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円安や物価高による影響が相変わらずデカくて一昔前の感覚で価格を見ているとびっくりする昨今ですが、そろそろそれにも慣れた頃。2024年のデジカメ界は“一番上”と“一番下”に注目したい年だった。
それを踏まえて、今年はどんなカメラが登場するか、ちょいと考えてみたい。
●フラグシップ機が出そろった24年
まずは一番上から。
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なんといっても、キヤノンがとうとうミラーレス一眼のフラグシップ機を発売したのがトピック。オリンピック直前の7月に製品発表し、秋に発売した「EOS R1」。
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ちなみに、1年前の同じようなコラムでは、EOS R1について「今年はオリンピックイヤーなのでさすがにそろそろ出るよね、今から出すなら当然グローバルシャッター搭載だよね、と多くの人が思うところ。オリンピックに間に合わせるなら早いうちに発表しないとまずいわけで、遅くても2月下旬のcp+ 2024ではお披露目になるはず」と書いたけど、発表はcp+ 2024ではなくその後だった。まあ出たのでよしとしよう。
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個人的には「EOS-1」というフラッグシップ機のブランド名を維持するかどうかに注目していたのだけど、ミラーレス一眼への完全移行を期に、すべて「EOS R」に統一したようだ。
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さらにグローバルシャッターのセンサーではなかったのだけれども、実際に使ってみると電子シャッターのままでほぼまかなえそうなレベルの高速なセンサーだったのである。
同時にハイエンド機の「EOS R5 Mark II」も発表。同じ世代の技術で高画素のEOS R5 Mark II、スピードのEOS R1という感じか。
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ソニーは年初の「α9 III」と年末の「α1 II」。
衝撃的だったのはα9 III。何しろグローバルシャッターである。
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走る新幹線の車窓から電子シャッターで撮った架線柱や壁が一切歪まずに撮れてるってのは衝撃的だ。
α1 IIは、3年半分の進化を経ての登場。こちらはローリングシャッターの積層型センサーだった。
グローバルシャッターがポピュラーになるにはもうちょっとかかりそうだ。
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さて、そうなると気になるのがニコン。
驚きのフラッグシップ機(何しろメカシャッターを搭載しなかったのだ)「Nikon Z9」を発売したのがα1と同じ21年の12月……となると、25年にはニコンから“Z9 II”が出てきてもおかしくはないよね。Z9はマメなファームアップによってまだ古びてはいないけど、可能性はある。出るとしても後半かな。
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●小型軽量モデルの充実がうれしいここ2年
次は「下」。下というと聞こえが悪いけど、小型軽量で比較的廉価なモデルって意味だ。10年前はそのクラスが市場を引っ張っていたが、スマートフォンの隆盛に伴って「わざわざカメラを買おう」という人たちが減り、その層に向けた製品もぐっと減っていた。
でも、それが徐々に復活しつつある。
23年はキヤノンの「EOS R50」(事実上、Rマウント版のEOS Kissだ)や「EOS R8」が登場。ソニーはα7C IIを投入。
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ニコンは? と思った私は1年前のこのコラムで「ニコンはZ 5やZ 50からかなり時間が経っているので、カジュアルモデルをリニューアルするにはいい時期だ」と書いたのだけど、出たのはZ50 IIだけだった。
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“Z5 II”は出なかった。今年はフルサイズセンサー機の入門モデルとしてZ5 II登場に期待したい。
「Z6 III」は出たけれども、これは当初よりちょっとハイエンド方面にいっちゃったかなと。性能的には申し分ないのだけど、Z5との性能差、世代差が開いちゃったのだ。
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さて、24年の小型軽量エントリーモデルとして注目したいのがEVFレスのモデル。パナソニックの「S9」や富士フイルムの「X-M5」だ。
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「VLOGCAM」と名づけたソニーのZVシリーズもその仲間といっていいかも。24年は「ZV-E10 II」が投入されている。こちらは順番にリニューアルされていく感じだろう。その分、α6xxxシリーズの新作が出てないけど、動画性能(特に動画撮影時のブレ補正や音声の処理など)に差はあるものの、どれも写真も動画も普通に撮れる。
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カジュアル系のデジタルカメラ市場が急激にシュリンクして以来、各社とも高性能で高度な撮影が可能な、一眼レフを完全に置き換えるボディと、多少大きくても高性能なレンズに力を入れてきた。
そちらがある程度一段落したタイミングと、スマホから写真や動画撮影に入った人が専用機としてのカメラに興味を持つタイミングが一致したんじゃないかという気がしている。
こういう四角くて小さなカメラってのは必要かと思う。動画と静止画の垣根がぐっと低くなっている昨今、EVFをのぞく習慣がない層が増えているし。カメラのユーザー層を広げるには、オーバースペックになりそうな高性能より、入門機と呼べる「比較的に購入しやすく持ち出しやすく扱いやすい製品が必要なのだ。
このジャンルは今年も伸びると思うし、伸びてほしい。
となると、気になるのが2社。
一つはキヤノン。
EOS Rシリーズはすべてファインダー搭載機で、ファインダーレスの小型機は「EOS M6 Mark II」(19年)を最後に出してないのだ。
・【関連記事】コンパクトで使いやすい、画質も上がった優等生ミラーレス一眼「EOS M6 Mark II」
今年、上面がフラットな小型軽量モデルを出してきたら面白いと思うのだけど、出さない気もする。キヤノンは23年にエントリー機を24年にミドルクラスからハイエンドをと上から下まで一通り揃ったのでやるとしたら今年だと思うのだけど。
もう一つ、EVFを持たない背面モニターだけのコンパクトでカジュアルなミラーレス機といえば、ミラーレス一眼黎明(れいめい)期をひっぱったオリンパス(当時)のPENである。
オリンパスからカメラ事業が切り離されてOMDSになって以来、21年の「P7」を最後にPENは出てないのだ。
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このP7も中身はかなり古くなっているし、USB端子もUSB Type-Cじゃないしで、そろそろ被写体検出AFを搭載したレトロなデザインでアートフィルター推しで出すのにいいタイミングじゃないかなという気はしておりますがいかがでしょう?
