の試合がそれを継続してやっていくだけかなと思います、はい」と明かした。
「圧倒的なピッチングができればチームも勢いがついてくると思いますし、去年、今年の最初の方は中継ぎに迷惑をかけていたので、できるだけ長いイニングを投げて、三振をいっぱい取って頑張っていきたいと思います」。マリーンズファンを最高にワクワクさせた状態で交流戦の戦いが始まった。
◆ 交流戦
交流戦最初の登板となった5月29日のヤクルト戦、0−1の4回一死走者なしでオスナを0ボール2ストライクから4球目インコース143キロシンカー系フォークで空振り三振がよかった。本人にそれを伝えると、「あれを毎回投げたいですね、本来は。あれこそシームシフト系のボールだと思いますね」と口にした。
スライダー系のフォークについては「サンタナもスライダーさせようと思って投げていたので、それでも空振りが取れていたので、スライダーでも良いかなと思っています」と語った。6回3失点で連続自責点0登板が3試合でとまり、5月の月間MVPを逃したが、5月は4試合・30イニングを投げて、2勝0敗、29奪三振、防御率0.90と、毎回ワクワクする投球を見せた。「感覚的にはすごく良いので、調子に乗らないように。調子に乗って体を振って力を入れて投げたらどんどん(シーズン)序盤見たいなピッチングになってしまう。できるだけいい時の状態に技術、体も戻してという感じでやっています」と気を引き締めた。
6月最初の登板となった5日の巨人戦で魅せた。150キロ超えが40球で、3−0の5回二死二塁で丸佳浩を1ボール2ストライクから空振り三振に仕留めたインコース151キロストレート、3−0の6回無死一、二塁で岡本和真を3ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めたインコース151キロストレート、3−0の6回二死一、三塁で立岡宗一郎を2ストライクから空振り三振に仕留めたインコース152キロストレートは素晴らしかった。「(ストレートは)いい感じです」と春先に投げていたようなワクワクするストレートが戻ってきた。
巨人戦では、左手のグローブの使い方がいつもと違うように見えた。そこについて種市は「東京ドームの時は力みすぎていたなという感覚があります。どちらかと言ったらベルーナとか神宮とかの方が良かったのかなと思います」と明かした。
種市がよく口にする“修正力”。試合中の修正力が上がったから神宮、東京ドームでもゲームメイクできたのだろうかーー。
「そうですね。交流戦なので投げたことのないマウンドもそうですし、できるだけ早くアジャストしなきゃいけない中で、東京ドーム、神宮もそうですけど、初回全然良くなかった中、ある程度はよくできていたのは良かったと思います。神宮は打たれましたけど、でも個人的には3回、4回のボールは良かったと思います」。
イニング間のキャッチボールで過去にフォークの握りを変え、その後フォークで奪三振を量産するなど、修正する時間に充てているが、イニング間のキャッチボールで修正する上でチェックポイントはどういった部分なのだろうかーー。
「今回はマウンドに合わせるのが一番かなと思っていたので、イメージ的に東京ドームも神宮もそうですけど、景色がすごい違うので、すごい(ボールが)上ずる感覚があった。その中でちょっと若干グローブを下げたという感じはあります」。
巨人戦は8回・124球を投げ、4被安打、9奪三振3与四球、無失点で4勝目。6月14日の中日戦、7回・110球を投げ、7被安打、10奪三振、2与四球、3失点で勝敗つかずだったが、光ったのが“縦スライダー”。
「良かったですね。良かったです」と振り返ったように、1−1の4回無死一、二塁で中田翔を2ストライクから空振り三振に仕留めた3球目の138キロ縦スライダーはストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちで、2−2の5回一死走者なしで福永裕基を2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた5球目の138キロ縦スライダーも同じようにストライクゾーンからボールゾーンに良い落ちだった。
