【あの食トレンドを深掘り!Vol.60】日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。
「冷凍サバ」の検索がクックパッドで上昇中
家計に厳しい物価高が続く、今日この頃。サバが再び、脚光を浴びている。今回人気を集めているのは、値上げされたサバ缶ではなく冷凍サバフィレである。クックパッドのレシピ検索データサービス「たべみる」によると、2024年の冷凍サバフィレの検索頻度は、前年比256.9パーセントと大幅に上昇し、昨年12月に発表した同社の「食トレンド予測2025」に選ばれている。
冷凍サバフィレは、まとめ買いできる業務スーパーなどの商品が人気。割安で保存しやすいだけでなく、あらかじめ骨を取ってある同チェーンの商品は「扱いが簡単」、とSNSやウェブレシピ記事でトマト煮込み、カレー、アヒージョ、竜田揚げといったさまざまなアレンジレシピが紹介されている。
割安で扱いやすい魚は、確かにありがたい。魚の家庭消費の減少傾向が長年続いている要因には、肉より割高になってしまったことや、肉より鮮度が重視されるため頻繁に買い物できない現役世代に買いづらい場合があることも大きいからだ。しかし、保存ができ割安な冷凍サバなら、こうした問題に悩まされにくい。アレンジすれば、食卓のマンネリ化も防げる。ヘルシーイメージの青魚を日常的に食べたい、という人は多いだろう。
国産よりノルウェー産のサバが好まれる訳
そしてもう一つ、人気の要因として考えられるのが、味の良さだ。冷凍サバのおすすめ記事やレシピ情報サイトでは、たいてい「脂がのってジューシー」と説明がある。これは、すっかり定着したノルウェー産サバの特徴なのだ。
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今、日本で消費されるサバの約半分がノルウェー産である。大戸屋その他の外食店、テイクアウトの弁当や総菜などでよく使われており、福井県の伝統保存食のへしこ、そしてコストコの冷凍サバもノルウェー産である。
朝日新聞デジタルが1月4日に配信した記事「(一皿から見える世界:3)ノルウェーのサバ 日本の情熱、新鮮輸出の秘密」によると、ノルウェーから日本へのサバの輸出が始まったのは1980〜1990年代。サバをあまり食べないノルウェーで、養殖用の餌にされていたのに日本企業が目をつけたのがきっかけだった。
『プレジデントオンライン』2024年4月1日配信記事「なぜ日本のサバは『小さくてイマイチ』になったのか…こだわる店ほど国産よりノルウェー産に変わった理由」によると、ノルウェーから輸入が始まった時期は、日本のサバの漁獲量が減り始めた時期と一致する。日本で獲れるサバは小さ過ぎて脂があまりのっていない傾向があり、安定した品質でなくなっている。そのため外食店などが、敬遠するようになってきたのだ。
一方、ノルウェー産のサバは年々品質を上げてきた。『nippon.com』2022年10月22日「サーモンと共に日本に浸透するノルウェー産サバ:かつて酷評も、質の良さで人気獲得」によると、輸入が始まった当初は、「脂がきつく、魚体のしま模様が目立つのも見慣れない」と市場関係者が、消費者の拒否反応を懸念していた。しかし、現地の加工会社は品質管理の改善に努め、日本の水産関係者もアドバイスを続けてきた。また、ノルウェーでは厳しい資源管理を行ってきたこともあり、大きめのサバを安定的に漁獲できる。30〜40年前に欠点とされた脂の多さは、おそらく解消されたのではなく、日本人の好みが変わってむしろ長所と捉えられるようになったのだろう。だから今、「脂ののりがよくジューシー」と評価されるのだ。
減り続ける魚の消費、復活のきっかけになるかも?
世界でナンバー1の魚食大国だったはずの日本。しかし、水産庁がFAO(国連食糧農業機関)の「FAOSTAT(Food Balance Sheets)」と農水省の「食料需給表」に基づいて作成したグラフを見ると、1人1年あたりの食用魚介類の消費量は、2006年に韓国に抜かれ、2010年にノルウェー、2019年にインドネシアに抜かれ、と順位を下げ続けている。寿司ブームをはじめとする日本食の人気が、他国での魚食人気につながっている側面もある。
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日本人にとって魚は身近な存在だったが、下処理の手間がかかるうえ、鮮度重視ゆえにかえって敬遠されているところもある。サバ缶や冷凍サバの流行は、それらの問題さえなければ、魚料理を作って食べようとする人たちが今でも多いことを明らかにした、とも言える。肉料理もマンネリ化しやすい、と悩む台所の担い手は多いはず。資源確保の問題にも気を配りつつ、アレンジ技術を磨いて改めて魚を見直したい、と年の初めに改めて思うのである。