2024年シーズンの珍プレーや珍事を振り返る年末特別企画。第4回は「ああ勘違い」編と銘打ち、せっかくのチャンスをフイにした高価なボーンヘッドやスタンドの大顰蹙を買った審判の“あってはならない”勘違いを紹介する。
犠牲フライで1点入る場面だったにもかかわらず、まさかの勘違いで併殺を食ってしまったのが、楽天・辰己涼介だ。
4月21日の西武戦、3回に村林一輝のタイムリーで1点を先制した楽天は、なおも一死一、三塁で、小郷裕哉が右翼後方へライナー性の大飛球を放つ。若林楽人が好捕したが、犠牲フライには十分過ぎる飛距離だった。
これで2点目と思われたが、三塁走者の辰己はスリーアウトチェンジと勘違いし、小郷が打ったと同時にスタートを切っていた。そして、そのまま本塁を駆け抜け、ベンチに戻りかけた。その間にボールが三塁に転送されたため、今度は本当のスリーアウトになった。
ベンチに戻った辰己は、浅村栄斗から「アホか、お前!」と一喝され、今江敏晃監督も「もうあんなことは絶対に、2度とないように。チームとしては起きてはならないこと」と叱責した。
幸いだったのは、楽天が先発・藤井聖はじめ5人の完封リレーで逃げ切り、辰己のチョンボを帳消しにしてくれたこと。1-0の9回に登板した西垣雅矢がプロ初セーブを挙げるうれしいオマケもついた。
試合後、辰己は「全部僕が悪い。とにかく、小郷とチームに申し訳ない」と平謝り。「(9回の守備では)西垣以上に緊張していたと思います。(1点を)守り抜いてくれた投手陣と引き続き使いつづけてくれた監督に、感謝と謝罪の気持ちしかない」と、この日ばかりは神妙な面持ちだった。
◆ スタンドの観客からは「何だよ、それー!」
投手交代の場面で、1度ならず2度も審判が勘違いする珍事件が起きたのが、6月30日の巨人VS広島だ。
3点を追う広島は6回、坂倉将吾の二塁打で1点を返し、なおも二死二、三塁の追撃チャンス。一方、さらなる失点を防ぎたい巨人は、7番・矢野雅哉が打席に入るところで、杉内俊哉コーチがマウンドに向かい、高梨雄平と言葉を交わした。
ここで広島・新井貴浩監督が、右の代打・二俣翔一を告げる。これに対し、巨人・阿部慎之助監督も、右投げの船迫大雅への交代を告げたが、なぜか審判団は認めようとせず、ベンチへ下がろうとする高梨をマウンドに呼び戻した。
だが、5分の中断を経て、川口亘太責任審判が「勘違いをしました」と謝罪と訂正のアナウンスをして、船迫への交代が認められた。
ルール上、コーチがマウンドからベンチに戻ろうとしてファウルラインを越えた場合、交代は認められないが、杉内コーチがまだマウンド付近にとどまっているにもかかわらず、判断を誤ってしまったようだ。
これだけならまだしも、7回にも同様の勘違いが起きる。回またぎで続投の船迫が投球練習を行ったあと、新井監督は先頭の河野佳に左の代打・大盛穂を送る。阿部監督も中川晧太への交代を告げたが、山路哲生球審は認めようとしない。代打が告げられていないと勘違いしていたのだ。
度重なる不手際に阿部監督も苦笑いするしかなく、スタンドからも「何だよ、それー!」「しっかりしろー!」のヤジが飛んだ。
3-2の勝利後、阿部監督は「こっち側がビックリしてしまって……。あれ、そうだったっけな、みたいな(笑)。いや、できるよな……いや、ダメって言われちゃったんだよなって(笑)」と戸惑いをあらわにしながらも、「審判の方も人間ですから。たまには間違いもありますよ。だけど、間違いを認めてね、しっかり『すみません』という事も試合中に仰っていただいたので」と誠実にフォローしていた。
勘違いで犯した痛恨のボーンヘッドを、自らのバットで帳消しにしたのが、日本ハム・清宮幸太郎だ。
8月6日の楽天戦、0-0の3回、日本ハムは一死から清宮が四球で出塁したが、なんと、アウトカウントを勘違いして、次打者・郡司裕也の平凡な中飛でスタートを切ってしまう。二塁を回ったところで、まだ二死であることに気づき、慌てて帰塁を試みたが、時すでに遅し。余裕で併殺を取られ、それまで味方打線が、楽天の先発・早川隆久を1球でも多く投げさせようと、粘っていた“消耗作戦”に思い切り水を差してしまった……。
だが、自分のミスは自分で取り返すしかない。5回二死二塁、清宮は早川から右中間に先制二塁打を放ち、1-1の延長10回にも、二死から万波中正の決勝満塁弾を呼び込む左越え二塁打と、バットで勝利に貢献。「チームの流れを悪くしてしまうミスをしていたので、絶対取り返してやるという強い気持ちで打ちました」とコメントした。
試合後、新庄剛志監督から「もうやるなよ」と教育的指導を受け、軽く頭にゲンコツを食らった清宮は、翌7日の楽天戦でも、0-0の8回に岸孝之から右翼席中段に鮮やかな決勝2ランを放ち、ボーンヘッドの汚名を倍返しにして返上した。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)