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新しい年になって真っ先に向かうスポットといったら、やはり「神社」ではないだろうか。
東京ならば明治神宮、大阪ならば住吉大社という感じで、各地の人気初詣スポットには三が日にすさまじい数の参拝客が訪れる。「もう行ってきたよ」という人も多いはずだ。
さて、そんな感じで大混雑の神社へ向かい、押し合いへし合いしながら賽銭箱に近づいているとき、おそらく誰もが一度はこんなバチ当たりなことを考えたのではないか。
「これだけの人がジャラジャラと金を投げ入れて、中には万札とかも放っている人もいる。しかもこれ全部、非課税だろ? やっぱ神社ってもうかってんだろうなあ」
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しかし、それにはちょっと誤解がある。例えば、明治神宮は初詣で8億円以上の収入があるといわれている。ソニー生命保険が2019年行った「47都道府県別 生活意識調査2019」では、お賽銭の全国平均は286円。明治神宮の初詣には例年300万人以上が訪れると試算されているため、単純計算で8億円を超える。
だからといって明治神宮がウハウハということではない。神宮外苑地区再開発にまつわるニュースで、神社関係者が厳しい台所事情を明かしている。
「明治神宮は初詣の参拝者が日本一多いといわれるが、実際の財政は、スポーツ施設や結婚式場の明治記念館の使用料収入など、外苑の稼ぎに頼る構造になっているという」(東京新聞 2022年4月23日)
多くの参拝客が訪れる有名神社でさえ、賽銭や祈祷料などの「宗教活動収益」だけでは食べてはいけないのだ。全国にある地元密着型の小さな神社の経営がさらに厳しい状況にあるのは容易に想像できよう。
それがうかがえるのが、「神社の激減」だ。
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●神社の数は年々減っている
文化庁の統計によると、神社の数は1994年に8万1424社あったが、2024年には7万8689社となり、この30年で2676社が消滅している。このペースはこれから急激に加速していくとされ、2040年には今から3万8000ほどの神社が消滅し、4万程度にまで減ってしまうという予想もある。
なぜ、本来は「非課税」で経営しやすいはずの神社がバタバタと倒れているのか。諸説あるが、最近問題になっているのは「上納金」の負担の重さだ。
ご存じのない方も多いだろうが、実は神社もコンビニやファミレスなどの「フランチャイズチェーン」と似たシステムを導入している。
2024年の「宗教年鑑」(文化庁)によれば、日本全国の「神社」は7万8689社あるのだが、その中で7万8251社が加盟しているFC本部のような存在がある。
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「神社本庁」だ。ここは伊勢神宮を「本宗」として、日本の神社の頂点に位置付けている宗教法人。7万8251社は「被包括神社」と呼ばれ、神社本庁が管理・指導に当たっており、宮司の任命権なども神社本庁が握る。
そして、ここがフランチャイズビジネスを思わせるところなのだが、全国の被包括神社は神社本庁にさまざまな形で金を納めなくてはいけないのだ。
●神社にまつわるお金の流れ
まず大きいのは、「神宮大麻(じんぐうたいま)」の売り上げだ。
神宮大麻とは、分かりやすくいえば、伊勢神宮の神札(おふだ)のこと。被包括神社はこれを「委託販売」する立場で、販売ノルマが課せられている。宗教業界紙によると、2023年に「神宮大麻」は803万8452体も頒布(はんぷ:配ること)されているので、1体800円とすると約64億3076万円の売り上げになる。
それを一時的に全て神社本庁が吸い上げて、伊勢神宮へ納められる。そして、その中から50%が交付金という形で神社本庁に戻され、全国の神社にも分配されるといった流れだ。
ただ、「上納金」はそれだけではない。被包括神社は氏子の数や、参拝客数に見合った納付金を神社本庁から求められる。また、神職の数や階級に「神職賦課金」という会費も払わなくてはいけない。
