限定公開( 13 )
吉野家ホールディングス(HD)は2024年12月、2つの新業態店をオープンした。から揚げ専門店「でいから」と、カレー専門店「もう〜とりこ」だ。牛丼「吉野家」で既にから揚げとカレーを提供している同社だが、今回はそれぞれを専門店として構えた。
【画像】ココイチっぽさを感じた注文方法、店内の様子、メニュー表、食べてみ実際のカレーなど(計10枚)
専門店として出店した背景には、依然として続くから揚げの人気、そしてカレー分野でひた走る「ココイチ」に続きたいという狙いがありそうだ。果たして両業態は、吉野家と「はなまるうどん」に次ぐ「第3の柱」となるのだろうか。
●から揚げに加え、おにぎりも充実
から揚げ専門店 でいからは2024年12月19日、横浜市でオープンした。環状4号線と県道45号が交差するロードサイドに店舗があり、ドライブスルーを設けるなど、明らかに自動車客を狙った店舗である。旧吉野家を改装した店舗であり、店内はテーブル席が中心である。
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メニュー構成はから揚げ定食がメインで、おにぎりや小鉢に加え、から揚げを1個ずつ追加することも可能だ。「でいから定食」が792円、「タルタル定食」は924円で、その他もから揚げ4個、みそ汁がついて約800〜950円という価格帯である。から揚げを1個減らすと110円引き、1個追加すると110円加算するシステムだ。また、ご飯の大盛りは無料。
おにぎりは明太子や炙り鮭、ツナマヨ塩昆布などがあり、価格帯は250〜300円程度。定食への追加メニューとして考えると、やや高めの設定だ。おにぎりを食べたい人に向けては、好きなおにぎり2個とから揚げ1個がついた「おにカラセット」(715円)があり、こちらをメインと想定しているのかもしれない。143円の小鉢には、小松菜やおくらのゴマ和えなどがある。
コロナ禍では持ち帰り形式のから揚げ専門店が増えたが、現在はそこまで目にしない。ワタミの「から揚げの天才」も閉店ラッシュが続き、から揚げブームは過ぎ去ったように見える。だが、イートイン形式のから揚げ専門店は健在だ。
「ガスト」は2020年7月から「から好し」との併設店を出店し、現在ではガストのほとんどが併設店となっている。から揚げをメインで食べたい人だけでなく、ちょい足しメニューとしても機能している。「かつや」のアークランドサービスHDが運営するから揚げ専門店「からやま」もチェーン店として定着した。2014年に1号店を出店した後、2020年に100店舗を達成、6月末時点で123店舗を展開する。吉野家も2016年よりから揚げを定番メニューに設定。牛丼に飽きた客を取り込もうとしている。
から揚げが定着した背景には、コストパフォーマンスの良さがあるだろう。ランチ価格が1000円を超えるのも当たり前になった昨今、800円台で満腹感を得られるメニューは、特に男性客にとってありがたい存在だ。堅調なから揚げ店を前に、吉野家はから揚げ専門店に勝機を見出したのではないだろうか。
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●カレー専門店「もう〜とりこ」はココイチを参考にした?
もう一方の新業態店が、12月1日にオープンしたカレー専門店 もう〜とりこである。立地は浅草、雷門からやや離れた六区ブロードウェイ商店街。看板には「しあわせのビーフカレー」と大きく書いてある。浅草にあるとはいえ、インバウンドを意識した店舗づくりにはなっておらず、日本人をターゲットにしていると思われる。店内には注文用のタッチパネルがあるが、英語メニューはなかった。
「ビーフカレー」は858円、ご飯がオムライスになっている「オム玉ビーフカレー」は1078円だ。フライドオニオンや食べるラー油などの副菜は、2品まで無料でトッピングできる。何より、ココイチのようにご飯の量や辛さを追加料金で変更もできる点は注目だ。
同様に生玉子やコロッケ、チキンカツなど有料トッピングも追加可能で、ココイチを参考にしたと思われるシステムが随所にみられる。ただし、トッピングのバリエーションはココイチが圧倒しているように感じた。
筆者は「チキンカツスパイシービーフカレー」を注文した。カレーの味は良くも悪くも「スタンダード」、揚げたてのチキンカツは衣がサクサクである。確かにメニュー数は少なく、バリエーション選びの楽しさはココイチに劣ってしまうが、良く絞り込まれている印象だ。サッと食べるカレー店としては適している。
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●今後も「牛丼」以外に注力か
カレー業態では約1200店舗のココイチがダントツだ。松屋フーズの「マイカリー食堂」も勢力を伸ばしており、専門店及び松屋との併設店形式を含めると約150店舗を展開している。ココイチが少しずつ店舗数を削減している近年でも、マイカリー食堂は併設店を強みに店舗数を増やしてきた。もともと松屋でもカレーを提供しているため「牛丼チェーンが運営するカレー店」として消費者に受け入れられやすい素地があったのは強みだろう。吉野家も松屋と同じ道を歩もうとしているのかもしれない。
吉野家HDの主なブランドは、国内店舗数が約1200店の吉野家と、約400店のはなまるうどんである。いずれも頭打ちとなっており、以前のような成長は期待できない状況だ。吉野家は海外も横ばいに推移している。そんな中、同社は第3の柱としてラーメン事業やその他事業の拡大を目指す方針を公表している。ラーメン事業では以前にM&Aで取得した「せたが屋」などを運営している。
新たにオープンしたから揚げ専門店とカレー専門店も第3の柱を見出す試行錯誤といえる。両業態が成功するかどうかは未知数だが、新たな収入源を確保すべく、吉野家は今後も新業態を開発していくことだろう。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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