6月12日の取材で「データ見ても縦変化している数値をしていたので、あれを毎回2ストライク後に投げられたらいいなと思っています」と話していた縦スライダーで10奪三振中3三振奪った。
14日の中日戦で今季最多の1試合10奪三振をマークするなど、三振が増えているのはストレートで見逃しを奪えていること、縦スライダーでも空振りが奪えていることが要因なのだろうかーー。
「個人的にはスライダーが僕の中で一番、今のところ重要になってくるのかなと思いますし、19年、20年スライダーがすごく良かったので、どんどんよくなってきているのかなと思います」。
ストレートも0−0の初回一死二、三塁で細川成也に投じた初球のインコース150キロ見逃し、2−2の5回二死二塁から細川に2ボール2ストライクから投じた5球目のインコース152キロ見逃し三振が良かった。
「インコースに関しては本当にラインが見えているというか、いい感覚で5月から投げられている。そこに関しては良いと思いますし、最近やっぱり力みがちなのでそこだけ注意していきたいなと思います」。
フォークに関しても、1−1の4回先頭の先頭の細川に投じた初球、見逃しを奪ったインコース140キロが良かった。本人も「良かったと思います。あれ(シンカー系のインコースフォーク)はずっと練習しているんですけどね。難しいな、できるように頑張っていきたいと思います」とのことだった。
右打者のインコースのシンカー系フォークはカウント球、勝負球でも使っていきたいのだろうかーー。
「カウント球で使えたらどっちでも真っ直ぐでも変化球でもいける状態になるのかなと思います」。
カウント球でストライクゾーンに投げるフォークに関しては「精度はあんまりよくないかなと思っています。宇佐見さんに打たれたフォークも初球ちょっとワンバウンドして、高めに投げようと思って浮いたのが打たれてしまった。心理的にも低めに投げるべきだったのかなと思います」と反省した。
◆ 交流戦明けの投球
交流戦後、最初の登板となった6月22日のソフトバンク戦は、6回まで75球を投げ、2被安打、4回からの3イニングは三者凡退に片付け、9つのアウトのうち6つのアウトを三振で奪った。完封勝利が見えた1−0の7回に先頭の栗原陵矢を右飛に打ち取ったが、続く山川穂高に粘りに粘られ11球目に死球を当ててしまうと、近藤健介にも2ボール2ストライクからの10球目のストレートをレフトへ二塁打を許す。ここを踏ん張りたいところだったが、柳町達に犠飛を打たれ同点に追い付かれる。1−1の8回はわずか4球で2アウトとしたが、周東佑京に1ボールからの2球目のストレートを右中間スタンドに放り込まれると、栗原に適時二塁打を浴び、7回2/3・122球を投げ、6被安打、9奪三振、1与死球、3失点で敗戦投手となった。
「7回に関しては特にボールが悪かったわけではなく、強いていうならスライダーが全然決まらなかった。ちょっと良くなかった点だと思います」と冷静に振り返り、「山川選手、近藤選手に対しても、スライダーをカットされていたので、データを見ても縦変化があまり出ていなかった」と反省。「そこ(スライダーの縦変化)は疲れてきたらこうなるなというのは頭に入れて次の試合は投げていきたいと思います」と、オリックス戦に向けての修正を誓った。
スライダーを反省した種市だが、1−0の5回二死走者なしで廣瀬隆太を2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた縦に落ちるスライダーはいつもより球速が速くなったように見えた。
種市本人に確認すると、「あれは速くしました」と明かした。「40、41キロは出ていましたね。全力でスライダーを投げたことがなかったので、全力で投げてスピードを出した中で空振りが取れたのが、収穫だったかなと思います」。
なぜ、縦に落ちるスライダーを速くしようとしたのかーー。
「今井選手のスライダーが速いので、そのイメージで投げたという感じですね。彼は145キロくらい出るんですけど、はい」。