ただでさえ参拝客や祈祷料だけでは経営が難しい中で、このような形で「加盟料」を徴収されたら経営が苦しくなる神社が多くなるのも当然だろう。
こういう問題が顕在化してくると、フランチャイズビジネスではFC本部への「反乱」が起きるのが常だ。
●神社界でも起きている反乱
分かりやすいのは2019年、東大阪のセブン-イレブンのオーナーが「バイトも確保できないし、売り上げも落ちるから24時間営業をしたくない」とFC本部の方針に反旗を翻して大きな話題になった。
実は似たことが神社界でも起きている。『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)など一部メディアで、神社本庁の不正な不動産取引や幹部の不倫スキャンダルなどが報じられたことや、トップ人事を巡る内紛などで神社本庁への信頼が低下して反旗を翻す有名神社も増えている。2020年には金比羅宮(香川県)が激しい怒りの声明文を出して離脱、2024年には鶴岡八幡宮(神奈川県)も離脱した。
とはいえ、このような思い切った行動に出られるのは、多くの参拝客が訪れる有名神社だからでもある。参拝客も少なく、地元密着型の小さな神社などは神社本庁に加盟していたほうがメリットもあるので、そう簡単に「離脱」はできない。
さりとて上納金もあるので経営はカツカツ。高齢化で氏子も減少し、参拝客も減少傾向のようなところは、本殿や境内を修繕する余裕もなく荒れ放題となり、さらに閑散としていく――。
かくして、日本全国に「限界集落」ならぬ「限界神社」があふれかえり、全国で3万以上の神社が消えていく「神社大消滅時代」へ本格的に突入していくというわけだ。
このような未来を回避するには、どんな方法があるのだろうか。これは神社本庁の皆さんもあれやこれやと頭を痛めているところだろうが、個人的には「道の駅化」していくしかないと思っている。
●神社の観光スポット化、海外の例も
神社の境内に地域の観光案内所を設置し、スペースに余裕があれば地域の野菜や特産品を販売したり、レストランも併設したりする。場合によってはイベントなどで「貸切」や、宿泊施設としても開放するのだ。
もちろん、収益を上げた分は宗教活動ではないので、しっかりと課税する。明治神宮のように不動産関連の収入があるような神社はそちらに頼ることができるが、それができないところは「観光での稼ぎに頼る」しかないのではないか。
「神聖な神社を、マナーの悪い観光客が土足で踏み荒らすような場所にできるわけがないだろ!」という痛烈なお叱りが飛んできそうだが、世界では神聖な場所を「観光スポット」としてブラッシュアップすることで保護するのが主流だ。
例えば、エジプトのピラミッドだ。
ご存じのように、あの遺跡は人類共通の財産であると同時に、エジプト人にとっても神聖な場所だ。しかし、つい最近、そこを有名YouTuberが貸し切った。
世界一のチャンネル登録者数を誇るYouTuberのMrBeast(ミスタービースト)氏は、エジプト政府の協力のもとクフ王の大ピラミッドを貸し切って、中で一泊して幽霊探しをしたという。
世界遺産の私的利用は、これが初めてではない。2024年初頭には、テック起業家と元プロレスラーが結婚式を行うためにピラミッドとスフィンクスを1週間貸し切り、一般公開を中止している。
このような話を聞くと、「エジプト人はピラミッドを金もうけの道具くらいにしか考えてないんだな」と勝手に日本人のモノサシで考えてしまいがちだが、そうではない。これがピラミッドという神聖な場所を守るためにベストな方法だと考えているからだ。
●人口減の日本では待ったなし
かの国に行ったことがある人は分かるだろうが、エジプトはそこかしこに遺跡だらけだ。これを全て税金によって発掘、修復、保全などをすれば、すぐに財政は破綻する。
エジプトは日本のように「お金がないのなら赤字国債を発行すればいい」という理屈は通らない。そこでどうするのかというと、「観光」だ。
