無名だった、スポーツブランド「On」 意外な戦略で人気拡大、箱根駅伝を沸かすか

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2025年01月03日 12:51  ITmedia ビジネスオンライン

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2010年にスイスで生まれたOn。画像は「Cloudboom Strike LS」

 前回の箱根駅伝は第100回記念大会のため通常より3校多い、23チームが出場。230人のランナーは過去最多となる全10ブランドものシューズを着用していた。


【画像】箱根駅伝沸かすか、無名だったスポーツブランド「On」の戦略


 その中で独自の戦略で箱根駅伝に食い込んできたのが、スイスのスポーツブランド「On」(オン)だ。


 2010年に誕生したオンは「世界で最も成長スピードの速いスポーツブランド」と呼ばれており、日本でも大躍進している。


 近年はタウンシューズとしても人気を集めており、世界特許技術のCloudTec(ソールに搭載された筒状のパーツが収縮することで強い推進力を生む)を搭載したクールなデザインを目にしたことがある人は多いだろう。


 2022年4月に東京・原宿のキャットストリートに世界で2店舗目、アジア初の旗艦店となる「On Tokyo」(オン・トーキョー)をオープンすると、インバウンドの顧客も多く来店。最近は街中だけでなく、ランニングシーンでも目立つ存在になっているのだ。そして前回の箱根駅伝では3人が着用した。


 数年前まで、日本陸上界では「無名」ともいえるブランドだったが、オンは面白いところに目をつけた。


 2023年に「今年、一番強い中距離走者を決める大会」と銘打つ「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」とパートナーシップ契約を締結。また同大会を運営するTWOLAPSの代表であり、男子800メートル元日本記録保持者・横田真人氏をオン・ジャパンのアスリートストラテジー アドバイザーに迎えたのだ。


●オンの「意外な」目の付け所 どんな戦略を描いていたのか?


 当時、オン・ジャパン共同代表は、こんなことを話していた。


 「駅伝とマラソンに注力しているブランドは非常に多いです。われわれは後発ブランドなので、いまから同じだけやるとしてもリソースの問題もあり、直接戦えない部分があります。でも良い意味で軸をずらした戦い方ができるかなと思ったので、まずはミドルに取り組み、最終的には長距離にも影響を与えたいと考えています」


 「頂上」から攻めたアシックスと比べると、オンの戦略は真逆といえるかもしれない。国内ではやや注目度に欠ける中距離種目をまずは攻めて、日本陸上界で「顔」を売っていく道を選んだのだ。


 その成果は十分にあった。横田氏のプッシュもあり、オンのスパイクやユニフォームを着用する長距離選手が徐々に増えた。国内のトラックレースで「On」のマークを目にする機会が大幅にアップしたのだ。


 それからオンはグローバルの取り組みとして、「On Track Nights」という陸上競技場を舞台にしたレースをウィーン、パリ、ロンドン、ロサンゼルス、メルボルンなどで開催していたが、2024年7月には国内で初開催した。その全てが“規格外”だった。


 トラックレースは中距離種目(800、1500、3000メートル)のみ。バックストレートにはトンネルがあり、そのなかを選手たちが駆け抜ける。スタジアムには音楽が鳴り響き、選手の入場・フィニッシュには火花とスモークが噴き出した。観客はフィールド内でも観戦できて、選手との距離はかなり近い。観客はオンというブランドに親近感を抱いただけでなく、カッコ良さを感じたことだろう。


 国内でのブランディングが進んでいるオンだが、世界に目を向けると、パリ五輪の女子マラソンでの活躍が記憶に新しい。Onアスリートのヘレン・オビリ(ケニア)が銅メダルに輝いたのだ。なお男女のマラソンでメダルを獲得したのはアディダス、ナイキ、アシックス、オンの4ブランドしかない。


●日本の長距離界でも「存在感」 注目選手がOnを相棒に


 そして日本長距離界では、昨季から駒澤大学のスピードスター・佐藤圭汰選手が着用している。佐藤選手は出雲駅伝と全日本大学駅伝で区間賞を獲得。トラック10000メートルでも同社のスパイクでU20日本記録(当時)となる27分28秒50を叩き出した。


 またオンは昨年9月に駿河台大学とパートナーシップを締結。前回の箱根駅伝では駿河台大がオンのユニフォームで出場しただけでなく、駒大・佐藤選手を含む3人の選手がオンのシューズで箱根路を駆け抜けている。


 今季の駅伝シーズンはというと、駒大・佐藤選手が故障の影響で出雲と全日本を欠場したが、11月の全日本大学駅伝は5人の選手がオンのシューズを着用していた。その中では国内ではまだ未発売の「Cloudboom 4」というモデルを着用した駒大・篠原倖太朗選手(4年)の快走がインパクト抜群だった。


 全日本のエース区間である7区は青山学院大学・太田蒼生選手(4年)と國學院大學・平林清澄選手(4年)が激しい首位争いを繰り広げたが、5位でタスキを受けた篠原選手が猛追。アディダスを履く2人を抑えて、超ハイレベルの区間賞をゲットしたからだ。


 また、全日本大学駅伝では3区でトップを突っ走った青学大のスーパールーキー・折田壮太選手(1年)、創価大学の主将・吉田凌選手(4年)という実力者もオンを着用していた。2人が使用していたシューズがまた斬新だった。2024年7月に発表した最新テクノロジーを搭載したアッパー技術「ライトスプレー」で製造された「Cloudboom Strike LS」というモデルだ。


 ライトスプレーは自動化されたロボットアームで素材をスプレー噴射することで、接着剤フリーのつなぎ目のないアッパーを実現。超軽量の立体成型のため、極薄でシームレスなつくりで靴紐なしで着用できる。片足のアッパーをわずか3分で製造できて、CO2排出量は約75%の削減になるという。


 とにかく足へのフィット感が抜群で、サポート性を発揮。インソールも中敷きもなく、足が直接ハイパーフォームに接するため、エネルギーのロスも少ない。ミッドソールは最新テクノロジーの独自フォームを2層に重ね、カーボンプレートを挟み込むことで、高いエネルギーリターンを実現した。メンズ26.5センチで170グラムと軽量で、ビジュアル面を含めても“未来のシューズ”という雰囲気を持っている。


 2025年正月の第101回箱根駅伝では折田選手が登録外となったが、駒大・佐藤選手がエントリーに名前を連ねた。王座奪還を目指す駒大は主将・篠原選手が「Cloudboom 4」、エースの佐藤選手が「Cloudboom Strike LS」での出走が予想されている。また創価大の主将・吉田選手も「Cloudboom Strike LS」で勝負に出る予定だ。


 前回はシューズシェア率が1.2%(3人)だったオンが、2025年の正月で話題をさらうかもしれない。



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