スライダーでいえば、今季は左打者に対してストレートとフォークが多かった中で、1−0の5回無死走者なしで柳町に1ボールから投じた2球目のバックドアのスライダーでストライクを奪った。あれは狙って外角に投げたのだろうかーー。「そうですね、外構えだったのでいいところに投げられたと思いますし、バッターの反応もすごい良かったので、続けていけたらなと思います」。
6月29日のオリックス戦では、「良くなかった中で5回までゲームメイクできたところは良かったです。勝てる投手になるにはどんな状況でも抑えられる投球をできるようにもっとレベルアップしていきたい」と振り返ったように、5回まで1安打に抑えていたが、2−0の6回に福田周平に死球を与えると、続く森友哉のセカンドへのゴロを藤岡裕大がファンブル。太田椋に送られ、二、三塁とされると、西川龍馬、紅林弘太郎に連続適時打を浴び同点に追い付かれる。なんとかここを踏ん張りたい種市だったが、二死二、三塁から頓宮にレフト前に適時打を浴び逆転を許した。6回・112球を投げ、4被安打、3失点で勝ち負けつかずだった。
6回・100球を投げ2失点にまとめた7月6日の西武戦、「フォークが良くなかったので、ちょっと2ストライク後はスライダーに切り替えてほしいですと(佐藤)都志也さんに言いました」と、4回以降にスライダー、カーブの割合が増えた。
2ストライク後はスライダーに切り替え、1−2の5回一死一塁で栗山巧を1ボール2ストライクから縦に落ちるスライダーで空振り三振を仕留めた。「縦スラなんですけど、ちょっと奥行きが出てスピードも出ていなかったので、真っ直ぐ待ちのバッターにはああいう空振りするんだなと勉強になりました」と振り返った。種市本人がスピードが出ていなかったと話すように、球速は133キロだった。この日のスライダーは「しっくりは来ていなかったですね、前回のスライダーは、はい」と振り返った。
1−2の4回一死一、二塁で源田壮亮への初球見逃し133キロ、1−2の5回一死走者なしで岸潤一郎に1ボールから2球目見逃し132キロは“有吉さんスライダー系※1”のスライダーを投げていた。
「スライダーは良かったり、悪かったりがすごく多いので納得いかない部分ではありますね僕の中では。神宮の時のスライダーが良かったかなと思います」。
左打者に対しては、0−2の3回二死一塁で山村崇嘉に投じた初球にバックドアのスライダーを投げストライクを奪っていた。バックドアのスライダーに関して、「カウント球としては使えるかなと思いますけど、ちょっと追い込んでからは膨らんじゃうので、ワンバウンド気味に投げられればいいかなと思います」と話した。
スライダーと共に5回以降はカーブの割合が増え、特に6回は「最後のイニングだとわかっていたので、ランナーもいなかったので個人的に試合で成長させる意味で投げたという感じですね」と、1−2の6回には古賀悠斗を129キロの縦気味に落ちるカーブで空振り三振、山野辺翔を130キロの縦気味に落ちるカーブで空振り三振を奪った。
最大の武器であるフォークは良くなかったと話していたが、0−0の2回二死走者なしで古賀に1ストライクから投じた2球目の見逃しインコース141キロシンカー系ストライクゾーンフォークが良かった。
本人も「それが一番良かったです。ベストボールでした」と納得の1球。ただ、「あれを投げたいんですけどね、技術不足です」と、右打者のインコースに投げるシンカー系フォークの精度をさらに高めたい考え。
スライダー系のフォークに関しては「そこまでスライダーさせようとも思っていないので、まあまあ時と場合に応じて投げられたらなと思います」とのことだった。
この日の登板で気になったのは、カウント球でのフォークがいつもの登板に比べて多かったこと。「(カウント球にフォークは)多かったですね。データを見ても悪くないんですけど、僕の中で落ち幅より軌道の方が大事なので、フォークに関しては特に。軌道をもうちょっと真っ直ぐに寄せられたらなと思います。スライダー同様膨らんじゃうので」。
つまり、“ピッチトンネル”を意識しているということだろうかーー。
「そうですね。変化量よりもそっちメインの方がいいかなと思っています。スライダーも変化量をもっと出したいと思っていますけどやっぱり、真っ直ぐに見えないと変化量が出ていても意味ないなと思うので、はい。速いのもそうですし、軌道もそうですね」。
