サービス業、とりわけ飲食業界に長くいると、いろんなタイプの客に遭遇します。特に、営業の妨げになるような行為には閉口してしまいますよね。
それらの多くは、ずうずうしい、や、非常識、といったワードがピッタリかもしれません。今回、貴重な体験を打ち明けてくれた男性も、客のあきれた態度に困り果てた一人です。
◆高級中華レストランに来る迷惑客
都内某所にある高級中華レストランで働く吉富さん(仮名・42歳)。以前は自動車の営業マンをしていたそうですが、異業種に転職して早15年がたとうとしていました。
そんな吉富さんに「迷惑な客とは?」という直球な質問を投げてみたところ…
「最近は、店側と客とが対等になりつつありますが、以前は『お客様は神様』の時代が全盛でしたね。やはり一番多いのが『怒鳴る客』でしょうか。
注文が遅いとか、メニューと写真が違うとか……。次に迷惑なのは『長居する客』ですかね。悪気はないのでしょうが、混んでいる時なんかはもう少し空気を読んでほしいというか……。
ま、無銭飲食とか、警察沙汰になる客は別枠ですけどね。ただ、最近はあまり見なくなったかな」
◆客は見た目では判断できない
ただ、迷惑な客は見た目では決して判断できないと語る吉富さん。
「先日も驚いたことがあったんです。品の良い感じの母親と大学生くらいの娘さんが訪れて、ぎょうざとラーメンとしゅうまいを頼まれました。
しばらくしてその親子が席を立ち、会計レジへ向かったかと思うと『いい加減なこと言わないでよ!詐欺みたいじゃないの。店長を呼んで!』とかなりの大声でレジの女の子をまくしたてていました。
慌てて私が駆けつけると、どうやら無料クーポンの期限が切れていて、それを伝えたら逆上し始めたんです。こちらには非はないのですけどね」
一見上品そうに見えても、そうやって豹変する客は少なくないそうです。
「もちろん、その真逆もありますよ。失礼な言い方なのですが、どうみても浮浪者のような汚れた身なりの客が来店し、その後に同じような身なりの友人が来店し、結局宴会のような大盛り上がりとなって、キャッシュで12万円ほど支払った客もいましたね。
その客は、高校生のアルバイトに5000円のチップまで渡していましたよ」
吉富さんほどのキャリアになると、さまざまな客に遭遇しているようです。
◆一向に注文してこない5人家族の悪事
ただ、つい最近遭遇した客は、吉富さんも目を丸くしていたそうです。
「その日は、電話で予約を受けていた5人家族が時間通りにお店に到着し、奥にある個室に通しました。ウチの店は、繁忙期でなければ無料で個室が利用できるので、よくある光景なんですよ」
ところが、部屋へ案内し、しばらくしても一向に呼び出しベルが鳴らなかったといいます。
「何度か個室のドア越しに『ご注文はいかがでしょうか?』と丁寧に尋ねたのですが、その後も呼び出しベルは鳴らず、3〜4回は足を運びましたかね。
厨房の前で困った様子を見せていると、店長がやってきて『吉富、元気ないじゃないか。え?あの個室、5人家族?もしかして…。俺、見に行くわ』と、店長自らが個室の様子を見に行きました」
店長の後に続いて個室に出向き、吉富さんはとんでもない光景を目にしたといいます。
「一瞬自分の目を疑いました。円卓の上には、コンビニ弁当や惣菜が所狭しと並んでいたのです。すると、客の男性が『わかってるよ、ビール1本と卵スープを頼むよ』と言ってきたのです」
◆出入り禁止に相当する事案だった
店長は、客の男性に向かって毅然とした態度を取ったと言います。
「お客さん、注文いただかなくて結構です。その代わり、退店をお願いします。そして、申し訳ありませんが、今後は当店をご利用しないでください」
と、はっきりとした口調で伝えました。店長の真剣な態度に、客の子供は泣きべそをかき、母親だと思しき女性は頭を下げ、すぐに店を出て行ったといいます。
「あとで店長が教えてくれたのですが、最近、お店の周辺で同様の問題が発生しているらしいのです。無銭飲食ではないので警察沙汰にはできないようですが、今後この辺りのお店は利用できなくなるでしょうね。
しかし、不思議な客でしたね。子供たちに高級店の雰囲気でも経験させたかったのでしょうか」
それ以来、吉富さんのお店周辺で迷惑客のうわさは聞かなくなったそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営