経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は日産自動車株式会社の歴史について紹介したいと思います。
かつては“技術の日産”と言われ、フェアレディZやスカイラインなどの名車を生み出してきました。90年代以降は苦難の時代を迎えるも、カルロス・ゴーン氏による改革で体制を立て直しました。しかし近年では主力の北米・中国市場で苦戦し、ついにホンダとの経営統合に向けて動き出しています。そんな日産の歴史について振り返りたいと思います。
◆「ダットサン」ブランドを確立
日産は1911年に設立した自動車メーカー「快進社自動車工業」がルーツです。1914年に「ダット自動車」を開発し、後に軍用トラックの生産を始めました。26年には実用自動車製造と合併してダット自動車製造となり、1931年に戸畑鋳物の傘下に入りました。戸畑鋳物は実業家・鮎川義介氏が興した企業です。その後、32年に国産車「ダットサン」を開発しました。
1933年に陸軍の意向で軍用自動車メーカーが統合することになりましたが、この際に鮎川氏の戸畑鋳物がダットサンの商標と製造権を引き受け、32年に乗用車のメーカーとして日産自動車が設立されました。1949年に自動車に生産制限がGHQによって解除されると、欧米車を参考にしながら技術力を高めていきました。
1966年には「スカイライン」を生産していたプリンス自動車工業と合併。そして69年に発売したスポーツカー「フェアレディZ」はその特徴的な外観と欧州車並みの性能が受け、世界的にヒットしました。北米での販売台数が増えるにつれ、「DATSUN」ブランドの認知度は高まりました。
◆“販売のトヨタ”に対して“技術の日産”
一方で国内ではトヨタに差を付けられました。トヨタは70年代から80年代にかけ、全国のディーラーを組織化することで、マーケティングに注力しました。必ずしも技術力に差があるわけではありませんが、“技術の日産”を標榜することで、技術力の高さをアピールしたのです。なお1981年には、北米で日産よりも高い認知度を有していたダットサンブランドを何故か廃止しており、販売面での迷走ぶりが窺えます。
1989年にフェアレディZ(Z32型)、スカイライン(R32型)などの名車を発売しましたが、バブル崩壊以降、国内の新車販売台数が減少するなかで、日産の業績は悪化しました。販売網はトヨタの方が強く、不景気で日産が得意とするハイエンド帯も売れなくなりました。そして国内市場はそもそも、軽自動車の比率が上昇していました。日産の赤字は増大し、99年には実質的な有利子負債が2兆円を超えました。
◆カルロス・ゴーン氏によって再生するも…
1999年、日産はルノーと資本提携を結び、ルノーの傘下に入りました。同年にカルロス・ゴーン氏がCOOとして入社し、2001年には日産のCEOとなりました。悪化した業績を改善すべく、ゴーン氏は「日産リバイバルプラン」を発表。国内5工場の閉鎖や全世界で2.1万人の人員削減に取り掛かりました。不要な子会社、下請け企業の保有株式を売却したほか、車種を減らし、プラットフォームを整理して効率化を進めました。しがらみの多い“プロパー社長”にはできない施策です。2003年には有利子負債を完済し、ゴーン氏の功績を世に知らしめました。
ゴーン氏はムダ削減だけでなく攻勢にも出ました。経済成長の著しい中国への進出を行ったほか、エクストレイル、マーチ(3代目)、キューブ(2代目)、GT-Rなどの売れる車を販売しました。2005年には電気自動車の「リーフ」を発売しています。2016年3月期には売上高12兆円を突破しました。
しかし2018年、東京地検特捜部は金融商品取引法違反容疑でゴーン氏を逮捕しました。数十億円に及ぶ報酬の開示義務違反や、会社資金の私的流用を行ったとされています。その後10億円の保釈保証金を支払って保釈されたゴーン氏は2019年末にプライベートジェットで密出国し、レバノンへと逃亡しました。
◆“売れる車”を開発できなくなった
なお、日産は2017年の販売台数577万台をピークに車が売れなくなりました。コロナ禍からの回復も遅れ、2023年度は344万台しかありません。北米ではEVでテスラが先行。ガソリン車販売でも日産の存在感は薄れています。最近ではEV人気も落ち着き、北米ではハイブリッド車が人気ですが、日産はゴーン時代からハイブリッド車を軽視していたこともあり、主力の「ローグ(エクストレイル)」もガソリン車しか供給していません。EV化率が年々高まる中国でも、安い中国勢を前に日産の出る幕は無く、販売台数を減らしました。国内販売も軟調であり、日産は単に“売れる車”を開発できなくなったのです。
そして12月、ホンダとの経営統合を進めると発表しました。26年8月に持株会社を設立して傘下に日産・ホンダ・三菱自動車が入る構図です。現段階でホンダの時価総額は日産の5倍。事実上、ホンダが日産を救済する形です。両者は生産体制やサプライヤーを効率化するとしていますが、正直なところホンダによるメリットが余り見えてこない経営統合です。既にEV事業に参入する鴻海が日産への経営参画を狙っていたとの報道もあり、買収を防ぎたい経産省が統合を主導したとの憶測も出ています。ちなみに日産株を手放したいルノーは今回の統合を歓迎しています。
両者の統合によって、数字上はさらに巨大な自動車グループができることになります。しかし日産の開発力が芳しくない以上、質の面で改善できるかは未知数。思い切った改革を断行できなければ、中途半端な結果に終わってしまうでしょう。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_