種市は7月6日の西武戦後の登板時点で、5月6日の西武戦から9試合連続でクオリティスタート(6回以上3自責点以内)を達成していたが、西武戦の話を聞いていると、そこまで状態がよくないように感じてしまう。本人としては、どういう状態なのだろうかーー。
「5月が一番ベストだったと思いますし、体もフレッシュだったので、今はやっぱり暑さも登板数も増えていますけど、ここから上げていけたらいいかなと思います」。
7月12日のオリックス戦で、6日の西武戦で調子の良くなかったフォークをきっちりと修正した。
種市本人も「良かったですね。というか、その日にこの感覚だと落ちるんじゃないかというのを見つけて、それを試したらすごく良かったという感じです」と納得のフォークを投げられた。西武戦からオリックス戦までの1週間、フォークについて「いい1週間を過ごしましたし、改善できる点は改善しようとした中で、操れていたので良かったと思います」と振り返った。
オリックス戦は追い込んでからフォークが多く、7月6日の西武戦ではフォークでの奪三振は0だったが、7月13日のオリックス戦は10奪三振中4奪三振がフォークだった。追い込んでから縦スライダーが少なく、フォークが多かったのも、フォークが良かったからだろうかーー。
「そうです。選択肢と優先順位の高い方を選びました」。
フォークが良ければフォークで押していき、フォークの状態が悪ければ、追い込んでから縦スライダー、ストレート、カーブで打ち取っていくことができるのも強みだ。
また、オリックス戦は初回に20球、2回に23球と2回まで43球を投げたが、3回以降は1イニング15球以上投げたのは8回の18球のみで、そのほかのイニングは15球以内で終えるなど、終わってみれば8回を投げた。
種市といえば、イニング間のキャッチボールで修正し、フォークの握りを変えたりすることもあるが、オリックス戦でも試合中に修正したのだろうかーー
「技術的な修正はそこまでしていないんですけど、メンタル的に0−0だったので、やっぱりちょっと失点を怖れて丁寧にいきすぎていました。(3回に)ソト選手が(先制の)ホームランを打ってくれたことが僕の中では大きかった。何より、ズルズルいっていたら二流、三流のピッチャーなので、ここでビシッと切り替えてという気持ちでマウンドに上がりました」。
3回以降尻上がりに調子を上げていき、試合を作ったのはさすがだ。
「尻上がりな部分は僕の中である。そこに関しては(初回)20球投げちゃいましたけど、去年とかは(初回に)30球とか投げていた。2回も(球数が)多かったですけど、意識せずいけたのは良かったです」。8回・119球を投げ、7被安打、10奪三振、無失点で5勝目。防御率は2.43まで良化した。
7月20日の日本ハム戦で「全体的に変化球が高かったですし、追い込んだ後の決め球になるボールがまったくなかったので1番はそこかなと思います」と4回0/3・94球を投げ、10被安打、4奪三振、自己ワーストの9失点、オールスター明け最初の登板となった7月28日の楽天戦、5回までパーフェクトピッチングも6回に突如崩れて、5回1/3・67球を投げ6失点。2試合連続で苦しい投球となった。
楽天戦は「変化球が良かったからですね」と、初回からスライダー、フォーク中心でストレートの投球割合が少なかった。7月31日の取材でストレートについて、「5月、6月が良かった分、今はちょっと納得のしていない部分が多いかなと思いますけど、そこをなんとかしていかないといけないのがプロだと思うので、いい感覚になれるように毎日考えてやっています」と明かし、「満足することは絶対にないんですけど、その中でいい感覚に持っていかないといけないとすごい思っている。いろんな選手にも聞きますし、家帰ってからも考えていますし、その中で自分の正解を見つけて行けたらいいなと思います」と試行錯誤していた。
◆ 8月に入り力強いストレート
8月に入ってから再び力強いワクワクするストレートを投げ込んだ。8月4日のオリックス戦、1−0の初回先頭の大里昂生を2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた5球目のインコース151キロストレート、1−0の3回二死走者なしで西野真弘に1ストライクから投じた2球目の150キロインコース見逃しストレート、1ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めた7球目の外角151キロも良かった。
