限定公開( 11 )
本物のズワイガニの味や食感に似せたかまぼこ「ほぼカニ」(希望小売価格350円)の売れ行きが、横歩きではなく、縦歩きのように伸びているようです。水産練り製品を扱う「カネテツデリカフーズ」(神戸市)が10年ほど前に発売し、担当者によると「累計9300万パックほど売れています」とのこと。
あっという間に同社の“稼ぎ頭”になったので、その後も横展開を始めました。ほぼシリーズとして、ホタテ、エビフライ、いくらなどがありますが、なぜ「ほぼ〇〇」といったちょっと変わったネーミングを付けたのでしょうか。同社を取材しました。
●商品開発のきっかけ
「ほぼカニ」は2014年に登場しました。この商品を開発したきっかけは、2つあるそうです。
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1つめは、同社の主力商品である水産練り製品は鍋料理などの需要が高いので、秋から冬にかけてよく売れています。社内で「夏に売れるモノをつくれないか?」という声があり、企画が始まったそうです。
2つめは、当時カニの価格が高騰していたので、社会課題を解決するために何かできないかと考えたそうです。そこで目をつけたのがカニカマでした。
ただ、スーパーの棚を見ると、競合他社の商品がたくさん並んでいます。いまからその市場に参入しても、いわゆる“後発組”になるので、同社は既存商品を超える味を目指したそうです。
ズワイガニの成分を分析し、アミノ酸の数値を近づけました。カニの繊維を研究することで、食感も似せました。また、切れ目を斜めに入れることで、カニのようなほぐれ具合を再現させたようです。
●※カニではありません
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こうして「ほぼカニ」が完成したわけですが、背景を知ると「なるほど。だから商品名に『ほぼ』が入っているのね」と思われたかもしれません。実は、最初のネーミングは「Ju-Sea(ジューシー)」でした。
水分がしっかり含まれているので「ジューシーさ」と「海の幸」を表現するために、この商品名にしたそうですが、消費者にはうまく伝わらなかったのかもしれません。他のカニカマが並ぶ中で、埋もれていたようです。
わずか1年ほどで撤退して、ネーミングを変えることに。社内からは「カニよりカニ」「やっぱりカニ」という名前が出てきましたが、現在の会長が「ほぼカニ」を選びました。というのも、当時「ほぼ〜〜」という言葉が流行っていたこともあって、この商品名にしたそうです。
さて、「Ju-Sea」→「ほぼカニ」に変えたことで、どのような反響があったのでしょうか。マーケティング部の徳永貴大さんは、次のように語りました。
「販売当初はそれほど話題になりませんでした。ただ、しばらくしてパッケージの横に書いている文言が注目されたんですよね。それは『※カニではありません』。会社としては、カニと間違えてはいけないので、真剣に考えてその文言を入れたのですが、お客さまは『おもしろいね』と受け止めていただけたようです」
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SNSを見ると「こんなにもカニの形をしておきながら『※カニではありません』って笑笑」「ふざけていると思いつつ食べてみたら、味も食感も『まずいカニよりよほどカニだった』ので『ほぼカニ』の命名に納得」といったコメントが相次ぎました。
同社は神戸に拠点を置いているので、新商品は関西を中心にじわじわ広がっていくことが多いそうですが、「ほぼカニ」は東京から広がっていきました。SNSのコメントを見ると、首都圏在住の人が盛り上がっていたこともあって、東京を中心に売れていったそうです。
●「ほぼカニ神社」を建立
そして、発売から10年。本社の敷地内に「ほぼカニ神社」を建立(2024年4月)しました。「ほぼカニ様を祀(まつ)るほぼ聖地」だそうです。
本社内の体験施設「てっちゃん工房」で、お守りを販売していましたが、お客から「おみくじなどもほしい」という声が多く、10月に御朱印とおみくじを用意しました。
神社内にカプセルトイの自販機を設置し、お守りとおみくじをセットにして販売(800円)。設置前と比べて、2〜3倍のペースで売れているそうです。
気になるのは、初めて迎える年末年始です。お守りとおみくじは、普段の5〜6倍ほど売れたそうです。
カネテツデリカフーズの本社は神戸の六甲アイランドというところにあって、周囲には工場がたくさん並んでいます。商業施設がたくさんあるわけでもなく、有名な観光スポットもありません。人通りはそれほど多くないところなので、わざわざ神社を訪れる人がいるようです。
「カニのオブジェがあるので、それを映えスポットにして写真を撮る人もいます。また、『ほぼカニ神社』に集まって、そこからマラソンやツーリングを楽しまれる人もいますね」(徳永さん)
「ほぼカニ」が順調に売れて、「ほぼカニ神社」も話題になっています。ですが、悩みもあるようです。
「販売数は伸びていますが、認知度がまだまだでして。お客さまからこのように聞かれることが多いんですよね。『ほぼホタテを販売してくれませんか?』と。以前から『ほぼホタテ』を販売しているので、この言葉を聞くと、ちょっと凹みますね。なんとかしなければいけません」(徳永さん)
冒頭で紹介したように、ほぼシリーズは累計9300万パック売れていますが、そのうち「ほぼカニ」が7800万パックを占めています。つまり、ほぼシリーズのうち、ほぼほぼ「ほぼカニ」になるので、その偏りはなんとかしたいところ。
さて、次はどんな「ほぼ」が登場するのでしょうか。アイデア次第で、新たな「ほぼ〇〇神社」が誕生するかもしれません。
(土肥義則)
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