2025年の注目選手 ヤクルト・橋本星哉(後編)
前編:ヤクルト・橋本星哉が驚異の成長曲線で正捕手戦線に殴り込み>>
今季のヤクルトはレギュラー選手を刺激する若手の台頭が待たれ、橋本星哉はその期待が大きい選手のひとりだ。昨年は二軍で103試合に出場し、打率260、7本塁打、42打点、8盗塁の成績を残した。
ギリシャ神話の英雄「ヘラクレス」のような肉体美を誇る3年目捕手は、2025年シーズンに大いなる飛躍を誓う。
【コーチも評価する捕手としての成長】
橋本はシーズン最終戦となった10月5日の広島戦(マツダ)では、「自分でも驚きました」と初の一軍登録。8回に代打で送り出されると、中継ぎ左腕のテイラー・ハーンの前にすべて空振りの3球三振。最後は151キロの高めの釣り球に手が出てしまった。
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「自分のイメージでバットに当たっている感覚でしたが、空振りして『あれっ⁉︎』となって。速い球を打つのは得意なほうなのですが、いま思えば冷静に打席に立てていなかったのだなと」
シーズン終了後に参加したフェニックスリーグと松山での秋季キャンプ期間中には「自分が三振した映像は毎日見ました」と話した。
「それを見て『おまえ、なんで三振したんだ』と。自分を奮い立たせるというか、ほんとに悔しい終わり方でしたし、絶対にやり返したい。やっぱり一軍の勝ちパターンの投手を打たないと上(一軍)に呼ばれないし、残れません。いいピッチャーを打つには、どういう取り組みをしなければいけないのか。フェニックスと松山ではそういうことを考えながらできたので、あの三振はあってよかったのかなと、今は思えています」
この試合では「思ったより緊張はなかったです」と、小川泰弘とのバッテリーで一軍初マスクも経験。1イニングを無失点で終えた。
「相手打者のデータなども頭に入っていましたし、ワンバウンドの球の捕球も去年に比べてすごく自信がついているので、一軍でも不安は感じませんでした。二軍の時とは逆で、打席のほうが緊張しました(笑)」
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衣川篤史二軍バッテリーコーチは橋本について、「捕手としてすごく成長をみせた2024年でした」と評価した。
「先発マスクを被った試合でよく勝ちました。それは経験の積み重ねもあるでしょうし、ブロッキングもかなりよくなりました。送球面は、盗塁を刺すことが増え、一軍となるとレベルアップは必要ですけど、上に呼ばれても面白いかなというところまできました。ゲームでは、ひとつ先をしっかり見て、フィールド内の選手を動かせるようになれば、もっといいキャッチャーになれると思います」
橋本自身も、捕手としての成長を感じている。
「1年目よりも試合の映像を深く見られるようになったというか、こんな時に相手打者は何を考えているのだろうかとか、このカウントならこういうボールを待っているんだなとか......。衣川コーチと試合後の振り返りで、そうしたカウントの性質の勉強を続けたことがよかったのかなと思います。ほかにも、ピッチャーの特徴をわかってきたことも大きかったです」
【ライバルひしめくヤクルト捕手陣】
今シーズンのヤクルト捕手陣は、中村悠平を筆頭に松本直樹、古賀優大、内山壮真、そこに捕手で唯一の左打ちの橋本が続き、高卒2年目の鈴木叶、中川拓真。さらに、昨年のドラフトで矢野泰二郎と松本龍之介(育成)が指名され入団。それぞれに特徴があり、激しいポジション争いが繰り広げられそうだ。
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「中村さんが戸田でマスクを被った試合を見たんですけど、やっぱり安心感がすごかった。一軍と二軍では、ブロッキングやキャッチングにそんな差はないと勝手に思っていたのですが、実際に一軍捕手を目の当たりにすると『やっぱりすげぇな』って(笑)。フェニックスリーグでは古賀さんのリードを見ることができたのですが、『うわっ、こんなリードがあるんだ』『こういう引き出しがあるんだ』と、すごく勉強になりました。後輩の鈴木もすごくいいものを持っていますし、負けられないですね」
そして橋本は「少しでも多く一軍の試合に出たいので」と、今はサードの守備にも挑戦している。昨年秋の松山キャンプでは、独立リーグとの練習試合でサードとしてフル出場。3つのゴロを処理した。
「サードにはムネさん(村上宗隆)がいますけど、挑戦することはプラスになることが多いと思っています。サードの練習も、スローイングや足の運び、ハンドリングなど、キャッチャーの守備にも生きると思ってやっています」
橋本の最大の魅力はやはりバッティングで、豪快なフルスイングは見るものに期待を抱かせる。先の松山キャンプでのロングティーでは打球が場外へ消える一打もあり、打球速度は160キロに到達することもあった。
「ただ自分としては、もっと柔らかいスイングをしたいんですよね。どうしても打ちたいという気持ちが強くなると、力が入りすぎてしまう。去年の盛岡での楽天戦で左中間にホームランを打ったのですが、この時の打席はこれまでの人生のなかでも一番の感覚でした。力なく打てたというか、今はそういうスイングができるように取り組んでいます」
今シーズン、目指すところについて聞くと「ちょっと高い目標ですけど」と前置きして言った。
「一軍で打率3割、ホームランは10本くらい打てたらと。できないことはないと思っていますし、自信を持ってやりたいですね。あとはケガなくやりたいです」
12月は戸田で同期の北村恵吾や、後輩の鈴木叶、高野颯太と自主トレ。朝8時半から1時間半ほどウエイトで鍛え上げ、その後は戸田球場で走り込み、室内練習場で1時間以上バットを振り込んだ。
年が明けると、橋本は川端慎吾、山田哲人、中村悠平らと松山での自主トレに参加。
「去年は、慎吾さんに聞きたいことを聞けずに終わってしまった。今年はバットの出し方など、いっぱい聞いてやろうと思っています! そして2月のキャンプで『コイツ、しっかりしたオフを過ごしたな』と思われるようにやっていきたいです」
「美女木のヘラクレス」から「神宮のヘラクレス」へ──橋本の鍛錬は今日も続いている。