完封勝利した8月11日のオリックス戦でも同日の最速152キロを計測し、9回にも2球150キロ以上のストレートを投げ込んだ。吉井理人監督も試合後に、種市について「真っ直ぐが操れない時から彼なりに修正して急激によくなった」と太鼓判を押した。
種市は良いストレートを投げるにあたって、“左肩の開きが早くないこと”、“横の動きの時間を長くすること”、“体を振りすぎないこと”を何度も口にしてきたが、今回もそういった部分を意識し修正してきたのだろうかーー。
「そういうの(体を振りすぎないこと)もそうですし、技術的な部分がほぼほぼ1週間考えたことが出せているのかなと思います」。
オリックス戦で初回に来田涼斗、9回に廣岡大志から縦に落ちるスライダーで三振を仕留めたように、スライダーで空振りが奪えている。
「スライダーが僕のなかでいちばんの課題なので、セデーニョ選手の犠牲フライは僕の中ではいちばん悔しかった。もっとワンバウンドで投げていたら空振りが取れていたと思いますし、追い込んでいたらフォークで三振を2アウトランナー三塁でいけてたと思うので、そこが僕の中で一番後悔している部分かなと思います」と、失点に繋がった11日オリックス戦の5−0の5回一死三塁からセデーニョに犠飛を浴びた場面を悔しがった。
フォークも8月に入ってから軌道が変わったように見える。種市は「京セラからいい形で投げられているのかなと思います」と好感触。オリックス戦は「今年一番理想に近いフォークボールを扱えていたんではないかなと思います」と納得の表情。フォークの精度についても「僕の中では全く問題ないと思っているので、今の感覚で課題があったら修正していけたらいいかなと思います」と明かした。
ここ最近の登板では、シンカー系のフォークをあまり投げていない。そこについては「意識的にはシンカーというよりは、できるだけ軌道が膨らまないようにそこだけ意識していました」とのことだった。
8月18日のソフトバンク戦では、0−0の5回に先頭の甲斐拓也をフォークで簡単に追い込むと、3球目のインコースのフォークで遊ゴロに打ち取ったが、続く牧原大成に投じた初球のフォークをライトテラス席に放り込まれた。
ソフトバンク戦でのフォークについて種市は「1週間練習してきたことは序盤できていたんですけど、体が疲れてきたらどうしても力で投げていこうとしちゃうぶん、落ち幅がちょっと少なくなっていたと思います」と振り返り、「牧原さんのホームランもそうですし、そこら辺はすごい勉強になった登板かなと思います。よくない時に修正できるように試合中にもっと敏感になっていけたら良かったかなと思います」と反省。
特に甲斐を武器にしたいと話すインコースのフォークで、良い形で打ち取ったように見えただけに牧原の初球はもったいない印象を受けた。
ただ種市本人の見解は違った。「甲斐さんに投げた3球も感触は良くなかった。自分の中ではすぐに気がつけて球種の選択ができていたら、もっと違う結果になっていたかなと思いますし、球種というよりは投げるコースが悪かったかなと思います」。
0−0で投げていると流れを渡したくない、投げていてプレッシャーが大きくなったりするのだろうかーー。
「失点はやりたくないと考えていないというか、それを考えちゃうと丁寧になりすぎて僕の場合は四球になるリスクが高くなってくる。そこまで意識せず、いつも通り、変化球は低く、まっすぐはコースに投げる意識はしています。流れは持っていきたいピッチングをしたいなというのは意識しています。3人でできるだけきれるようにですね、はい」。
0−1の6回表は長い攻撃で満塁のチャンスで無得点だったものの、その裏今季イニング別では最も多い6回(14失点)、3番・栗原陵矢から始まる打順を三者凡退に仕留めたのは見事だった。
「僕の中で6回が鬼門だと思っていましたし、すごいクリーンナップの中で一番点を与えたらダメだなと思って、そこまで丁寧にはなっていないですけど、集中して投げられたかなと思います」。