●画作りにこだわった機能が目立ったよね
デジタル一眼のトレンドとしては、ここんとこAIを駆使した被写体検出AFやリアルタイムトラッキングが中心で、それはもう今年も変わらず。AIが絡んでくるともう毎年進化はし続けるわけで、そこは各社の従来とは異なる技術力や資本力が関係してきそうで大変そうなのだけど、AIと高速センサーを中心に進むのは間違いないだろうなと。
もう一つ、24年に興味深いトレンドが出てきた。
個性的な色や階調といった画作り推しだ。
もともと、どのカメラも「ピクチャーコントロール」や「ピクチャースタイル」「ピクチャーモード」などの名前で撮影時の色や階調やシャープネスの組み合わせを選べるのだけど、どれもメニューの中にあり、マメに変える人ってあまりいなかったと思う。
各社とも違う名前がついてるので、ここでは暫定的に「画作り」とします。それが、24年の新製品で表に出てきたのである。発端は動画クリエイター関連じゃないかと思う。
そして最初に動いたのがパナソニックの「リアルタイムLUT」だ。LUTは「ルックアップテーブル」の略で映像用語なのだけど、それを写真と映像の両方に適用してきた上に、S9に専用のボタンを設けたのだ。
しかも、スマホを通してダウンロードしたLUTをカメラに転送して当てたり、スマホでオリジナルのLUTを作ることもできる。調整できる幅はかなり大きく、画作りを楽しもう、というのが前面に出ているのがすごく伝わってくる。
今の時代にすごく合ってると思う。
S9と同時期に動いてきたのが、以前から「フィルムシミュレーション」を推してきた富士フイルム。
なんと「X-T50」では、左肩というアクセスしやすい場所に「フィルムシミュレーションダイヤル」を積んできたのだ。メニューを介すことなく、ダイヤルだけで画作りを選べるのである。
・【関連記事】「動画より静止画を撮りたいんだー」という人に富士フイルム「X-T50」は超オススメかも
ちなみにX-T50は背面モニターがチルト式に戻ったという点で非常によいカメラである(個人の感想です)。
フィルムシミュレーションダイヤルはX-M5でも採用した。
ニコンもともと持っていた豊富な「ピクチャーコントロール」に加え、「カスタムピクチャーコントロール」や「イメージングレシピ」といった新機能を装備(Z6 IIIやZ50 II)。
イメージングレシピはクラウドとの連携、カスタムピクチャーコントロールはPCで画作りを行う必要があるなど使い勝手はまだこれからという感じなのでまだ進化しそう。
ソニーの「クリエイティブルック」も個性的な画作りをいくつか持っている。
ニコンや富士フイルムは老舗のブランドだけあり、フィルム時代を彷彿とさせる表現が得意だし、ソニーやパナソニックは映像作品のルックからきた新しい表現が得意という印象だ。「画作り」で楽しむ、個性を出すという流れがきたのは面白い。
というわけで、いち早くそれに取り組んだオリンパス(当時)のアートフィルターもイマドキっぽい画作りで仕切り直してPENと一緒に復活したらいいんじゃないかというのはさっきも書いたか。いやマジで今チャンスだと思うのだけどなあ。
総括すると、ハイエンド機は積層型センサーやグローバルシャッター方式のセンサーが出てきたことで「デフォルトが電子シャッターになる」時代がやってきたので、あとはセンサーのコストが下がってミドルクラスにも広がるといいなあと思っている。エントリー機こそシンプルに、歪まない電子シャッターオンリーになるべきだと考えているのだけど難しいか。
ユニークなのは画作りで遊ぶというトレンド。
S9が代表的だけど、四角くて小さくて軽くていろんな画作りを楽しめるスナップ機ってのはまだくると思う。
もしかしたら、コンパクトデジカメという形の復活もあるかもしれない。スマホ用に開発されたソニーの1型クラスのセンサーを搭載したコンパクトデジカメが出たらいいなあと思っているのだけど、難しいか。
そうそう、ミドルクラスのスタンダード機の話がほぼ出なかったけど、ソニーの「α7 IV」の発売が21年12月だったので、製品サイクル的にそろそろだ。α9 IIIやα1 IIの操作系やAF回りがどこまで受け継がれるかに注目だ。被写体検出AFのオートは積んでくると思う。
もう一つ、製品サイクル的に来るかもしれないのがキヤノン「EOS R6 Mark II」(22年12月発売)の後継機。こちらもEOS R5 Mark IIで搭載された技術がどこまで受け継がれるか。
今年の注目はこのあたりか。
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