栄養豊富で安価な卵。毎日のように食べている人も少なくないが、「1日1個まで」や「何個食べても大丈夫」といった具合に“食べていい個数”が話題になることも。実際のところはどうなのか、帝京大学福岡医療技術学部教授の佐藤典宏医師に話を聞いた。
“上限撤廃”が招いた「何個食べてもいい」という誤解
卵の“食べていい個数”のことで話がややこしくなった原因は、間違いなく2015年の「日本人の食事摂取基準」の改訂にあるという。
「改訂されるまでは、『食品から摂取するコレステロールは1日これくらいまでにしましょう』という摂取基準が決まっていたため、その基準値から換算して、コレステロールを多く含む鶏卵は『1日1個まで』と言われていました。ところが、2015年の改訂でその上限が撤廃されたため、何個食べてもいいんだという認識が広まったのだと思います」(佐藤先生、以下同)
コレステロールは脳梗塞や心筋梗塞といった怖い病気を引き起こす動脈硬化につながるから上限が決まっていたはずなのに、なぜ国は撤廃したのか。
「コレステロールには『食べ物に含まれるコレステロール』と『血中のコレステロール』の2種類があり、たしかに血中コレステロールは血管を傷つけますが、コレステロールを含む食べ物を食べたからといって、それがそのまま血中コレステロールになるわけではないのです」
|
|
どのくらいコレステロールを食べると血中コレステロールに影響するのかは個人差が大きく、人それぞれということが近年の研究で明らかになり、少なくても健康な人は気にしなくていいということになり、撤廃されたのだという。
では、健康に問題ない人は、卵を1日2個3個と食べて問題ないということなのか。
「いいえ、そういうわけではありません。気にしなくていいのはあくまでコレステロールの話。もっと深刻な問題は残っています」
4686人の日本人女性を15年にわたって調べた大規模研究の結果が『European journal of clinical nutrition』という雑誌の2017年12月29日号に掲載されたのだが、それによると卵の摂取頻度は、血中コレステロール値にも、動脈硬化が主な原因の心筋梗塞などによる死亡にもたしかに関連は見られなかったが、ある病気と明らかに関係していたのだという。
それが、日本人の死因1位のがんだ。
|
|
コレステロールより要注意な「飽和脂肪酸」
「日本人だけでなく、海外の研究でも卵とがんが関係しているという結果が出ています。過去に世界中で報告された卵と死亡リスクについての33件の研究をまとめて解析した研究によると、卵をもっとも多く摂取するグループはもっとも少ないグループに比べて、すべての死因による死亡リスク、心血管病、心臓病、脳卒中、呼吸器疾患による死亡リスクはいずれも有意な差はありませんでした。しかし、がんによる死亡リスクだけは、20%高くなっていたのです」
なぜ卵は、がんのリスクを高めてしまうのだろうか。
「がんの発症リスクをなぜ高めるのかというメカニズムに関しては、まだ詳しくはわかっていませんが、おそらく卵に含まれる飽和脂肪酸が関係しているものと思われます。卵にはたしかにコレステロールが含まれていますが、飽和脂肪酸という成分も多く含まれているのです」
卵100グラムあたりに含まれるコレステロールは420mgだが、飽和脂肪酸は2840mg。飽和脂肪酸のほうが格段に多いのだ。
「飽和脂肪酸はかなり注意しないといけない食品成分です。フランスにおける大規模調査では、飽和脂肪酸の摂取はすべてのがんのリスクを44%高め、乳がんにいたっては98%高めるという結果が出ています」
|
|
飽和脂肪酸はバターやラード、肉の脂身にも多く含まれているが、私たちが日常的によく食べているのはやはり卵だろう。
「卵はとてもいいたんぱく源ですので、栄養学的なメリットは非常に大きいですが、その一方で、食べすぎるとがんのリスクが高くなることは間違いありません。さきほどの日本人女性の調査では、卵を1日に1個食べるグループに比べて、1日に2個以上食べるグループでは、がんによる死亡リスクが3.2倍になっていました。卵はやはり、『1日1個以内』を原則にすることをおすすめします」
いまは2人に1人ががんになる時代だが、逆に言えば、2人に1人はがんにならないということ。できればそちら側に入りたい。がんのことを考えるなら、卵は1日1個までが正解のようだ。
佐藤典宏先生●がん専門医。九州大学医学部卒、帝京大学福岡医療技術学部教授。著書に、がんのリスクを下げてくれる“抗がん食材”を使ったレシピ集『がんにも勝てる長生きスープ』、『がんにも勝てる長生き常備菜』(主婦と生活社)がある。
◇ ◇ ◇ ◇
がんの発症リスクを上げるのは、卵だけではありません。【関連記事】「がん専門医が警告! がんのリスクを確実に上げる“定番の朝食食材”と“人気のカフェドリンク”」も一緒に参考にしてください。