令和の米騒動で外食の「お代わり無料」が危機に? 対応分かれる各社の現状

133

2025年01月31日 11:11  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

外食チェーンの「お代わり無料」はどうなる?(画像:ゲッティイメージズ)

 米の価格が2024年夏から高止まりしている。秋口には新米が流通するようになり、農林水産省によれば全国的に水稲の作況指数は101だった。特段の不作でもなかったことから落ち着くと見られたが、一向に落ちる気配がない。


【画像】「お代わり無料」を続けるチェーン、「大盛り無料」に切り替えたチェーン、ご飯・みそ汁だけでなくキャベツのお代わり自由も続けるチェーン(計12枚)


 年間契約を結んで一般家庭よりも安く米を調達できていた外食各社は、更新時に価格上昇を受け入れざるを得ず、経営に響いてきている。天丼「てんや」、とんかつ「平田牧場」のように、お代わり無料サービスを取り止める動きも一部で出てきた。


 一方で「とんかつ 和幸」「やよい軒」「吉野家」「松のや」「宮本むなし」など、従来と変わらずご飯お代わり無料を続けているチェーンも多い。苦しみながら、いったんは歯を食いしばって耐えている、というのが実情だろう。


 1月24日には、江藤拓農林水産大臣が備蓄米を条件付きで放出する計画があると明かした。まだ決定ではないが、価格安定のために備蓄米を活用するのは初の試みであり、実現に至るのか、注目だ。


 そうした中、各社のご飯お代わり無料はどうなっていくのか、取材した。


●令和の「米騒動」、平成超えの価格高騰


 農林水産省によれば、米の値段が上がったのは、2024年8月8日に発生した地震で気象庁が初となる「南海トラフ臨時情報」(巨大地震注意)を発表したのが一つのきっかけ。災害に備えて主食である米のパニック買いが起こり、スーパーなどの店頭から米がなくなる現象が起こった。それ以来、品不足によって、米の価格の高騰が起こっているとのことだ。


 農林水産省がまとめた「相対取引の推移」によると、2023年度における1等米の年度平均価格は、1万5315円/60キロ。過去のデータを参照すると、やや高めの水準だが突出して高いわけではない。


 上昇を見せたのは2024年8月だ。同年7月から3%ほどの上昇を見せた。やはり、南海トラフ臨時情報によって、消費者が米を買いに走った影響と見られる。さらに激しいのは2024年度(2024年9月〜2025年8月)に入ってからだ。


 2024年9月は、過去最高となる2万2700円でスタート。以降も上昇を続けており9〜12月の平均価格は2万3715円。2023年度平均の1.5倍以上だ。出荷業者と卸売業者などとの取引価格としては、比較可能な1990年以降で過去最高となっていて、なお上昇しているのが現状である。農林水産省や全農によれば、スーパーや外食などが農家と直接交渉するケースが増え、農協に納める米が減っているという。


 米は決して全国的に不作ではなく、需給バランスは取れているはず。減反政策も2018年に取り止めており、直接の原因ではない。


 仕入価格がこれだけ上がってしまえば、飲食店もコストを吸収するために、値上げを検討せざるを得ない。ご飯お代わり無料をサービスにしてきた店は、非常に厳しい状況だ。現状では継続するチェーンが多数派だが、これ以上、米の価格が上がれば、対応も変わるだろう。


 お代わり無料を廃止したのは「てんや」。天ぷら定食各種で実施していたが、2024年11月7日に終了。以降はご飯大盛が無料となっている。同日には天丼を30円値上げした。


 さらに、2月13日には天丼を30円値上げする。天丼はみそ汁付きで620円、天ぷら定食は820円となり、コンビニの弁当の価格も上がっている現状、特別高いとまではいえないだろう。


 平田牧場が運営する店舗では、2024年9月1日からお代わり無料を休止し、50円の追加料金が必要に。平田牧場では自社農場で育てた「つや姫」を使用していたが、2023〜24年のは猛暑の影響で不作、品質低下に悩まされた。ご飯大盛無料は、引き続き実施している。