例えば、エジプトのアフメド・イッサ観光大臣は2023〜24会計年度で、歴史遺産の維持・修復に約30億エジプト・ポンド(9700万ドル)の予算を設定。これを「アトラクションの入場料による収入」で賄(まかな)うと述べている。つまり、遺跡や博物館の入場料、土産物、そして前述したような「文化財の貸切」である。
これはエジプトだけではない。フランスではベルサイユ宮殿が貸し切りをしているし、スペインのアルハンブラ宮殿も貸し切りはできないが宿泊ができる。日本でも二条城などが国際会議場として貸し切りをしている。もちろん、ここのもうけは私腹を肥やすためではなく、文化財の修繕や保全など維持費に回される。
「それはそれ、これはこれ! 神聖な神社を金もうけの道具にすることなど許されることではない!」とご立腹の人も多いだろうが、そうやって怒っているだけでは、日本の神社が衰退するだけだ。
先ほど2040年までに、3万8000の神社が消えていく恐れがあることを述べた。なぜそんなことになるのかというと、日本人も消えていくからだ。2024年1月時点で1億2488万人だったわが国の人口は、2040年には約1200万人の日本人が消え、1億1284人となる。これがどれほどヤバいことか、ピンとこない人は九州7県で暮らしている人たちが全て消滅したとイメージしてもらうといいだろう。
しかも、残った日本人のうち35%は65歳以上だ。元気なシニアもいるが、多くは腰が曲がって神社の階段を上がるのにも苦労するような後期高齢者だ。そんな社会で、賽銭や祈祷料、神宮大麻の収益だけで、全国の神社を維持させることなど、できるわけがないではないか。それは今のような神社本庁を本部としたフランチャイズシステムに「崩壊」が訪れつつあるということでもある。
●「変わらない」選択をした時点で、衰退が始まる
「伝統」は大切だ。その国の人間ならば「伝統」を尊重するのも当然だ。しかし、時代の変化に合わせて捉え方を変えなければ、「伝統」は廃れるだけだ。
例えば「着物」。テレビアニメ『サザエさん』の中で、波平さんやフネさんは自宅で和装を着ているが、今の日本であのような姿で自宅で過ごす人はほとんどいない。着物は典型的な「消えゆく伝統」の一例である。
なぜこんなことになったのかというと、「伝統」としてやたらと崇(あが)めてしまったことでハードルを高くしたことが大きい。かつては庶民の日常着だったものが、七五三や成人式といった特別な場面でのみ着られるセレモニー着へと変わってしまった。
需要が減ったので、着物メーカーとしては売り上げをキープするために「高級化」を進めるしかない。そうなると、庶民はどんどん着なくなる。しかも、利益を上げるために原料や縫製は中国やベトナムに依存するしかないので、養蚕業や製糸業は衰退、着物職人も減った。「伝統文化」とチヤホヤすればするほど、大衆は離れ、産業も衰退していく悪循環に陥っていたのだ。
しかし最近になって、この負のスパイラルに変化が起きている。着物がこれまでの「伝統的なセレモニー着」から「観光地でのコスプレ」という新たな捉え方が広がったのだ。
外国人観光客が京都や浅草を訪れる際、記念として着物をレンタルし、写真を撮るようになった。そういう店が増えれば、若い人たちも「映え」目的にデートなどで利用するようになった。こういうトレンドを受けて、アンティーク着物の価格も高騰している。
「日本人の伝統的な正装」などハードルを上げるのではなく、「和装マナーを知らない外国人でも、着方を知らない若者でも気軽に楽しめるコスプレ」とハードルを下げたことで、衰退一直線だった着物産業が少しずつだが復活の兆しが見えてきたのだ。
以前インタビューをした江戸時代から続く老舗企業の経営者が「伝統とは常に革新を続けていくこと」と述べていたことが非常に印象に残っている。伝統というものは「守る」ことを意識すると、どんどん保守的で排他的になってしまう。そうなると、一部の人からは熱狂的に支持されても大衆はついてこない。結果、「伝統を大事にしろ!」という叫びもむなしく、衰退に歯止めがかからない。
残念ながら今の神社はそういう印象が否めない。日本人の神聖な場所を後世に引き継いでいくためにも、神社の世界にもイノベーションが求められるのではないか。
(窪田順生)
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