その6回には二死走者なしから近藤健介の初球にカーブを投げた。「僕の中ではボール球で投げるつもりでしたし、ボールゾーンの球だったんですけど、多分頭になかったので、ファウルになってくれたかなと思います」と振り返った。
種市は7回を2失点に抑えたが、打線の援護がなく6敗目。8月25日のオリックス戦も7回・105球を投げ2失点だったが、7敗目を喫した。
この試合、0−0の6回二死二、三塁で紅林弘太郎を3ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた8球目のインコース137キロの縦に落ちるスライダーはシンカー気味に落ちた。初めて見た軌道の縦スライダーだった。
種市は「紅林選手のスライダーはすごく良かったです。曲げる意識がなかったので、逆にあの軌道で三振が取れるんだな」と手応え。続く9月1日のソフトバンク戦でも0−0の3回先頭の牧原大成に3ボール2ストライクから外角に134キロシンカー系縦に落ちるスライダーで空振り三振。種市は「良かったです。逆曲がりのスライダーですね」と話し、「ああいう軌道で投げられたらいいかなと思っています」と語った。
しかし、9月1日のソフトバンク戦、3回の投球時に右足内転筋を痛め、2日に浦安市内の病院で『右足内転筋の筋損傷』と診断を受け、3日に一軍登録を抹消。この時点で種市の投球回数は142回1/3と、規定投球回到達まで2/3での離脱となった。
◆ シーズン最終盤に復帰し規定投球回に到達
9月20日のオイシックス戦で実戦復帰すると、9月30日の楽天戦では「負けられない戦いの中で5回で変わることになってしまいましたが、無失点で抑えることが出来たことは良かったと思います。怪我で離脱して、一軍の試合で投げるまでにサポートしてくれた方々に感謝したいです」と5回・87球を投げ、4被安打、6奪三振、2与四球、無失点に抑え、自身初の規定投球回に到達。
復帰戦となった9月30日の楽天戦、0−0の3回先頭の小郷裕哉を1ボール2ストライクから空振り三振に仕留めた137キロシンカー系縦に落ちるスライダーに関しては「あれはそこまで変化していないですね。縦に落ちたという感じです」と振り返った。
スライダーは縦に落ちるスライダー、シンカー系に縦に落ちるスライダー、カウント球に投げるカーブ系の130キロ前半のスライダー、135キロ前後の横に大きく曲がるスライダーと何種類も投げている。場面によって投げ分けているのか聞くと、本人は「出力によって変化量が変わるという感じです」と教えてくれた。
10月8日の取材でCSに向けて「相手のデータは見ていないですけど、自分の感覚をもっと今以上に上げるようにやっています」と話し、「ただただゼロでいけたら、負けることはないので、自分の仕事をしっかりしていきたいと思います」と意気込んでいた。
最後に同日の取材でCSでどんな投球を見せてくれるかと質問すると、「長いイニングを投げたいですけど、まずはゼロで短いイニングでもゼロで抑えていくことが一番だと僕は思っているので、初回から飛ばしていけるようにしたいなと思います」と決意。10月14日の日本ハムとのCSファーストステージ第3戦に先発したが、2−2の7回に2点を失い、7回・111球を投げ、5被安打、4失点で敗戦投手となり、ロッテの今季の戦い、種市の今季が終了した。
今季は3・4月の防御率が5.27、7月が6.56と大量失点が目立った登板もあったが、5月が0.90、6月が1.88、8月が1.50と安定していた。昨季が10勝、今季が規定投球回到達したが、ここで満足するような選手ではない。来季最多奪三振、貯金を1人で10作り、防御率も2点台前半にまとめるような投球を期待している。
取材・文=岩下雄太
※1有吉さんスライダー
「有吉さんに3日前ぐらいにスライダーを教えて下さいと言って、教えてもらいました。有吉さんとキャッチボールをずっとしていて、スライダーが捕りにくいなと思ったし、ストレートっぽいなと聞いて、練習する時間があんまりなかったですけど、ぶっつけ本番で投げました」と現在アマスカウトを務める有吉優樹さんから2019年4月に教わったスライダーのこと。19年4月5日のソフトバンク戦で初めて“有吉さんスライダー”を投げた。