「いずれ強制的に出ていかされると思っとったわ」大阪万博の裏で進む“浄化作戦”。追いやられる住人たちに聞いた本音

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2025年01月27日 09:11  日刊SPA!

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大阪市役所前のミャクミャク像。大阪万博の公式キャラクターだが人気はイマイチでグッズの売れ行きも悪いとか
 55年ぶりに大阪で万博が開催される。開幕が迫っているというのにあらゆる問題が噴出中だ。西成では野宿者が強制退去させられ、夜の街では風俗の摘発が相次いでいる。大阪はどう変わってしまうのか。現地を訪ねてみた。
◆万博開催を目前に進行する浄化作戦

 大阪湾沿岸にある人工島・夢洲で’25年4月13日に開幕する「2025年大阪・関西万博」(以下、大阪万博)。残すところ、約100日。気がかりなのは大阪万博の人気面だ。

 前売り券は目標数の約半数近くが売れ残っている。計画当初から夢洲の軟弱地盤や土壌汚染などの報道が相次ぎ、建設資材や人件費の高騰で会場建設費が2度の上振れ。

 予定の約2倍、2350億円という費用も市民を不安にさせる。

「今後の焦点は万博開催の余波で、浄化作戦がどれほど広範囲に及ぶかです」とは在阪メディア関係者だ。その意図をこう解説する。

「今から35年前、1990年4月に大阪で開催された『国際花と緑の博覧会』(以下、花博)では、キタやミナミの路上生活者が強制的に排除され、その多くが西成のあいりん地区(通称・釜ヶ崎)に移住した。今回の大阪万博でも路上生活者を外国人観光客に見せたくないのか、“いらんもの”扱いしているのが現状です」

◆追いやられてたどり着いた「あいりん」なのに、またも追われることに

 そして’24年12月1日、日雇い労働者の街・西成の労働者支援施設「あいりん総合センター」から野宿者を立ち退かせる強制執行を大阪地裁が実行。

 建て替えを理由に’19年に閉鎖された同センターだったが、その後も敷地内で寝泊まりしていた野宿者やその荷物を強制的に撤去した格好だ。

 実際に西成を歩いてみると、まず驚いたのは野宿者の激減ぶりだ。街中も清掃員が定期的に訪れているようで路上のゴミも少ない。

 あいりん総合センター前で出会った70代男性野宿者に声をかけると、「1992年に宮崎県からあいりんに来たんや。もう頼るところもないし、そこの高架下で寝泊まりしてるわ」と言う。

◆強制退去の日雇い労働者「万博なんて興味ないわ」

 60代男性野宿者はさらに辛辣な言葉で訴える。

「いずれ強制的に出ていかされると思っとったわ。万博前までに終えたかったんやろな」

 とはいえ、日雇い労働者の高齢化も深刻。生きていくだけで精いっぱいのようだ。

「万博なんてどうせ行くこともないんやし、俺らには関係ない。興味もないわ」

◆風俗遊び外国人が増加し警察当局が牽制中

 大阪万博開催による浄化作戦は“夜の街”にも及ぶ。10月には京橋と堺東のピンサロなど3店舗が一斉摘発された。

 花博でも同様に風俗店が狙い撃ちされて大阪市内のソープランドが全面廃業となった過去がある。今、何が起こっているのか、風俗専門の広告代理店の代表者に話を聞いてみた。

「今回の万博を警察当局がどう見ているのか、’24年の動向から推察できます。夏に富山県警と神奈川県警が風俗店経営者を呼び出して聞き込み調査をした結果、浮き彫りになったのが風俗店とスカウトの蜜月関係。スカウトバックは足がつかないようにレターパックで郵送するとか、専用のアプリを通じて情報を共有するとか、当局が詳細を把握したわけです」

 この情報を基に風営法が改正され、スカウトやホストの規制が厳格化される見通しだ。同氏によれば「大阪市内の風俗店の9割がスカウトに依存。特に万博が開催される大阪は真っ先に手入れされる地域で、風俗店は戦々恐々としている」という。改正の内容次第では潰れる店も現れるだろう。

「現在の刑罰はスカウトのみ。それを今度の改正で風俗店側も対象とするようです」(同)

 さらに、円安に加えて、万博開催で訪日需要が高まる外国人客も懸念材料だという。

「最近、大手風俗サイト運営会社に警察によるガサ入れがあった。表向きは求人に関しての調査でしたが、同社が運営する外国人客向けの風俗サイトを問題視したんです。外国人客を増やそうとする動きに対する警察の牽制なんじゃないかと言われています」(同)

◆“ちょんの間”にもインバウンドの波は押し寄せているが…

 外国人客の受け入れが進むのは“表風俗”だけではない。飛田新地や松島新地といった“ちょんの間”も外国人客が普通に遊ぶようになりつつある今、万博による浄化の波が迫っている。

 夜の20時過ぎ、九条駅で降り、住宅街の一画に位置する松島新地を訪ねた。日曜日で人通りこそまばらだが、開いている店は多い。

 ピンク色のあやしい光に吸い寄せられるように店を覗くと、女性の脇には英語や韓国語で手書きされた案内が張られていた。

 松島新地では’24年10月、ホストの売掛金が払えなくなった女性客に買春させたとして、料亭5軒の経営者と系列のホストらが逮捕された。この一件は、裏風俗のある事情が複雑に絡んでいる。

「裏風俗だから風俗求人誌の掲載は不可。厳禁と言われながらホストやスカウトに頼るのはそんな事情からです」(元松島新地の料亭店主)

 万博期間中、大混雑が予想される飛田や松島などの新地に対して行政はどう規制するのか。’19年のG20のときには飛田新地の料亭は店先に暖簾をかけた。

 今回も同様に、当局は“見せたくない大阪”を隠すのだろうか……。

◆万博開催に沸く在阪中国人

 万博開催の余波で揺れる西成では、恩恵を受ける人たちもいる。在日中国人たちだ。

 西成が格安で飲めるグルメタウンとしてブームとなる中で、繁栄の先駆けとなったのは中国人が経営する“カラオケ居酒屋”。約15年前にオープンしたカラオケ居酒屋「えいちゃん」の中国生まれのママ・中下英子さんが語る。

「オープン当時はカラオケ居酒屋がまだ5軒しかなく、この商店街もみんなシャッターを閉めてて真っ暗。商店街はオシッコ臭くて、路上で薬を売ってる人も多かったんやから」

 当時の客層は日雇い労働者がメインで路上生活者も少なくなかった。だが、現在は観光地化が進行。街は激変した。

「この街がもっと綺麗になって、万博で大阪の地名がもっと有名になればみんな幸せ違う? 最近、外国人のお客さんも増えて、この前はイギリスの有名YouTuberが来た。西成の雰囲気が好きなんだって」(中下さん)

 西成の価値を上げたのは間違いなくカラオケ居酒屋の存在と、中国人らの土地取得だ。西成の地価は約15年前と比べて3倍の価格がついている。

「万博後も地価が上がると息巻くのは中国人です。日本人は万博後に下がると思っているので、ミナミの歓楽街で売りに出るビルも価格競争をするとほとんど負ける」(大阪市内の不動産業者)

 西成には中華街構想もある。この勢いはまだ続きそうだ。

取材・文・撮影/加藤 慶 写真/産経新聞社

―[[大阪万博]の意外な余波]―

このニュースに関するつぶやき

  • でもテントがダメなら簡易的な建物に寝起きだけでも提供してあげないと。暑さ寒さ風雨は命の危険があるのだから。
    • イイネ!12
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