●なぜ「やよい軒」はお代わり無料を維持できるのか


 反対に、お代わり無料を続けている筆頭が、プレナスの運営するやよい軒だ。同チェーンはお代わり無料が代名詞でもあり、セルフサービスなこともあってか何杯もお代わりしている大食漢を時々見かける。お茶や水の提供、、だし茶漬けを作れる「だし」もセルフサービスであり、注文と会計もタッチパネルで済ませる省人化が進んでおり、節約した分をご飯を含めた料理に回せる仕組みを整えている。


 とはいえ、お代わり無料を維持するのは厳しいのか、ジリジリと価格が上がっている。1月8日には各メニューを40円値上げし、朝食各種とお子様メニューは20円増となった。ちなみに、やよい軒は過去に一部店舗でお代わりを有料化する実験を行った。ユーザーからの不満が殺到して、無料に戻した経緯がある。


●お代わり無料は維持しつつ、メニュー全体の値上げが目立つ


 定食業態では、M&S フードサービス(大阪市)が関西・中部で展開する宮本むなしも、お代わり無料を維持している。同社によると、今後も変更はないようだ。やよい軒同様に、各種メニューの価格はジワジワと上昇しているが、全般に手の届きやすい価格設定は維持している。


 吉野家グループでは、吉野家やカルビ丼とスンドゥブの専門店「かるびのとりこ」で定食・御膳のご飯お代わり無料サービスを行っている。吉野家であれば「から揚げ定食」(767円)、「牛カルビ定食」(767円)などが対象であり、他チェーンと比較すると相対的にリーズナブルだ。


 吉野家では、ご飯大盛も無料であり、大盛のお代わりをすることも可能。2024年7月29日に牛丼並盛を468円から498円に改定するなど値上げをしているが、たくさん食べたい人にとっては、まだまだ安価でコスパの良い食事が可能となっている。


●ご飯お代わり無料を続ける松のや


 松屋フーズグループでは、とんかつ専門店・松のやで、定食がご飯お代わり無料である。最も安価な「ロースかつ定食」(630円)は、価格に対する満足度が高い。「ダブルロースかつ定食」も980円で1000円以内に収まる。


 松のやでも2024年8月9日に一部商品を値上げした。旧価格ではロースかつ定食が600円を切っていたものの、昨今の事情からお代わり無料を維持する上で値上げも必要だったのだろう。運営する松屋フーズホールディングスは「今のところご飯お代わりを止める話はないが、あまりに米価が上がり過ぎると分からない」と、価格動向を注視している。


 ねぎしフードサービス(東京都新宿区)が運営する牛たんの「ねぎし」も、麦飯のお代わり無料を維持している。 2022年には「ミートショック」(飼料高騰などにより食肉価格が高騰する現象)があったにもかかわらず、今後も続けていく方針だ。看板の「白たん厚切りセット」は現在2600円と高価だが、1000円台の鶏や豚のメニューも出しながら、コスパ重視のニーズに応えている。


●米だけでなくキャベツも無料「和幸」の対応


 ご飯、みそ汁、さらにはこのところ値上げが著しいキャベツまでもお代わり無料なのが、とんかつ 和幸だ。現在、とんかつ専門店で目にすることも多いご飯などのお代わり無料スタイルつくった元祖とされる。


 経営する和幸商事(神奈川県川崎市)によれば「葉物野菜の値段は変動が大きいので、いずれ収束に向かうのではないか。ご飯、みそ汁も変更はない」とのこと。キャベツの値段については楽観的に見ているようだ。みそ汁はしじみ汁、キャベツとご飯もお代わり無料と、たっぷり食べたい人が支持している。


 備蓄米を蓄えたまま、このまま政府が放置していれば、米の価格はさらに上がり、家計を圧迫するだけでなく、外食の価格もさらに上げざるを得ないだろう。値上げを抑える上で、お代わり無料を止める動きは加速する可能性が高い。より安価な海外のカリフォルニア米などを導入する動きも増えていくのではないか。


(長浜淳之介)



このニュースに関するつぶやき

  • ご飯お代わり無料は悪魔のささやき。肥満や糖尿病への第一歩...><
    • イイネ!9
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(95件)

ニュース設定